アドビが提唱するモバイル×デスクトップの新ワークフロー - Adobe MAX 2015基調講演
Adobe Systemsが主催するクリエイティビティ・カンファレンス「Adobe MAX 2015」が、米カリフォルニア州ロサンゼルスにあるロサンゼルスコンベンションセンターおよびマイクロソフトシアターにおいて、現地時間の10月5日より開幕した。これから7日までの3日間にわたって、基調講演を含む数百のセッションが開催される。Adobeの発表によれば、今年の参加者数は7000人にのぼり、過去最多だという。
初日の基調講演では、同社CEOのShantanu Narayen氏(以下、Narayen氏)や、Seinor VicePresidentでありCreative CloudのGeneral Managerを務めるBryan Lamkin氏(以下、Lamkin氏)などが登壇し、Adobe Creative Cloudで提供される新しいツールや革新的な新機能、そしてそれで実現する新しいワークフローについて発表された。
○Creative Cloudで実現する「コネクテットワークフロー」とは?
Adobe Creative Cloudは、Adobeが提供するさまざまなクリエイティブツールと、各種ツールをデバイスをまたいで連携させるクラウドサービス、そしてマーケットプレイス機能やコミュニティ機能などがセットになった、クリエイターのための統合サービスである。
Lamkin氏は、現在のCreative Cloudを特徴づける3つの要素として、「コネクテッドワークフロー」「Creative Liberary」、「Adobe Stock」を挙げた。3つめの要素としてあげられた「Adobe Stock」だが、これは今年リリースされたばかりのストックフォトサービス。さまざまなサービスを包括するCreative Cloudにおいて、現在特に重要なコンテンツとして挙げられた。
「コネクテッドワークフローと」は、他のツールや他のクリエイターとシームレスに連携して実現する新しいワークフローである。これを実現するために中心になっているのがCreative Cloud 2015より搭載されている「CreativeSync」だという。CreativeSyncとは、Creative Cloudで提供されるさまざまなツール間で、デスクトップ/モバイルを問わずにアセットを自動で同期する技術のこと。ファイルや写真、ベクターグラフィックスだけでなく、フォントやブラシ、カラーパレットなども最小限のタイムラグで同期することができる。
「Creative Library」。これはクラウド上の共有ライブラリで、各種クリエイティブツールからアクセスできるだけでなく、他のCreative Cloudメンバーとも容易に共有することができるようになっている。CreativeSyncがそれぞれのツールのアセットをCreative Libraryに同期することによって、ツール間の連携がシームレスに行えるようになり、Creative Cloud全体をひとつの巨大なクリエイティブツールに見立てることが可能となる。
これらの技術によって、デスクトップやモバイルの垣根を越え、複数のツールを行き来しながら作品を作り上げる新しいワークフローを実現することができる。
複数のクリエイターによる共同作業も、タイムラグ無く行うことが可能とのこと。基調講演では、さまざまなデモを通して、実際にこのツールをまたいだ新しいワークフローで作品を作り上げる様子が紹介された。
●モバイル端末でレタッチを実現する新アプリ
○2つの新モバイルアプリを発表
基調講演ではさまざまな革新的な機能が紹介されたが、その中で特にAdobeが力を注いでいると感じたのがモバイルツール群の拡充だ。今回、新たにふたつのモバイルアプリが発表された。ひとつが「Adobe Capture CC」、もうひとつが「Photoshop Fix」である。
「Capture CC」は、Adobe Brush、Adobe Shape、Adobe Color、Adobe Hueといった既存のモバイルアプリをひとつに統合したもの。これらは作品そのものを制作するためのツールではなく、ブラシやシェイプ、カラーテーマといった、作品制作のための素材を集めるためのツールである。これまではそれぞれが単体のアプリとして提供されていたが、そのラインナップを刷新して、"素材集め"のための機能を提供するツールとなったのがCapture CCというわけだ。
「Photoshop Fix」は、モバイル端末で撮影した画像を修正することができる新しいレタッチアプリで、ブラシ加工やゆがみ修正などといった処理を行うことができる。Photoshop Fixは、同社がデスクトップ版Photoshopの開発で培ってきた技術に基づいて開発されており、極めて高性能な処理を実現しているとのことだ。
この2つの新アプリのリリースに加えて、Photoshop MixやPhotoshop Sketch、Illustrator Draw、Comp CC、Premiere Clipといった既存のアプリについてもアップデートが行われており、よりパワフルな作業を行うことができるようになっているとのこと。
これらのモバイルアプリは10月5日時点ですでにリリースされており、インストールまたはアップデートすることですぐに利用を開始することができる。
また、デスクトップ側のモバイル対応強化の一環として、モバイルアプリとの連携可能なUXデザインのための新しいデスクトップアプリも紹介された。この新アプリは「Project Comet」のコード名で開発中とのことで、今回の基調講演では初めてそのデモが公開されている。
○タッチ操作に最適化したタッチUIも拡大
基調講演では、上記の他にも、デスクトップアプリに関するさまざまな機能強化や、タブレット端末の画面に最適化されたタッチUIの拡張、今年6月に始まったストックフォトサービス「Adobe Stock」へのビデオコンテンツの追加などが発表された。また、モリサワグループとの提携によって、Typekitにおいて20種類のモリサワグループ書体が利用できるようになったこともこの日に発表されている。
タッチUIについては、これまではIllustrator CCおよびPhotoshop CCに搭載されていたが、次のアップデートでInDesign CC、Premiere Pro CC、After Effect CC、Charactor Animateといったその他のデスクトップアプリにも搭載されることが明らかにされている。近年ではタッチディスプレイを搭載したノートPCや、WindowsなどのデスクトップOSを搭載したタブレット端末なども普及しはじめている。そこでAdobeでは、それらの端末でも十分なクリエイティビティを発揮できるように、タッチ操作可能なディスプレイへの対応を重要視しているとのこと。現場レベルでどのようなUIがタッチ操作に適しているのか、今後も継続して改善を進めていくとのことである。今回の発表について、Lamkin氏は次のように締めくくっている。「このリリースはクリエイターの皆さんにクリエイティブの自由を与えるものです。そして逆に、クリエイターの皆さんも、そのすばらしい仕事によってAdobeに大きなインスピレーションを与えてくれています。引き続きすばらしい仕事をしていただきたいと思います」
そして最後に、「いい写真を撮るためにはいいカメラが必要でしょう」と語り、Adobe MAXの参加者全員に富士フイルム社製のディタルカメラ「X-T10」をプレゼントすることを発表して、会場を大いに沸かせた。