大学デビューの落とし穴 (13) 10月:デキる学生への嫉妬心をどうするべきか
大学1年生のみなさん! 「大学デビューのホントのところ」、知りたくないですか? 本連載は、かつて大学デビューに半分成功・半分失敗したトミヤマユキコ(ライター・大学講師)と清田隆之(恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表)が、過去の失敗を踏まえ、時に己の黒歴史を披露しながら、辛く苦しい学生生活を送らないためのちょっとした知恵をお授けする。そんな連載です。
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○嫉妬が卑屈を呼ぶ状態は危険
10月になり、後期の授業がはじまったわけですが、その前にありましたよね……そうです! 成績発表です! 好成績に喜ぶ者、思わぬ不可を食らい悲しむ者、あれだけ頑張ったレポートがなぜC評価なのか1ミリも納得いかない者……みなさんの顔が目に浮かぶようです。
それにしても、不思議だと思いませんか? 大学というのは、一応「同じくらいの偏差値集団」で構成されているハズじゃないですか? それなのに、成績発表というフタをあけると、引くぐらい成績に差がある。もちろん、同級生の中には、上位校に落ちた人も、まぐれで受かっちゃった人もいるんですが、そこを考慮に入れたとしても、成績にかなり開きがあるように思えてならない。
受験勉強をがんばって、やっと入った大学で、またしても周囲に差をつけられることを「理不尽だ」と思う気持ち、わたしにはよく分かります。わたしも「浪人中あんなに勉強したのに、入学してたった半期でこの差かよ!」と憤りましたもの! 理不尽!
いつもだったら「悔しい……巻き返してやる……」と思えたんでしょうが、長きにわたる受験勉強で精も根も尽き果てていたので「がんばる気も起こらない」というのが本音。そのままズルズルとサボり上手になったわたしは、留年こそしませんでしたが、必修の単位をいくつか落としました。
「理不尽だ」「がんばる気も起こらない」といったネガティブモードに突入してしまうと、留年の危険性が高まりがちですが、それよりも危険なのは、デキる学生に嫉妬してしまうこと。そして、嫉妬のあまり、卑屈になってしまうこと。ここをいかに避けるかが、学生生活を楽しくする上で、非常に大切です。○「優秀ではない自分」を受け入れる
教員の立場から言わせてもらえば、少人数講義やグループワークの場で、決してコミュ障というわけではないのに、他人との能力差にビビってしまい、授業に出て来られなくなる学生が一定数いますが、非常にもったいないことです。「優秀ではない自分」に耐えられないのかも知れませんが、教員から見れば、その学生が気にしている能力差なんて、ほんの僅かな、気にするだけバカらしいものです。逆に言えば、優秀に見える学生だって、別の授業、別のグループワークの場では平凡な学生として扱われる可能性があります。まあ、教員から見ればその程度の差なんだと思って、とにかく気を楽にしてください。
大学に入ってからは、ナンバーワンよりオンリーワンを目指すべきだと、わたしは思います(心のBGMは『世界に一つだけの花』でお願いします)。
もし、自分を「大したことない」学生だと感じたなら、その「大したことなさ」を役立てる方向で考えてください。
とくに、グループワークなどでは、上を目指すだけの優等生集団ではなく、多様性を目指す雑多な集団の方が、圧倒的に面白い結果を残します。そして、本当の意味で優秀な学生というのは、その雑多な環境を作り出し、楽しむことができるのです。
自分以外に頭のいいヤツがいるなら「あえて凡人の係を引き受ける」つもりで動いたらいいのです。のび太がいて、出来杉君がいるから、『ドラえもん』は面白いのです。出来杉君しか出て来ない話は、国民的長寿番組にはならない! みんな、のび太になれ! あるいはジャイアンになれ! しずかちゃんでもいい! アニメのたとえがわからないのなら、バンドでたとえましょう。ドラムしかいないバンドより、ギターがいて、ベースがいて、ボーカルがいるバンドの方が、いろいろな曲が演奏できる! 当たり前!
○「勉強できる系バカ」にならないために
つまり何が言いたいのかというと、大学に入ったら偏差値至上主義にしがみつくのをやめた方がいい、ということ。これは、優秀な学生にこそ言っておきたいことです。
勉強ができるだけじゃダメ、ゼッタイ。あえて凡人の立場から「バカだからわかりませーん!」「知らないので教えてくださーい!」と言える(イヤミでなく言える)チャーミングな人間になって欲しいのです。そして、天才からバカまで、いろんな学生がいる雑多さを楽しんで欲しいのです。学力ではなく、人間力を高めろと言いたいのです。これは、司法試験や国家公務員を目指す優秀な学生に囲まれつつ4年間を過ごした落ちこぼれ法学部生からのお願いです。模擬裁判とかで「いやそれ、普通のひとには分からないから!」と言う係を引き受け続けた(バカであるがゆえに重宝された)、わたしからのお願いです。
でないと、新入社員歓迎会の挨拶で「なぜわたしは優秀なのに希望の部署に入れなかったのでしょう?」と言い出す「勉強できる系バカ」になってしまいますよ。というか、これは本当にあったこわい話なんです……そりゃあ同期の中では優秀だったのかも知れないけど、会社にはあんたより優秀な先輩が一杯いるよ……むしろあんたは今一番下っ端だし一番使えない子だよ……。
でも、優等生タイプの学生というのは、わりと視野狭窄なので、うっかりこういうことを言って冷笑を買ったりするものなのです。こわい、こわすぎる。
大学に入ってたった半期で成績に差が出るように、この先の人生、どこに行っても差が開き、「できない方」に振り分けられる可能性があります。そのたびにプライドを傷つけられ、引きこもっていたら生きていけません。向学心があること、上を目指すことは大事ですが、もっと自分の中にチャンネルを作り、時と場合に応じて使い分けていくことが、より大事なことなのです。バカにも天才にも、貧乏にも金持ちにも、良いヤツにも悪いヤツにもなりながら、学生生活をサバイブしていってください。頼みましたよ。
トミヤマユキコ
ライター・大学講師。
「週刊朝日」「文學界」でブックレビュー、「ESSE」「タバブックス」でコミックレビューの連載を持つライター。早稲田大学などでサブカルチャー関連講義を担当する研究者としての顔も持っている。「パンケーキは肉だ」を合い言葉に、年間200食を食べ歩き『パンケーキ・ノート』(リトルモア)にまとめた。
Twitter @tomicatomica
清田隆之/桃山商事
1980年、東京生まれ。失恋ホスト、恋のお悩み相談、恋愛コラムの執筆など、何でも手がける"恋バナ収集ユニット"「桃山商事」代表。男女のすれ違いを考えるPodcast番
組『二軍ラジオ』を更新中。雑誌『精神看護』やウェブメディア「日経ウーマンオンライン」「messy」などでコラムを連載。著書に『二軍男子が恋バナはじめました。
』
(原書房)がある。
Twitter @momoyama_radio