ネットワークカメラが実現した、ネッツトヨタ青森の"おもてなし"
最近では、建物のエントランスやエレベーター、コンビニ、金融機関、住宅に至るまで、さまざまな場所にネットワークカメラが設置されている。それらの大半は、人の目が届きにくい場所や、人が24時間365日いることが難しい場所などの防犯や監視を目的に設けられたものだろう。
しかし、昨今のネットワークカメラの用途はそれだけに留まらない。"ネットワークに繋がっている"強みによって、防犯・監視の域を脱した「新たな可能性」を模索している。青森県・青森市のネッツトヨタ青森 青森店における取り組みも、その1つだ。最新事例の全貌を、ネッツトヨタ青森 青森店 副店長の渡邉明史氏とネッツトヨタ青森 システム室の工藤大輔氏に伺ってきた。
○"併設型店舗だからこそ" ネットワークカメラが活きてくる
日本が世界に誇る自動車メーカー、トヨタ自動車の販売会社(以下、販売店)の1つとなるネッツトヨタ青森は、青森市や弘前市、八戸市などを中心に計11店舗を展開する。今回の舞台となる青森店は、2013年10月に現在の所在地「青森市東大野2丁目」に移転してきた新店舗となる。
同店はそれまで、ネッツトヨタ青森の本社に隣接していたが、現住所の周辺が近年、新たに住宅街として発展してきたこともあり移転が決定。しかし、実はこれより先にリニューアルの実施が決定していた店舗がある。同社の中で最も長い歴史を持つ弘前店だ。
2015年内のオープンを予定する弘前店は、ネッツトヨタ青森で初の"併設型店舗"(1つの店舗に2社以上の販売店が入る店舗)となる見通しで、同社担当者らは店舗作りの参考にと、東京都・葛飾区にて営業を行う3社合同施設「T-プラザ金町 (東京トヨペット/トヨタ東京カローラ/ネッツトヨタ東京)」へ見学に赴いた。
そこで出会ったのがアクシスの提供するネットワークカメラ「AXIS P1357-E」。同施設では、同一の入り口から販売店が異なった顧客が来店するため、どこの販売店に訪れた顧客か判別する必要があった。そこで、アクシスのネットワークカメラを利用したお客様来店通知システムを導入。「来店とほぼ同時に、どの販売店が担当する顧客か把握することができるようになる」という点が、同システムの最大のメリットであった。
○青森店が実現した、日本の"おもてなし"
しかし、ネッツトヨタ青森が実際に導入したのは、併設型店舗"ではない"青森店。この理由を、青森店副店長の渡邉明史氏は「青森店の立地」と「顧客満足度(CS)の向上」にあると説明する。
「現在の青森店は、以前の店舗より約2倍の敷地規模となっただけでなく、来店客の対応を行うカウンターからの目線と県道120号線が並行するかたちで設計されており、道路から垂直に出入り口用の道路が伸びています。そのためカウンターにいるスタッフからは、来店者の車両ナンバープレートの位置が完全に死角になる。来店者数が少なければ、その都度外に出て確かめれば良いかもしれませんが、立地上、客数の増加も見込まれましたし、少ない人数で対応しなければならないため、それは現実的ではないと考えました」(渡邉氏)
同氏によると、以前の店舗では、立て続けに来店があるというケースは少なく、車の出入りも多くはなかった。しかし、現在の店舗になり来店数が増加。一方で駐在するスタッフを増員できるわけでもなく、限られた人員で多くの来客に対応せねばならなった。
また、自動車の販売店に訪れる人は、既存顧客と他社からの乗り換えとなる新規顧客の2パターンで、既存顧客の多くは、事前に修理や点検といった予約をしてから訪問するという。
同店では、平日に50~60名、休日に約120名/80~90組の来店があり、休日であればその6割ほどが整備・点検を目的に訪れる。
「自動車は決して、安い買い物ではありません。点検であっても、年間数万の費用がかかります。その上で弊社のこの店舗を選んでくれて、しかも事前に予約をしたにも関わらず『何の御用ですか?』と言われたら嬉しくはないですし、むしろ失礼なことですよね。『〇〇様、いらっしゃいませ。定期点検のご予約ですね』とお声がけすることでCSが高まるはずです」(渡邉氏)
そのため、来店時には即座に車両ナンバーを確認し、青森店の顧客管理情報や来店予約情報と照合することで、"接客前に顧客の名前や来店目的を確認する必要があった"のだ。
今回導入したシステムでは、来店があると、スタッフは店舗内のどこにいても、支給されたiPad/iPod touch上で「顧客の車両ナンバー」と「顧客の氏名」「予約内容」を確認することができる。そのため、車両ナンバープレートが見えないカウンターだけでなく、他の顧客の接客中やオフィスで作業中であっても「誰が何を目的に訪問したか」をオンタイムで把握することが可能。
「少ない人数でも迅速に情報を共有し、担当者でなくとも顧客情報を確認した上で対応する」という理想のフローを実現したのである。
●"導入する意味"は本当にあったのか?
ネッツトヨタ青森 青森店が導入した、アクシスのネットワークカメラを利用したお客様来店通知システム。実際の現場では、来店客の車両が出入り口より入庫すると、設置されたセンサが感知しネットワークカメラが来店車両を撮影する。その後、お客様来店通知システムにより同写真から記載文字が抽出され、ネッツトヨタ青森の顧客管理情報および青森店の来店予約情報と照合されることで、来店者の情報が特定される仕組みだ。
このとき、顧客の氏名は、同社のデータベース上にあった場合に限り表示。予約内容においては青森店のデータベースにて管理しており、同内容を元に、青森店の社内ネットワークを通じて瞬時にスタッフの端末上に表示が行われる。
同ネットワークには実際、iPad3台iPod touch4台の計7台が連携し、うちiPad1台をカウンターに、土日は入り口の外で対応を行うスタッフ用に三脚に乗せてセットされる。また、iPod touchは日ごとに決められた当番スタッフが保持し、インカムによって情報を伝え合うことでスタッフ間のコミュニケーションを図っている。
なお、「同じトヨタ自動車グループとなるトヨタアドミニスタ(T-プラザ金町を運営する)が利用していたことから、スムーズに導入できた」とシステム室の工藤大輔氏は語る。前述の通り、同システムは2015年内にオープンを予定する弘前店での導入を考えていたもの。青森店での利用は、オープンの約6カ月前に話が上がり、ハードウェアの設置やシステムの調整を約3カ月でやってのけたという。
○導入した意味は、あった
今回のシステム導入に関わった青森店の副店長 渡邉氏は、ネッツトヨタ青森社内でも青森店内でも、導入に対して賛否両論があったと当時を振り返る。
「やはり、もともと導入されていたT-プラザ金町は、併設型店舗だからこそのメリットを感じていたわけですから、単独の店舗で導入する必要はあるのだろうかという話しになります。加えて、冬季になると車両ナンバープレートに雪が被さってしまいナンバーが読み取れない、日によっては言わば"冬に使えないシステム"になるのではと想像されました。ですが、そのシーズンというのも1年のうち3カ月ほど。多数決というわけではありませんが、稼働できる時間の方が長く、その間に顧客満足度(CS)の向上に役立つのであれば導入しようという判断になりました」(渡邉氏)
実際は、ナンバーの読み取りができない期間も少なく、運用を開始してから約2年、毎月データを集計・蓄積していっていると同氏は説明する。
「データが集まることで、さまざまな気付きを得ました。たとえば、運営当初は顧客管理情報を青森店のものに限定していましたが、(ネッツトヨタ青森の)全店舗を対象にしてほしいと要請したんです。それによって、月に20台ほど他店舗から青森店に訪れていることが分かりました。それに気付くことができたため、顧客対応などの改善につながったのだと思います」(渡邉氏)
お客様来店通知認証システムは、導入したからといって、必ずしも売上に貢献するとは言えない。CSに関しても実際に、同システムによって向上したかという直接的な効果を数値化・可視化することは極めて難しいだろう。しかし、青森店が目標とする「少ない人数でも迅速に情報を共有し、担当者でなくとも顧客情報を確認した上で対応すること」の実現に貢献していることは言うまでもない。「〇〇様 いらっしゃいませ」と声をかけられた顧客の多くも嬉しいと感じたことだろう。
なにより、防犯・監視の域を超え、広い意味でのマーケティング「CS向上によるリピーターの獲得」に貢献するツールとして、ネットワークカメラの可能性を大いに感じる先進的な取り組みと言えるのである。