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デザインに触れるすべての人が知っておきたい、「著作権」の基本を学ぶ

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デザインに触れるすべての人が知っておきたい、「著作権」の基本を学ぶ
●「お財布」と「心」を守る著作権
東京五輪のエンブレム取り下げ問題をきっかけとして、創作物を作る側だけでなく制作を依頼する側、ひいてはそれらを受け取る側にまで、広く「著作権」に対する注目が集まっている。

そんな中、農林水産省が不定期で実施している広報関連の勉強会において、「著作権」の基本について解説するセミナーが9月初旬に開催された。これは事件の以前より予定されていた会で、テーマと時勢の一致は偶然とのこと。しかしながら結果として、「著作権」を今知りたいと考える同省の職員で会場は満員となった。

本稿では、今だから知っておきたい著作権の基本と事例について解説した、同セミナーの内容をレポートする。

今回講師を務めたゲッティイメージズの杉渓言久(ときひさ)氏は、同社で実務をこなしながら、AIPE認定知的財産アナリストの資格を持ち、写真著作権に関する修士論文を執筆した実績もある人物。この勉強会が行われたのは、広報誌やポスターの制作、Webサイトの更新など情報発信を行う場面において、撮影あるいは購入した写真を使うことが多く、それにあたっての問い合わせが各所より寄せられ、農水省広報がゲッティイメージズ側に講演依頼をしたのがきっかけだという。

○著作権のふたつの柱

著作権は、創作性が認められる表現に対して与えられる、法律で決められた権利。
しかし、「著作権」とは大きく分けて、「人格的な権利」と「財産的な権利」がある。

杉渓氏は、「著作権には、"心を守る"権利と、"お財布を守る"権利のふたつがあります」と解説。正式名称で言えば、"心を守る"のが「著作者人格権」、"お財布を守る"のが「著作財産権」だ。

「著作者人格権」は著作権者自身の「人格」を守るための権利で、譲渡や相続をすることが不可能。一方、「著作財産権」は「財産」であり、譲渡・相続が可能となっている。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)で著作権の保護期間の延長が問題となったのは後者の「著作財産権」であり、これによる得失が争点となっている。

「写真」の利用に関して押さえておきたいのは、「著作権」と「被写体の権利」があるということ。被写体となった人物の権利は「肖像権」で保護されるが、「肖像権」を明文で定めた法令・条約はなく、これまで積み重ねられてきた判例によって認められた権利だ。
「写真」の撮影・利用に際し、その被写体であるヒト/モノの権利について考慮することが重要だという。

「肖像権」は全ての個人に認められる権利だが、そのうち著名人など顧客誘引力のある人にとっての財産的側面を「パブリシティ権」と言っている。著名人の写真利用に関して「パブリシティ権」が問題となるケースがあるが、このような肖像の利用が常にパブリシティ権侵害となるわけではなく、時事報道、論説、創作物等に使用されることが正当な表現行為として受任すべきとされる場合もある。

例えば、アイドルグループ「ピンクレディ」の写真が雑誌記事に無断利用されたことを同グループが訴えた裁判では、最高裁判所は、「専ら肖像等の有する『顧客誘引力』」の利用を目的とする場合には違法とする一方、この事案では、ピンクレディの『顧客誘引力』を直接利益に利用する目的としたものではないから、権利侵害はないという判断となった。つまり、著名人のブロマイドなど、肖像を直接商品や広告に無断利用した場合は侵害となるが、雑誌記事は「表現」の一環であるという判断となった。

判決では、パブリシティ侵害となりうる類型として、「肖像自体が鑑賞の対象となる商品として使用する場合(ブロマイド等)」、「商品等の差別化を図る目的で商品に写真を付す場合」、「肖像等を商品等の広告として使用する場合」という3つのケースが挙げられた。

モノの権利(モノのパブリシティ権)は、現在のところ未だ確立していないという。法律上、動物はすべて「モノ」として扱われるのは知られたところだが、有名な競走馬の名前を使う権利を争った裁判で、最高裁は、パブリシティ権が人格権に根ざすことを前提に、モノ(この場合は著名競走馬)のパブリシティ権利が否定されている。


ちなみに建築物は、著作権法上は原則自由に撮影可能。ただし、著作権以外の権利を理由として、クレーム等が申し立てられるリスクはあるとのことだ。

●過去の事件から、著作権侵害の傾向を知る
○著作権にまつわる象徴的な判例

セミナー中では、著作権にまつわる裁判の裁判例が紹介された。写真の著作権に関する著名な裁判例として、「スイカ写真事件」が挙げられた。これは、スイカを撮影したふたつの写真について、先に発表した権利元が、後に発表した人物を訴えたというものだ。判決は、被写体に関し、素材の選択、組み合せ、配置が類似していることを理由として、慰謝料100万円の支払いが命じられた。これが、「被写体の選択や配置」に創作性を認めたはじめての判決となった。

一方、同じく「被写体の選択や配置」を問題にした裁判で、異なる判決が出されたのが「廃墟写真事件」だ。
廃墟は被写体としてメジャーで、これをテーマとした写真集はいくつも出されているが、この裁判では、同じ場所・建物で撮影し、写真集を出版した写真家を、先に撮った写真家が著作権侵害で訴えた。ここまでは、「スイカ事件」と流れは同じだ。結果、判決は「非侵害」。著作権侵害は認められなかった。「廃墟の選択はアイデアであり、それぞれの被写体や構図、撮影方向そのものは、表現上の本質的な特徴ということはできない」とされた。

スイカと廃墟、ふたつの裁判は一見すると類似の内容と思われるが、対比することで、「アイデア」と「表現」の2分論を象徴する事例となっている、と杉渓氏。廃墟事件は、被写体の選択そのものは著作権の保護が認められないという結論となり、スイカ事件は被写体の選択に加え、配置について創作性を認め、著作権の保護を与えたということになる。「著作権はアイデアを保護せず、表現を保護する」のであるが、これは、このような裁判例にも現れているという。


○写真をトレースてた描いたイラスト、著作権侵害になる?

また、写真の撮影ではなく、「他者が撮影した写真を元に絵を描いた場合、元の写真家の許諾は必要となるか?」という問題についても、判例を元に解説が行われた。絵を描くという異なる手法を用いた模倣の場合、どのような結果になるのだろうか。

ここで紹介された「祇園祭写真事件」では、雑誌の表紙を飾った祇園祭の写真を元に描かれたとみられる水彩画が問題となり、撮影者が絵を描いた人物を訴えた。そして、判決は「侵害」。写真に写っている要素(被写体となった人物や構図)との類似が多いことから、写真家の「表現」を水彩画家が剽窃した、という判断が下された。

杉渓氏は、この判例を挙げて、「他人の写真を無許諾でイラストにしたり、CGにしたりすると、著作権侵害になり得る」と指摘。表現手法の相違ではなく、「表現上の本質的特徴」が類似しているかどうかが争点となるようだ。

それでは、インターネットで見つけた写真の構図を参考に、新規で広告用撮影をすることについては、どうだろうか。
同じ「写真撮影」という手法だが、撮影自体は別途行っているため、新規撮影をした側の著作物と見なされるのだろうか。実際にゲッティイメージズと広告代理店とのあいだに同種の事案があり、同社の写真の被写体の服装や撮影地を模倣していた代理店とは、「Artistic Reference(参考料)」の支払いによって和解したという。

著作権には、オリジナル作品を改変して「二次的著作物」を作る(翻案権)という権利があるが、本件は翻案を事後的に許諾したとの評価ができる。本来、著作物を翻案して利用する場合、事前に著作権者の許諾を受けるべきであり、そうしなければ著作権侵害に問われることになる。

なお、著作物の無許諾での利用かどうかは、両者の「類似性」、および該当の写真を見たかどうかという「依拠性」によって判断されると解説した。これは、写真の場合も同様で、類似の構図で撮影された写真でも、他の先行写真を参考にしたものではなく、撮影者がたまたまそのような構図で撮影した場合、「依拠性」が認められないため、著作権侵害とはみなされない。

●こんな時はどうしたら?実務で役立つ権利のはなし
○実務で役立つ権利のはなし

ここからは、実際にゲッティイメージズで販売されている写真などを用いて、実務に参考となる知識が列挙されていった。

同社だけでなく、国内外さまざまな提供社から販売されている「ストックフォト」。
撮影せずに素材写真を探せるのは便利だが、こうした素材を使うときにも、気をつけたい権利がある。販売されている写真だから、写っている人物も素材となることまで了承済みだろう…と思いこみやすいところだが、"撮影こそ了承したが、写真の販売は了承していない"というケースもあるそうだ。

被写体が商用利用を確認していない写真を広告などに利用すると、被写体から肖像権侵害を訴えられることもある。そのため、杉渓氏は購入前に「モデルリリース」を取得していることが、素材のWebページに明記されているかを確認することを勧めた。

「モデルリリース」とは、被写体たる人物から自分の写った写真の商用利用に関する許諾である。書面での説明・サインが主流だったが、昨今はスマートフォンアプリでの確認をするケースもあるのだとか。多くの人が走っているマラソン大会の様子を俯瞰で撮影した写真では、ゲッティイメージズ側がランナーたち全員にモデルリリースの確認を取ったのだという。

また、農水省の広報誌「aff(あふ)」掲載の写真について、杉渓氏が直接権利関係の問題の有無を解説する場面もあった。イベントに集まった人々を後ろから撮った写真に「肖像権」は適用されるかどうかという疑問には、「(顔が正面から写り込むなど)個人判別ができなければ、肖像権は問題にならない可能性が高い」というコメントを寄せた。

一方、農家の人々がカメラ目線で写っている集合写真に対しては、「取材内容や掲載先について説明がされている可能性が高く、自分の写真が利用されることに対する黙示の許諾が認められるケース。そのため、「モデルリリースをいただくに越したことはないが、なくても権利侵害と言われることはないだろう」と語った。そのほか、市長らによるテープカットの写真は、「取材向けにセッティングされた場面であり、その撮影・公表は当然予測の範囲内であるから、許諾書をもらうようなシーンとはいえない」とのことだった。

最後に、ゲッティイメージズが行っている権利処理サービスと事例の紹介が行われた。
ゲッティの中でも、古い写真の中にはモデルリリースがないものもある。それを利用する場合、ゲッティのライツ部門が利用者に代わって使用許諾を得る「ライツ&クリアランス」というサービスがある。

象徴的な例として、フランスの名所・エッフェル塔は、昼間の様子はパブリックドメインとなっていて、誰でも撮影し、発表することができる。驚くことに、これが夜になると話が一転。建物自体はパブリックドメインだが"ライティングに芸術性がある"ということで、著作権が発生するため、夜のエッフェル塔の写真を利用する場合には、著作権料が発生する。

そのほか、非常に古い写真など、権利者を特定するのが困難な写真を利用する場合には、仮に被写体などからクレームが入った場合、ゲッティ社内の専門家が対応する「免責サービス」もあるということだった。

ストックフォトというと膨大な写真を提供するコンテンツ提供サービスというイメージが強いが、杉渓氏は、「弊社は写真を売る側でもありますが、写真や映像を売りたい側/買いたい側のニーズをマッチングさせる業務を行うという面もあります」とコメント。商用利用を行う際には、単なる素材としての利用だけでなく、リスク回避も提供サービスのひとつだと語って、場を締めくくった。

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