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ウェアラブルでメガネ市場拡大に乗り出すJINSの「本気度」 - 西田宗千佳の家電ニュース「四景八景」

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ウェアラブルでメガネ市場拡大に乗り出すJINSの「本気度」 - 西田宗千佳の家電ニュース「四景八景」
●視力矯正がいらない人にもメガネを売る
直近のニュース記事をピックアップして、「家電的な意味で」もうちょい深掘りしながら楽しい情報や役に立つ情報を付け加えていこう……という趣向で進めている当連載。今回の題材は以下の記事だ。

眠気や疲れを可視化できるアイウェア「JINS MEME」、11月5日に一般販売(10月15日掲載)

こういうスマートグラスは、Google GlassのようにAR技術などを組み合わせた「ベターディスプレイ」としてのアプローチが多いのだが、「JINS MEME」(ジンズ・ミーム) はまったく異なる。ディスプレイとしての機能はなく、センサーを使って身体の情報をモニタリングすることに特化した「ベターセンサー」アプローチのスマートグラスと言える。

Googleが一時的に計画をスローダウンさせたこともあって、スマートグラスの行方は混沌としている。だがその中で、メガネメーカーが独自のアプローチで市場参入を目指すのは、世界的にもまだあまり例がなく、痛快な出来事でもある。JINS MEMEのコンセプト作りや商品企画は、JINSの運営元であるジェイアイエヌが担当するものの、ハードウエアとしての開発と設計は、デバイス設計ではトップメーカーの一角にいるアルプス電気である。得意な部分を持ち合ってコラボレーションする形でJINS MEMEの開発は続いている。


○視力矯正がいらない人にもメガネを売る

ジェイアイエヌの狙いは明確。メガネ市場の拡大だ。

メガネは基本的に視力矯正が必要な人にしかニーズがない。サングラスやファッション用の伊達メガネといったニーズもあるが、その割合はかなり小さい。人口が減る=視力矯正が必要な人の数も減る、という日本の市場は、JINSのようにメガネを薄利多売していくビジネスモデルの企業には魅力が薄くなっている。かといって、国が違えばメガネに関するニーズや慣習も異なるため、簡単に国際展開することも難しい。

そこで海外展開とともに重要になってくるのが、「そもそもメガネを欲しいと思う人を増やす」というアプローチだ。

2010年からJINSはこの戦略を拡大している。
もっとも大きな成功例が、LEDのブルーライト成分をカットして眼精疲労を防ぐ、という触れ込みの「JINS PC」である。PCやスマートフォンで目を酷使する人に、視力矯正でなく「目を守るためのメガネ」を売る、というアプローチだ。

JINS MEMEはJINS PCよりも多くのテクノロジーが注入された製品ではあるが、狙うところは同じである。体や眼球の動きをトラッキングすることで、人の体と心の状態を「かけている人自身」に伝え、生活を改善するツールとして使ってもらおう、というわけだ。

ジェイアイエヌの田中仁社長は、「2010年に、メガネをかけていない人にもメガネを、というコンセプトを打ち出し、メガネの国内市場を1兆円規模にするという目標を掲げた。JINS MEMEはそのためのキラープロダクト。デバイスの小型化が必要だが、5年後にはJINSのすべてのメガネに入れられるようになる」と話す。

その田中社長の計画を実現するには、何よりも重要なことが二つある。


●バリエーションを広げるための秘策
○実は「プラットフォーム」になっている!

一つは、「メガネとしてかけたくなる」ことだ。ディスプレイ型のスマートグラスと違い、センサー型のスマートグラスは、四六時中かけて、大量のデータを得られてはじめて価値が出る。また、JINSが狙うように「メガネ」として大量に売れるには、メガネとして自然であることが求められる。

その点では、JINS MEMEはかなり成功している。ウェリントンタイプのクラシックな外見だが、かけてしまえばメガネとしてはごくごく普通のもの。スマートグラスという「ITガジェットらしさ」はほとんど感じられない。

デザインを担当した工業デザイナーの和田智さんは「普通であることがコンセプト。正面から見て違和感がないことを目指した。
いつもかけていられるものでないといけない」と話す。

外観ではわからないが、デザイン上の工夫はいくつもある。「実は、ハードウエアはプラットフォームになっている」と和田さんは言う。

メガネはファッションに紐付いている。人の個性を演出するものであり、本質的には「一人一人違うものをつける」ことが望まれる。JINSが成功したのも、低価格かつ膨大なバリエーションのあるメガネを供給したところにある。

JINS MEMEは現状、スポーツ向けと一般向けの2バリエーションしかなく、ファッション性という面では厳しい。和田さんの考える「プラットフォーム化」とは、メカ部とメガネ部をうまく切り分ける構造を指す。
電池やBluetoothモジュールはメガネの「ツル」に入っていて、レンズフレームは別に作れる。眼電位センサーはノーズパッドにあるため、レンズ側のフレームに配線を仕込む必要があるのだが、実はフレームが上下に分割した構造になっていて、配線が絡む作りになるのは片方だけ。半分を変えることで、デサインバリエーションは広げやすい。

「仕組みとしてはバリエーションを作れる構造にある。ただし、その構造を使うかどうかは別の話」と和田さんは釘をさす。現状のJINS MEMEでデザインバリエーションを広げる計画はないが、準備は進んでいるようだ。プラットフォーム化とメカ部の小型化を進めることで、最終的には「すべてのメガネに入れられる世界」を目指すのだろう。

●わかりやすい指標とアプリ作りに1年半をかける
○わかりやすい指標とアプリ作りに1年半をかける

JINS MEMEを普及させる上でのもう一つの課題は「何に使うと便利なのか」を周知させることだ。
体のデータを取れる、と言っても、そのままでは難しい。体の傾きがデータとしてわかっても、生活に活かせないからだ。

そこでJINSは開発初期から、東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授に協力を依頼し、取得したデータから「心と体の状況」を客観的かつ簡単に把握するための指標づくりを行ってきた。

その指標が「カラダ年齢」「ココロ年齢」と名付けられた数値だ。体幹のブレや眼球の動きから、身体・精神の疲れを把握し、「年齢」として表示する。川島教授は「実際には、医学的には意味のない数字」と断った上で、「行動によってどう変わるかを把握し、行動の指針としてほしい」と話す。数値一つに一喜一憂するのではなく、行動によって数値が変わることを把握し、低い数値になるように行動することでより健康な状態を保つ、という考え方だ。この他にも、運転時の居眠り防止やランニングのフォーム確認と矯正など、わかりやすいアプリケーションを揃えている。


JINS MEMEは2014年5月に発表されたが、製品化には1年半の時間を必要とした。その理由は、こうしたアプリケーションの開発にある。実際にセンサーから取れるデータには、首の向きや動きに応じたノイズがつきもので、適切な処理をしないと、普通の人にわかりやすいデータにはならない。たくさんの被験者からデータを集め、そういう計測手法を確立してアプリを作りやすくすることが求められる。JINS MEMEはハードを作っただけでは売れない。生かすための環境づくりこそが、JINSがコストと時間をかけたところであり、そこに本質がある。そのくらい、彼らは「メガネ市場の拡大」に本気だ、ということでもある。

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