オープンソース×クラウドコンピュータが解析の世界を変える - 藤川社長が語ったヴァイナスの現在と未来
ヴァイナスは10月14日および15日の2日間、大規模・最適設計・ワークフローマネジメントのための総合ソリューションカンファレンス「VINAS Users Conference 2015」を開催した。同カンファレンスでは、同社が取り扱う解析ソリューションなどの紹介が行われたほか、同社の代表取締役社長を務める藤川泰彦氏がCFD解析の現状などについて講演を行った。そんな講演直後の藤川氏に、同社の現状、そして未来の姿がどういったものになるのか、話を聞いた。
○2015年はこれまで提唱してきた取り組みの終着点
今回のカンファレンスのテーマについて藤川氏は「オープンソースとクラウドコンピュータをハイブリッド利用していくことで、CAE/CFD業務の大幅効率化を目指す」と語る。これまでは、さまざまなツールベンダがさまざまなソリューションを個別に提供し、ユーザーはそれぞれを個別に選別し、活用していくという姿が一般的であったが、技術が複雑化していく中で、扱うツールが多岐にわたり、それらを管理運用するには手間がかかるようになってきた。そこで同社では数年前から「解析ツールから、計算機をオンデマンド型で提供していくまでの解析にかかるすべてを総合サービスしていく」ということを掲げて準備を進めてきた。
その根幹をなすのが自社サーバや複数のクラウドコンピュータにアクセスし、ジョブの実行管理やファイルを高速に転送できるゲートウェイ「CCNV(Cloud Computing NaVigation system)」の最新版となる「CCNV V2.1」だ。「我々のスローガンは、難しい知識を持たない小学生でもスパコンを使えるようにしよう。
というものであり、そのためのGUIがCCNVである」(同)であり、その最新版となるCCNV V2.1では、オープンソースCFDであるOpenFOAM用解析環境である「HELYX」(engys製)の最適化チューニングなども終わり、「1社でクラウドを基盤としたオープンソースベースの解析ソリューションサービスを提供できるようになった」(同)とする。
○オープンソースの波がシミュレーションの世界にも到来
藤川氏が一貫してこだわりを見せるのが「オープンソース」がもたらすシミュレーション業界への影響だ。「安価なオープンソースのツールがユーザーの解析環境に取り入れられるようになると、ライセンスのロイヤリティを売り上げの柱とする従来ビジネスモデルが崩れてくる。その時、どうするか、新たなビジネスモデルを構築する必要があった」(同)。そうした業界の動きを察知したうえでのオープンソースへの対応であり、それはクラウド化による演算資産の柔軟な確保にもつながる。同社では2015年内にCCNVによりHELYXの実行環境を自動でセットアップしたり、AWSやIBM SoftLayerでのSaaS型短期利用を可能とする「Helyx on Cloud」のサービス提供を開始する計画としている。
また、特定分野に特化したフルターンキー最適設計システム「CFD Automation」というコンセプトも掲げている。例えば、自動車のとある部品のみを対象とした専用ツールといった具合に、セグメントを狭めて、GUIなども特殊なコマンド入力などをする必要なく、その分野の人たちが日常使っているような専門用語を活用したシステムの実現を目指すというもので、「目的を専門化することで、運用コストの低減も図れるようになるし、システムや作業そのものも単純化できる。
それをさまざまなセグメントごとに集めていきましょうという提案」だという。
さらにクラウド化という意味では、何もHPCを用いて演算性能を向上させる、というだけにとどまらない。数値解析の結果だけでなく、パワーポイントやワード文書、PDF、アニメーション、音声データなどのコンテンツをタブレットやスマートフォン上で閲覧、共有を可能とするオンラインコンテンツビューワ「CC-Cabinet」の提供も2015年より開始した。クラウド時代のビューワということを意識し、例えば計算途中の様子をスマホ上にて収束グラフで見たりすることができるほか、クラウドサーバで行っている計算を停止して、その後やり直す場合でも、最初からやり直しではなく、その情報をそのまま保持し続けているため、数カ月後であっても計算途中から復帰することが可能だ。こうした機能を実現するために、ユーザーに見えないCC-Cabinetの背後で稼働するCAE用高セキュリティオンラインストレージ「CC-Drive」も2年かけて開発したという。
「オンラインストレージのデータ保存場所を物理的に国内のストレージに限定することで信頼性を高めたほか、Googleドライブ以上の機能を活用してもらえる」と藤川氏はCC-Driveの特徴を説明するほか、「クラウドサーバにアクセスしてデータを操作することとなる。そうしたニーズに柔軟性をもって対応するためにはオープンソースのツールである必要があった」と、同社がオープンソースに注力する理由を述べる。
●未来のCAEは、計算をする前に結果が分かる?
○CAE×ビッグデータで生み出される未来の解析とは?
こうしたさまざまなツールの展開、オープンソースへの注力などを図っていくヴァイナスの今後について藤川氏は「HELYXをターンキーで利用してもらうことが重要になる。
社内のコンピュータ資産で処理しきれない規模の大規模計算を短い期間だけ活用していき、設計・開発力を高めていくという流れができあがる。その際にはコンサルティングなどの能力も含めた総合力が必要になる」とビジネスの方向性を示す。
また藤川氏、「スパコンを小学生でも使える環境を提供することは、ひいては日本のエンジニアの力を底上げすることにつながる。この点については、直接利益が出るわけではないので、ボランティアだと思っている。しかし、日本の企業として、外資系企業にはできない社会貢献活動であると信じている」と、同社の取り組みが単なる営利活動にとどまらないことを強調する。
最後に藤川氏は、「すでにCAEなどのツールを長く活用し、一線で活躍してきたエンジニアが退職する時代が到来している。そうしたエンジニアたちが有してきた長年のノウハウが失われれば、設計・開発力の低下は免れない。そうした意味では、CAEの言語を使わずに、それぞれのセグメントの言語を用いて設計できるシステムと、そうしたベテランたちのノウハウをそこに組み込みたいというニーズは必ずでてくる。
一方で、クラウドを使って、もっと楽に計算したり情報共有したいというニーズも出てくる。こうしたニーズをオープンソースを用いることでコストを抑え提供していくことで、究極的にはユーザーの設計業務の効率化を果たす手助けをしたい」と将来に向けた抱負を語ってくれた。さらに、5年以上先の未来の話としながらも、「CAEは同じ計算を何度も行うものだが、ビッグデータの理念を使えば、未知の結果に対して、これまでの計算結果などから答えを自動で出せるようになるかもしれない。そうした未来を築くためには、自社でノウハウを有していることが重要になってくる。そうしたノウハウの蓄積と、オープンソースの活用により、これまでCAEが扱ってこなかったパラメータを取り入れたりすることも容易にできるようになるかもしれない」と、CAEがAI化する可能性などを示し、そうした未来を自ら切り開いていくべく、自社の技術力強化を進め、それを日本のものづくり産業の競争力の向上につなげていきたいと語ってくれた。