大学デビューの落とし穴 (14) 10月:雑多な自分を認め、"比較思考"から脱却しよう
大学1年生のみなさん! 「大学デビューのホントのところ」、知りたくないですか? 本連載は、かつて大学デビューに半分成功・半分失敗したトミヤマユキコ(ライター・大学講師)と清田隆之(恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表)が、過去の失敗を踏まえ、時に己の黒歴史を披露しながら、辛く苦しい学生生活を送らないためのちょっとした知恵をお授けする。そんな連載です。
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○幸福の最大の敵は嫉妬
さて、10月です。後期が始まりましたね。2か月の夏休みを経て戻ってきたキャンパス。あまりに日が暮れるのが早くなっていて、私は毎年その時間感覚のズレに戸惑いを覚えていました。油断してると一年が終わるよ!
「嫉妬が卑屈を呼ぶ」というトミヤマさんのお言葉、心に刺さりましたね……。当時の私は完全にそんな感じでした。
嫉妬というのは、自分と他人を「比較」することによって生じる心の動きです。そして、世界の"幸福度"を研究した『世界しあわせ紀行』(エリック・ワイナー/早川書房)という本によれば、「幸福の最大の敵は嫉妬」なのです。
当時の私は、まさに周囲の学生との"比較地獄"とも言うべき苦境に陥っていました。それは「勝ちも負けもできない」という地獄で、「二度とあの頃には戻りたくない!」と強く思う理由のひとつです。
そこで今回は、同じような苦しみを味わっている大学1年生がいるかもしれないと思い、何かの参考になればと、当時の生活を振り返ってみたいと思います。
○上には上が、下には下が……
私は早稲田大学の第一文学部(今はもうありません……寂!)というところに入学しました。高校は東京のパッとしない中堅校で、現役時代は受験に全滅。当時の成績からはとても早稲田なんて想像できるものではなかっただけに、我ながら浪人時代はがんばったなと思います。
しかし、「憧れの早稲田だワーイ\(^o^)/」となったのも束の間。待ち構えていたのは、マジで授業についていけない日々でした。特にフランス語の授業では、予習しても復習してもチンプンカンプンで、単位を取るのに4年かかりました。なのに、クラスメイトたちはホント平然と100点を取っていく。デキの違いを痛感しました。
勉強がダメなら今度は……と、私は別の何かを探しました。自分の強みは何か。人と違うところはどこか。
己の個性とは何か。そういうオリジナルなものを求め、いろいろともがきました。
が、しかし。スポーツをやろうと、カルチャーに走ろうと、必ず上には上がいる。何か特定の分野に詳しくなろうとしても、一歩分け入ればどんなものにもマニアがいるし、「文章なら書けるかも」なんて思ってライティングの授業を選択しても、すでに詩や小説を書いてる人がバンバンいて、追いつける気がしない。
ついには「チキショー、もう何もねえ!」とヤケになり、飲んだくれたり授業をサボったりと自堕落な生活に突入しかけましたが……ここもすでに激戦区で、飲み方のすごい人、サボり方がハンパじゃない人が、うじゃうじゃいる。完全に八方塞がりでした。
○「自分は普通」という屈辱の自己認識
「男性学」の研究者である田中俊之さんによれば、男性が自身の「男らしさ」を証明しようとするとき、そこには「達成」と「逸脱」という2つの方法があるそうです。
意訳すると「エリートかアウトローになることで"俺アピール"を試みる」ということになると思いますが、勝つことも負けることもできなかった私は、そのどちらにも失敗した感覚がありました。
そして待っていたのは……「俺、めっちゃ"普通"じゃね?」という自己認識の受容です。喉から手が出るほど個性が欲しかった人間にとって、これは屈辱以外の何ものでもありませんでした。
でも、納得感がハンパなかった。自分に特別なところなんて何もない。100点を取る能力はないけど、0点を取るほどの極端さもない。そこそこ器用で、小心者で、バランスを気にし、すぐに眠くなる……。当時の私は、そういう"普通"な自分とまわりの人間を比べまくり、嫉妬心にかられ、卑屈になっていました。
○雑多な自分を認めてあげよう!
こうして当時を振り返ってみると、何てバカなことで悩んでいたんだろうと思います。こういう"比較思考"に囚われてしまうと、たとえ学校で一番足が速かったとしても、極端に言えば「でもどうせウサイン・ボルトには勝てない」という発想になってしまい、どこまで行っても自分を認めてあげることができない。それは自分に酷なことだと思います。そんな状態では恋愛だってうまく行くはずはなく、自信がないからアプローチできないし、せっかく仲良くなってくれそうな女子がいても、「自分はいかにモテない男か」を必死にアピールして敬遠されるという謎のサイクルを繰り返していました。
確かに、劣等感や競争心はときに強いエネルギーを生みますが、それが自己の幸福につながるかというと、はなはだ疑問です。そして、まず自分で自分を幸せにしてやれないと、まわりの人々と良好な関係を築くのも難しい。
トミヤマさんは「天才からバカまで、いろんな学生がいる雑多さを楽しんで欲しい」と書いていますが、これはそのまま自分自身にも当てはまることだと思います。「自分は天才か!」と思える瞬間もあれば、「何て自分はバカなんだ」と死にたくなる瞬間もあるでしょう。
でも、そういう雑多さを認めることが、「自分の一部分だけを取り出して人と比べてしまう」という極めて一元的な発想から脱却する契機になるような気がしています。
自分は自分が簡単に説明できるほど簡単な存在ではない! ということで、ひとつよろしくお願いいたします。
清田隆之/桃山商事
1980年、東京生まれ。失恋ホスト、恋のお悩み相談、恋愛コラムの執筆など、何でも手がける"恋バナ収集ユニット"「桃山商事」代表。男女のすれ違いを考えるPodcast番
組『二軍ラジオ』を更新中。雑誌『精神看護』やウェブメディア「日経ウーマンオンライン」「messy」などでコラムを連載。著書に『二軍男子が恋バナはじめました。』
(原書房)がある。
Twitter @momoyama_radio
トミヤマユキコ
ライター・大学講師。「週刊朝日」「文學界」でブックレビュー、「ESSE」「タバブックス」でコミックレビューの連載を持つライター。早稲田大学などでサブカルチャー関連講義を担当する研究者としての顔も持っている。「パンケーキは肉だ」を合い言葉に、年間200食を食べ歩き『パンケーキ・ノート』(リトルモア)にまとめた。
Twitter @tomicatomica