Renesas DevCon 2015 - クラウドの未来を切り拓くRenesas Synergy一色となった基調講演
○ルネサスをグローバルリーダーにするのがCEOのミッション
すでにイベントプレビューのレポートにも書いたが、10月12日~15日にかけて「Renesas DevCon 2015」が開催された。開催の主体は「REA(Renesas Electronics America)」であり、2012年にも同じ会場でやはりRenesas DevConを開催しているが、大きな違いは前回があくまでREAの主催するアメリカ向けのイベントだったのに対し、今回はグローバルイベントということだ。もっともそうは言ってもメインとなるのはアメリカの開発者向けではあるのだが、随所にグローバルイベントらしさを感じさせる部分があった。
その最たるものが基調講演冒頭におけるルネサス エレクトロニクスの代表取締役会長兼CEOを務める遠藤隆雄氏の挨拶であろう(Photo01)。氏は「私のミッションは顧客のためにルネサスをGlobal Semiconductorのリーダーのポジションに着ける事だ」とした上でSynergyプラットフォームがシリコンバレーで開発されたことや、ADASソリューションが米国とヨーロッパの共同開発である事を紹介した。
○IoT時代の鍵はハードウェアではなくアプリケーション
さて、ここからREAのCEOを務めるAli Sebt氏(Photo02)の出番である。氏はまず、今後5年の間にConnected Deviceが250億台に上る事を指摘(Photo03)した上で、こうしたConnected Deviceの一例として携帯電話を取り上げ(Photo04)、重要なのはCPUやメモリ、バッテリーといった内部のリソースや、ネットワークとのコネクティビティではなく、アプリケーションそのものであることを指摘した(Photo05)。
次に、クラウド側に話を移した。
個々の端末がデータを送り出し、それはインフォメーションとなるが、この段階では有効利用はできないし、それをマネタイズするのはさらに困難だ。ところがこれをインテリジェンス化することで、有効なサービスが生まれ、マネタイズが可能になるとする(Photo07)。あるいは産業用ポンプの監視などの場合、単に状態を監視するだけでなく、どんな状況になると異常が発生するようになるのかを解析することで、より効果的な運用が可能になるとする。そうした事を氏はインテリジェンスと定義する。
こうしたシステムをエレガンスに実装するために生まれたのが「Renesas Synergy」である(Photo08、09)。
氏はこのSynergyを「フレキシビリティを提供するプラットフォームである」と強調。さらに、パートナーが簡単に参入できるエコシステムのための仕組みも提供しているとした。これを実現するためのポイントとして、Renesas Synergyのもつ5つの特徴を少々時間を取って説明した。
基本的な話は、日本で6月に行われた説明と変わらないのだが、MCU周りでちょっと明らかになった事があるのでご紹介しておく。Renesas SynergyはS1~S7の4品種が存在するが(Photo10)、ピンおよびレジスタ構成に互換性を持たせるように最大限に工夫したとしている(Photo11~13)。ここで言うレジスタは(詳しくはSynergyの記事で紹介するが)プロセッサのレジスタではなくデバイス側の方であるが、下位互換を保つ事でソフトウェアおよびハードウェアのスケーラビリティを最大限に維持できるように工夫されているとする。
●クラウドで重要となる機能とは?
○クラウドで必須となる安全な通信をいかに簡単に実現するのか
もう1つの特徴が「Safety & Security」である。特に通信の秘匿化はクラウドでは重要なファクターとなる。これにむけて、Renesas Synergyは全シリーズでTRNG(True Random Number Generator)を搭載し(Photo15)、これを利用して公開鍵を生成できる(Photo16)。
さらに秘密鍵を秘匿する仕組みも搭載される(Photo17)。セキュリティ用途向けMCUではそう珍しい機能ではないが、汎用製品でこれを搭載するのはちょっと珍しい。
もちろんこの機能はアプリケーションだけでなく、QSA/VSAアプリケーションからも利用可能で、例えばこれを利用してSSLを実装することも可能という話であった。
こうした仕組みを搭載することで、開発効率を従来(Photo18)から大幅に削減する(Photo19)のみならず、削減した分をより差別化に振り分けられる(Photo20)と説明するが、まぁこの話はある意味必然というか当然であって、そう珍しいものでは無い。もちろんルネサスは、引き続き従来のRZ/RX/RLといった製品も供給する。こちらはすでに利用している開発者にとっては学習する時間も必要なく利用できるものである。基調講演の中では特に触れられなかったが、DevCon開催に先立つ10月8日に米AmazonはAWS IoTを発表しており、これに対応したRX63NベースのStarter KitがMicriumから発売されているなど、別にSynergyだけに注力をする訳ではなく、両方のソリューションを今後も提供する事を重ねて強調した。
さて、ここからはクラウド側である。Synergyを使うにしろ使わないにしろ、クラウドサーバとの接続は絶対に必要になる。これを自分で作るか、それともあるものを使うかは常に問題になる(Photo22)。
Photo22の例で言えば左下の土木機械。これの位置管理とか資産管理、稼働状況などといった事をクラウドベースで行う場合、新規に作りこむよりも既存のサービスとの融合を考えたほうが効果的である。そうした観点から発表されたのが、Zebra Technologies Corporationとの協業である(Photo23)。Zebra Technologiesが提供するZatar IoT Cloud Serviceはヘルスケア/小売/製造/輸送の各分野に向けたソリューションを提供しており、ルネサスはSynergyにこのZatarと接続できるためのソフトをVSAの形で提供、簡単に利用できるようにする(Photo24)。
もう1つがVerizon Communicationsとの協業である(Photo25)。
Verizon Communicationsは現時点では米国No.1の携帯電話キャリアであり、全世界に200以上のデータセンターを保有するクラウドプロバイダでもある。この協業により、ワイヤレス接続となるIoTデバイスの構築がより容易になると説明した(Photo26、27)
●米国でも進む高齢化 - 人々の移動を支える鍵となる自動運転
○半導体ベンダが考える自動運転車の姿とは
今回のDevConでは、このように基調講演の大半をRenesas Synergyに費やしたわけで、その力の入れようが判るというものだが、残った時間は自動車向けにあてられた。氏は「米国の場合、2020年に4000万人が70歳以上になる。
問題はこのうち、自力で運転できるのは4%しかいない事だ。つまり残った人々の移動をどう社会が支えてゆくかを考えねばならない。解決方法は2つある。1つは欧州や日本のように公共交通機関を充実させる方法だ。そしてもう1つは、自動運転車だ」と切り出した。このあたりの視点は、いかにも米国的である。
もう1つの事情として、過去数年の間、事故発生時の死亡率を引き下げるためのさまざまな工夫(エアバッグやABS、TPMS、etc…)が実装されてきた結果、現在では事故発生要因の95%は運転者によるものであり、より一層事故率を下げるためにはやはり自動運転車が必要、という事になっている(Photo28)そうだ。
このために、車にはさまざまなセンサが搭載され(Photo29)、これらを利用して総合的に判断を行う事になる。
幸いな事にもうすでにこうしたセンサは存在し、ちゃんと機能することが確認されているとした上で、ただ、こうした多くのセンサの結果を取り込んで分析するためには、高い処理性能が必要になる事を強調した(Photo30)。これに関してはすでにR-Carシリーズというソリューションが提供されているが、これに併せて新しく「R-Car T2」(Photo31)と「R-Car W2R」(Photo32)がそれぞれ発表されたほか、新たにHarbrickとの協業が発表された(Photo33)。これはHarbrickの「PolySync」というプラットフォームをR-Carの上に搭載し、この上に自動運転に必要とされるアプリケーションを実装してゆくというもので(Photo34)、この協業により自動運転に必要となるインテリジェンスを実現できる、と力説して氏の基調講演は終了した。
全体としてみると、ポイントが絞られていて判りやすかった反面、色々落とされていた事柄(例えばRZ/T1の発表とかRenesas Synergyの最初の2製品の発表)も多いのだが、このあたりは後で直接Ali Sebt氏に伺ったのでこれも別記事でお届けする予定だ。やはり一番インパクトが大きかったのはRenesas Synergyということになるが、次回はこれについてもう少し細かく(インタビューも交えて)お届けしたい。