ゼンハイザー、開放型の最上位「HD 800S」とヘッドホンアンプ「HDVD 800改」を参考出品 - 秋のヘッドフォン祭 2015
ゼンハイザー・ジャパンは10月24日、開放型ヘッドホンのフラッグシップモデル「HD 800」とヘッドホンアンプ「HDVD 800」の次世代バージョンを、東京・中野サンプラザで開催中の「秋のヘッドフォン祭 2015」にて参考出品した。
○開放型のリファレンス機「HD 800S」
ゼンハイザーの「HD 800」といえば、2009年の発売以来揺るぎない地位を獲得している開放型ヘッドホンのリファレンス的存在。最近でこそ「MOMENTUM」や「HD 630VB」といった密閉型モデルも展開しているが、開放型こそがゼンハイザーの真骨頂でありアイデンティティと言っていい。
そんなフラッグシップモデルの次世代バージョンが、今回公開された「HD 800S」だ。同じモデルナンバーは800に「S」が添えられていることから、iPhoneにおける「Sモデル」の扱いをつい連想してしまうが、さにあらず。
折しも来日していたプロダクトマネージャーのAxel Grell氏に話を訊くと、モデル名に追加された「S」には2つの意味があるという。「ひとつはSymmetricの「S」であり、バランス接続の改良を意味する。もうひとつはドイツを代表するスポーツカー、ポルシェ 911カレラSの「S」だ」。
その言葉には、HD 800のひとつの特徴であるバランス接続に磨きをかけ、スピーディかつスポーティーなイメージを与えようとする意図が伺える。
設計上の変更点には、アブソーバーの追加が挙げられる。各周波数帯域のレスポンスをフラットに保てるようになり、結果としてアコースティックな音質向上効果を得られたという。カラーリングはHD 800のシルバーからブラックに変更されているが、ドライバーやハウジングデザインには手を加えていないとのこと。ケーブル素材にも変更はないという。
後述するヘッドホンアンプ「HDVD 800改」とバランス接続して試聴したところ、HD 800譲りのワイドな音場感がさらに広がり、さらに一音一音の粒立ちがくっきりとした印象だ。HD 800の特徴である解像感の高さはそのまま、連なる音がぼやけることもなく、静謐な空間に楽器の存在が浮かぶかのよう。
基本的にはHD 800のキャラクターを引き継いでいるが、ウェイト調整したスポーツ選手のごとき"体のキレ"が感じられる。
「バランス接続を意識してチューニングした」(Axel Grell氏)という開発コンセプトは、素直に頷けるところだ。
気になる価格だが、HD 800より若干高めになることが見込まれる。発売は「2015年内、できれば12月上旬の発売を目指している」(Axel Grell氏)とのことで、ヘッドホン愛好者には格好のクリスマスプレゼントとなりそうだ。
●DSD 5.6MHz対応に進化する「HDVD 800改」
○DSD 5.6MHz対応に進化する「HDVD 800改」
ゼンハイザーの「HDVD 800」は、192kHz/24bit対応のUSB DACを内蔵する同社初のヘッドホンアンプ。USB以外にもAES/EBUとS/PDIF、同軸という計4系統のデジタル入力、XLRバランスとRCAアンバランスのアナログ入力を装備、計6系統の入力をサポートする。ヘッドホン出力はバランス駆動(XLR)2系統とシングルエンド2系統の計4系統だ。デジタル入力を省いた兄弟機「HDVA 600」ともども左右対称のバランス回路設計であるなど、開発時点で同社が理想としたヘッドホンシステムを具現化した製品といえる。
今回参考出品された「HDVD 800改」(モデル名はまったく未定のため仮にこう呼ぶ)は、デジタル回路を大幅に刷新。
DACチップにBurr-brown 7094を搭載することにより、DSD 5.6MHzのネイティブ再生をサポートした。ただし、アナログ部分の設計は変更されておらず、「DSD再生に対応すべく、DACの変更およびDAC周辺の設計見直しとPLLの改良を行った」(Axel Grell氏)とのことで、ディスクリート構成など音に対するのアプローチは大きく変わらないようだ。
見たところ、ボディカラーはブラックに変更されているが(HDVD 800はシルバー)、前面・背面ともコネクタの数に変更はない。筐体デザイン・サイズとも変更点は確認できず、前面に刻印されたモデル名も「HDVD 800」のままだ。入力信号がPCMかDSDかを識別するためのLEDも見当たらない。「まだ最終仕様ではなく、音質面でのチューニングを含め細部はこれから詰める」(Axel Grell氏)とのことで、あくまで試作品段階と理解したい。
前述したとおり「HD 800S」とバランス接続のうえ試聴したが、音の印象はほぼそのままHDVD 800だ。デモ環境の都合で試聴した曲はPCM(FLAC)のみということもあるが、DACの変更を含めヘッドホンアンプとしての個性を打ち出すアコースティックなチューニングの段階には至っていないらしい。
発売時期をたずねると、「2016年中には発売したい」(Axel Grell氏)との回答を得たが、HDVD 800が発表から発売まで約1年待たされたことを思い返すと、予定は未定と考えていたほうが精神衛生上いいかもしれない。
秋のヘッドフォン祭はフジヤエ―ビックが主催しているポータブルオーディオイベント。10月25日まで開催される。