スカイマーク再建、支援するANAと各社との間にある課題・焦点の実態
新経営陣によるスカイマークが船出して1カ月が経過した。「独立した第3極としての経営」を貫き、ANAの支援をうまくかませながら経営を安定軌道に乗せようという思惑が今後どのように具体化されるのか注目されるが、ここで再建と再建に関わる各社にとっての今後の課題・焦点を整理してみたい。
○コードシェアにおける3つの論点
すでに報道されているように、ANAによる運航・整備面の支援によってオペレーションを安定させ機材稼働の効率を高める、不採算路線の休廃止により収益性を向上させる等の施策は実行に移されている。当面の経営安定化への大きな問題はコードシェアだ。
スカイマークの佐山展生会長は、コードシェアは諸準備作業を終えたら2016年冬ダイヤをめどに実施し、具体的内容は10月中旬にも発表するとしていたが、現時点での発表はなされていない。コードシェアをめぐる論点は、「どの路線でコードシェアをし、どれだけの座席を買うのか」「なぜ1年先の2016年冬ダイヤから開始なのか」「スカイマークはANAシステム(able)に乗り換えるのか」の3つを想定できるだろう。
コードシェアに関しては、公正取引委員会の介在が大きくなる。路線選択において不利益を被るのはJALであり、コードシェア実施によってどれだけANA側が寡占的地位を築き、競争を阻害する危険性が生じるかが問題となる。
これまでの報道では、ANAは「福岡/新千歳線は寡占度が大きくなりすぎるので難しく、その他の路線を検討する」と発言している。確かに、両路線でANAがスカイマーク便にコードを貼った場合、JAL:ANAの便数比率は羽田=福岡線が41%→32%、羽田=新千歳線が38%→32%に低下する。公取委もそのような指導を考え、実施しているようだ。
しかし、他の路線は違うのだろうか。例えば中部=新千歳線では上記のJALの対ANA便数比率は42%→33%、羽田=鹿児島線では42%→35%と、状況は似たり寄ったりである。公取委が「寡占」と判断する対競争相手の便数シェアを設定しない限り、これらの路線間の共同運航の可否(独禁法抵触)判断はかなり恣意的なものとなる。JALが不服を申し立てない路線は非該当とはいえ、利用者には極めて分かりづらい。また、ANAが座席買い取りに難色を示す路線もあるだろう。
茨城線などはスカイマークの「いま得」という余裕席が多い時に格安になる運賃だから乗る人もいるのであって、これにANAのコードシェア運賃を設定しても席を埋めるのは難しいと思われる。
このように、両社間での利害調整は簡単にはいかないだろう。ANAにとっては、埋まりにくい路線の席を支援と割り切って買い取ったり、システム改修に多額の投資を行ったりすることには、株主への説明責任も生じる。
○コードシェアの遅れはシステム開発が理由?
コードシェアの問題は他社も巻き込んだものになるということはあるが、それでも疑問なのはその開始が1年後をめどにしていることである。開始時期が遅れるひとつの理由として、スカイマークのable導入の有無も関係しているのではないだろうか。もちろん、本当にableを導入するかは未定であり、ableとは違うシステムを導入することも十分考えられる。しかし、現実に本当に1年もコードシェア開始が遅れるとすれば、その理由はable導入に要する時間でしかないと筆者は考えている。
スカイマークにとって、収入の下支えとなるANAによる一定座席数の買い取りの実施は早い方がいいのは明白だ。
そのためのリードタイムを考えると、JALとフジドリームエアラインズ(FDA)が行っているように異なるシステム間での座席のやり取りを人的操作を介して行えば、比較的小規模の改修で済む。
これを1年後というからには、スカイマークがableを導入することを前提に協議が進められているか、もしくは大規模なシステムの改修を予定していると推測できる。仮にableを導入する場合、スカイマークの予約システムは社内の運航・収入管理・乗員管理などのシステムと連携しているので、これらをableと連携させるには多くの工数と時間を要するのであろう。
なお、ANAが支援している他の新興航空会社3社(エア・ドゥ、ソラシドエア、スターフライヤー)は、ableを使用しながら自ら経営している。最終的にableと自社システムのどちらがスカイマークの価値(株価)を高めるかで、割り切った判断をすることが合理的と言える。
●現実味を帯び始めたANAのA380導入、無視できないインテグラルの狙い
○ANAがA380導入を検討する理由
一方、ANAにも厄介な問題が残っている。目先の問題は債権者集会でエアバスとリース会社CITを取り込んだ「約束」の実行だ。CITに今後の機材のリース(セール&リースバックの手法が有力)を分配することは難しくないが、問題はエアバスだ。
「あり得ない」と思われていたANAのA380の導入が、業界で現実味をもって語られている。
「3、4機のA380なら何とか使いこなせる」とANAの事業計画部門が判断したのか、ANA社内の「A380推進派」が「JALが追随できないことをすべき」と主張しているのか真相は不明だ。しかし、いかにANAとはいえ世界のエアラインが難儀しているA380(近々、製造を中止するのではという見方もある)を収益化ツールにすることは容易でなく、飛ばす路線の選択は難しいだろう。
ボーイングのB747での運航をB777に小型化して収益性を確保した欧米線に投入するとは考えにくく、バンコクやホノルルといった多客路線の「おまとめ便」的な活用しか、筆者には思い浮かばない。A380数機に対する初期コストは決して小さくなく、また4発エンジンを背負う機体にとって、原油価格がいつまで低止まりしてくれるかも不透明だ。
A380ではなく、使い勝手の広いA330を選ぶ可能性があるのかどうかは見えないが、A330はANAも積極運用しているB787と機材の位置づけが類似している。その意味では、この重複を嫌ってA380のような超大型機に向かうということなのかもしれない。
○インテグラルの「株式の時価」以外の狙い
そして、最後に残るANAの最大リスクは、投資ファンドであるインテグラルのエグジットだろう。
50.1%の株保有率であるインテグラルがこの0.1%に最後までこだわったのは、実質的な経営支配などではなく、最後にエグジットする時に株式に与える「付加価値」だと思われる。スカイマークの再上場に成功した後、株価がどうなるかは市場に委ねるしかないが、単なる「株式の時価」とは別の価値が50.1%にはある。「経営支配権」に高い値を付け、売却するためだ。
ANAとの投資契約においては当然、競合者への売却を認めないという制約条項はあるはずだ。しかし、世の機関投資家で「インテグラルから高値で買い取っても、しかるべき時期にスカイマークの経営権がほしいところに売り抜ける」と考えるものはいるだろう。その後に、例えばJALやデルタ、エアアジア、そしてANA等を集めてビッドさせるというものだ(出資比率制限に対し、技術的にクリアすることが可能という前提ではあるが)。このようなことまで想定して契約でインテグラルとその売却先を縛れているかどうかは分からないが、今後複雑な展開はあり得るだろう。
このように、一段落したかに思えるスカイマーク再建はまだまだ波乱要素を含んでいる。
コードシェア開始が1年ずれ込むとすれば、スカイマーク自身がその間にどれだけの業績を自力でたたき出せるかで、ANAとの力関係も変わってくるだろう。
そういう意味では、ANAにしてみればスカイマークが急激な再建を果たすことは痛しかゆしであり、インテグラルとの利害がぶつかる局面もあり得る。今回の支援劇がANAにとって「高い買い物」となるのか、正念場は近いのではないだろうか。
○筆者プロフィール: 武藤康史
航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上におよぶ航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。