アラサー会社員が地方で働くメリットと、気をつけたいこと
近年、「地方創生」を耳にする機会が増えたが、実際に都内で働く人が地方でビジネスをするなら、どのようなメリットがあるのだろうか。そこで今回は、過去に岩手県知事や総務大臣などのキャリアを持ち、『地方創生ビジネスの教科書』(文藝春秋/1,200円+税)の著者でもある、日本創成会議座長の増田寛也氏に、地方での働き方や地方が求める人材について、お話を伺った。
○地方の働きやすさとは
――都市勤めのアラサービジネスパーソンが地方で勝負するメリットは何だと思いますか
仕事上での自己実現について考えると、都内よりも達成しやすいと思います。私が岩手県の知事を経験して感じたのは、地方では人材層が薄いということです。だからこそ、スキルを持っている人は強い。ビジネスパーソンが自信のある分野でビジネスを始める場合、都心と比べて競争相手が圧倒的に少ないと思います。
また、地方であれば職住近接30分以内が多く、物価も安いので、生活がしやすいでしょう。30代前後の既婚者や子育て中の方がワークライフバランスを両立させるには、東京は難しい地域だと思います。
通勤時間が片道60~80分と長時間で、近所との関わりが少ないケースも多いです。例えば子供が熱を出した場合、地方の企業であれば「一旦、家に帰って子供の様子を見たらどうか」と声をかけてくれます。15分ほどで自宅に帰れて、子供を看病したら会社へ戻れる。この"近さ"が地方で働く良さだと思います。
起業してみたい方にとっては、細部の法律関係まで相談可能な体制になっていることが重要だと思いますが、今は地方の環境も相当整ってきています。競争相手が少なく、環境が整っており、ワークライフバランスを確立させやすい。こうした生活環境からみた働きやすさが、地方のメリットとして大きいのではないでしょうか。出身地の近くで知り合いがいれば、ネットワークを広げやすいという利点もありますね。
――逆にデメリットはありますか?
人によって考え方は異なりますが、毎晩違うナイトスポットに出掛けたい、歌舞伎座に通いたい、など都市的な刺激に飢えている人にとって、あまり満足感は高くないかもしれません。
――Iターン、Uターンでは、東京より南の地方が人気だと思うのですが、東京より北の状況はいかがでしょうか
たしかに、移住となるとそうですね。北の地方の場合でも、東北を飛ばして北海道に行きがちです(笑)。しかし、たとえば仙台なら東京から1時間半ほどで行けますし、都会の需要に合ったサービスを仕事にしたい方にも、良い地域ではないかと思っています。
●地方で活躍するのに"必要な力"とは
○地方で働くために知っておきたいこと
――都市で働くビジネスパーソンが地方でビジネスを行うにあたって、気をつけなければならないことはありますか
すべてその土地の習慣に従う必要はありませんが、東京と若干異なっていることは知っておいた方がいいでしょう。時間や生活の感覚において、ゆったりとしている部分はあります。都心のように、時間に対して1分1秒を争うことはありません。
――例えば、土地による習慣や、人間関係はあまり気になったりはしないのでしょうか
相手が30代前後の働いている人であれば、土地の習慣によって仕事が進めにくくなることはほとんどないと思います。
もちろん、全体でみれば閉鎖的なところはありますが、県庁所在地や、第二の都市程度であれば、経済が発展しています。はじめは相手の口が重たくなることもあるかもしれませんが、実際に入ってみると、親切な人が多いんです。ただ、行ってみないとわからない部分も多いので、東京から地方へ行って働いている人達の口から話を聞く機会があるとなお良いですね。
○いま、地方が求めている人材とは
――都市で働くビジネスパーソンが地方で活かせる、求められるスキルというのはありますか
地方で人材が足りないのは、サービス業やITなどの事業です。また、デザイン系も手薄ですね。
――どういったサービス産業が多いのでしょうか
サービス産業の幅は広いのですが、特に観光業です。なかでも、今注目されているものに、インバウンドに対しての通訳やレセプションの応対などがあります。こうした観光業において、地方にはまだまだ伸びしろがある。
近隣の都市とライバル関係にあるよりも、むしろ広く協力関係をつくることが大事になっています。地元の人達だけでは、観光協会で留まって衰退しています。だからこそ、県から飛びだして、他県の端までダイナミックに動き、企画することが必要です。
――サービス産業などにしても、企画を立てられる力が求められるのでしょうか
企画のみならず、実現へむけての交渉、集客、PRまでを含む全部をひとつにまとめられるような力が求められます。古い企業形態のまま固まっている企業が多いので、新しい分野に広げていく意欲と、新しい分野で全体をとりまとめられることが大事。そのあたりは、なかなか地元の人だけだと出来ないことだと思います。
やっぱり実際に行ってみないと、自分に合っているかどうかわからないですよね。ドアをノックしてみて初めて、その先の人や自然など、地方ならではの良さを感じるのではないでしょうか。
――ありがとうございました
『地方創生ビジネスの教科書』(文藝春秋/税別1,200円)
日本各地に眠る宝の資源を発掘し、磨き、売り込み、稼ぐには?地方に魅力的な仕事を生むことで、人が集まり、街がつくられ、次世代へもつながる。本書では、「地方創生ビジネス」10の事例を紹介。鍵を握るI&Uターン、地方ならではのIT活用、人づくり・場づくり、補助金からの自立、日本一の売り場へ並べる方法、農協との共存作法、小ささを逆手に取る方法、など「成功の極意」を惜しみなく伝える。