大学デビューの落とし穴 (15) 11月:学祭での「プチ社会人」経験をどう活かすか?
大学1年生のみなさん! 「大学デビューのホントのところ」、知りたくないですか? 本連載は、かつて大学デビューに半分成功・半分失敗したトミヤマユキコ(ライター・大学講師)と清田隆之(恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表)が、過去の失敗を踏まえ、時に己の黒歴史を披露しながら、辛く苦しい学生生活を送らないためのちょっとした知恵をお授けする。そんな連載です。
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○高校の文化祭とはまったくちがう「学祭」
11月になりました。学祭シーズンの到来です。開催日が近づくにつれて学内全体がザワついてゆくあの感じ、お祭り大好き人間にとってはたまらないことでしょう!
また、お祭りなんか嫌いだという人も、学祭に合わせた臨時休講があったりして、夏休みがもう一度戻って来たかのような高揚感を味わえますから、文句は言えませんよね。
学祭が中学・高校の文化祭ともっとも異なるのは、できることの規模がデカかったり、幅が広かったり、ということ。全てが先生の許可のもとに進んでいく文化祭とは違って、学祭では、予算の組み方から、出し物の内容まで、かなりの部分を学生だけで決めることができます。そして、学生の身分でありながら「プチ社会人」として外部の人たちとやりとりすることで、経験値を上げたりもできます。
とくにイベントサークルなどは、芸能人やミュージシャンを呼んだりできるので「学生なのにこんなデカいことできた!」という達成感を味わえます。
バイトやインターンもプチ社会人だと言えますが、その多くは日常的な業務の域を出ません。それに対して、学祭はその名の通りお祭りなので、非日常的だし、苦労もあるけれど、基本とても楽しい。楽しくて経験も積めるなんて、めっちゃお得! ということで、イベントサークルは大変人気があるようですが、かなり危ういところがあるのもまた事実です。
○「学生だから」は自分から言ってはいけない
たとえば、依頼時に「学生の企画だからノーギャラで」と言い出す学生がけっこういますが「学生=貧乏=ノーギャラ」という図式を素直に信じる大人なんて、そうそういません……。だいたい、イベントが成功したら、打ち上げと称してひとり3,000円くらい使って飲み会とかやるワケじゃないですか。そのお金があるのなら、ギャラ払えるよね? という話です。
もしノーギャラでもOKしてくれる人がいたとすれば、それはものすごい聖人君子……である場合はごく少なくて、たいていは、仕事としてではなくボランティアとして、学生のプチ社会人ごっこに付き合ってくれているのだと考えるべきでしょう。
まぁ宣伝になるからいいや、ぐらいのテンションで、やっつけ仕事をしている場合も少なくない。
相手が学生だろうとなんだろうと、ちゃんと仕事がしたいと思っている人ほど、「学生企画だからノーギャラで」という態度に疑問を持っています。このことについては、文筆家の岡田育さんが「どうして彼らは「お金」を払いたがらないのか」という大変すばらしい文章を書いてらっしゃいますので、各自チェックするように!
「少ないかも知れないけどギャラは払います!拙いかも知れないけど社会人と同じように動きます! よろしくおねがいしゃっす!」という気合いを見せてくれたら、多少のことは許せるし、なんなら応援だってしちゃうんですよ、大人は。「学生だから」と言うのは、学生側が言っていい言葉ではないのです。それは、大人たちがあなたたち学生を慰め、励ますために使う言葉なのです。
○「社会人気取り」として記憶に残らないために
しかし! プチ社会人ぶりを批判されたくないからといって、決して小さくまとまってはダメですよ! 学生のうちにちょっと背伸びしてプチ社会人的なことをするのは、決して悪いことではありません。野心的な学生は、掛け値ナシに、とてもいいものです。
野心的といえば、わたしの大好きな安野モヨコさんの『働きマン』(講談社)の第13話に、こんなセリフが出て来ます。
たいていのヤツはボールを「入社」に向かって投げるから/最高でも「届く」で普通はもっと手前で落下する/ところが目標を「入ってから何をするのか」「どうなりたいのか」に設定すれば/自ずと遠くへ投げるから結果として「入社」は飛び越えている
これは就職活動に関することなので「入社」というワードが入っていますが、ここを「イベントの成功」に変えてみてください。イベントがやれればなんでもいいとばかりにいい加減なことばかりする学生の球は、確実に手前で落ちます。でも、目標を遠くに定め、全力で球を投げれば、見える世界は大きく変わります。
わたしにも経験があるのですが、イベントを企画した学生が、その後社会人になってかつてのゲストに再会し「ああ、あの時の君か!」となることや、それが新たな仕事につながることは珍しくありません。つまり、「あの時がんばってた君」として好意的に思い出してもらえるか「社会人気取りだった君」として思い出されてしまうかは、過去の自分がどんな球を投げていたかにかかっています。
「学生だから」と甘えたことを言えば言うほど、再会したときに恥ずかしい思いをする可能性が高いのです。逆に、めちゃくちゃ失敗して怒られたとしても、あくまで大人のスケールでがんばってさえいれば、再会の恥ずかしさは半減します。たかが学祭、されど学祭。
プチ社会人としての投球スタイルには十分注意してください。
なお、学祭に一切関わらず、家でゴロゴロしている諸君。君たちもある意味で正しい。どうせ卒業すれば、嫌でも大人の世界で、大人のスケールで生きていくハメになるのですから。全力で学生時代を学生らしく生きるのも、アリだと思います……と学生時代1度も学祭を経験せぬまま大人になってしまった(大学の都合で学祭がなかった)わたしからお伝えしておきますね。ではまた来月!
トミヤマユキコ
ライター・大学講師。「週刊朝日」「文學界」でブックレビュー、「ESSE」「タバブックス」でコミックレビューの連載を持つライター。早稲田大学などでサブカルチャー関連講義を担当する研究者としての顔も持っている。
「パンケーキは肉だ」を合い言葉に、年間200食を食べ歩き『パンケーキ・ノート』(リトルモア)にまとめた。
Twitter @tomicatomica
清田隆之/桃山商事
1980年、東京生まれ。失恋ホスト、恋のお悩み相談、恋愛コラムの執筆など、何でも手がける"恋バナ収集ユニット"「桃山商事」代表。男女のすれ違いを考えるPodcast番
組『二軍ラジオ』を更新中。雑誌『精神看護』やウェブメディア「日経ウーマンオンライン」「messy」などでコラムを連載。著書に『二軍男子が恋バナはじめました。』
(原書房)がある。
Twitter @momoyama_radio