新星・斎藤瑠希、歌への葛藤を経て『ミラベルと魔法だらけの家』のヒロインを勝ち取るまで
●「もう私、歌を歌えない」完璧を求めすぎて悩んだ過去
ディズニー・アニメーション・スタジオが贈るミュージカル映画『ミラベルと魔法だらけの家』(11月26日より公開中)で、ヒロイン・ミラベル役の日本版声優に大抜てきされた新星・斎藤瑠希。彼女の圧倒的な歌唱力と表現力はすでに堂に入っているが「これまでにいろいろな試練や、乗り越えなきゃいけない壁がたくさんありました」と言う。才能溢れる19歳は、どのようにしてヒロインの座を射止めたのか? 単独インタビューでこれまでの道のりや今の思いを語ってもらった。
ディズニー長編アニメーションの記念すべき60作目である『ミラベルと魔法だらけの家』。見事にミラベル役を勝ち取った時、斎藤は「本当に信じられないくらいびっくりして、夢なんじゃないかと思いました」と驚きを隠せなかったそうだ。
そもそも彼女が歌を好きになったきっかけも、ディズニー映画だったから喜びもひとしおだったに違いない。「両親が大の音楽好きで、『メリー・ポピンズ』など、ディズニーのミュージカル作品を小さい頃からよく観ていました。映画の内容はちゃんと理解できなくても、歌だけは覚えていることも多かったように思います。
当時から歌が好きでしたが、それがお芝居だという概念はなかったので、自分はいつか歌手になりたいと思っていました」
斎藤が、芸能界入りしたきっかけはLittle Glee Monsterを輩出したプロジェクト「最強歌少女オーディション2014」だった。もちろん、幼い頃から歌へのポテンシャルは高かったようで、斎藤は「周りから『歌が上手いね』と言われ始めた頃は、天狗になっていました」と笑う。
「でも、そこからミュージカル女優になりたいという夢を追いかけるようになってからは、ただ歌が上手いだけではダメなんじゃないかと思い始めました。歌で感動を伝え、人が聴いて鳥肌が立つような歌い方をするには、どういう表現をすればいいんだろうとすごく考え込むようになったんです」
勤勉でひたむきな人ほど、自分に課すハードルを上げすぎてしまうことは多々ある。斎藤もそうで「そのことに悩み始めてからは、歌に対する自信がどんどん削がれていきました。歌に関して停滞していた時期だったと思います」と告白。
渡辺ミュージカル芸術学院に1期生として入学したが、当時も「完璧を求めすぎていて、自分のなかでこんがらがってしまいました」と述懐。「それで先生に『もう私、歌を歌えないです』と言い出すくらいまで落ち込みました。
そしたら先生から『そんなに今から完璧を目指して、これから先どうするの?』と言われてハッとしたんです。確かにそんなことをしていたら、今後の伸びしろなんてないなあと気がついて、そこで変なこだわりを捨てることにしました。そしてもう少し外側に目を向けて、自分はなんのために、そして誰のために歌うのだろうと、考え直すようにしたんです。そこで初めて、肩の荷が下りた気がしました」
●ディズニーヒロイン演じ抜き自信「自分がより解放された」
そんなふうに、心を前向きに切り替えて挑んだのが、『ミラベルと魔法だらけの家』のオーディションだった。「今までのオーディションでは、自分をよく見せようとしすぎて緊張し、固まってしまうことが多かったんです。でも、『ミラベルと魔法だらけの家』のオーディションでは、カッコつけず、自分らしく歌おうと思えて、すごくリラックスして挑めました。それでミラベル役をいただけたので、そういうふうに切り替えられたからこそ、今の自分があるとも思っています」
ミラベルはコンプレックスを抱えたヒロインだ。“魔法だらけの家”とタイトルにあるとおり、ミラベル以外の家族は、5歳になると魔法のギフト(才能)を手にしてきたが、なぜかミラベル1人だけはそれが与えられなかった。
ミラベルは家族と仲良く暮らしてきたが、ある日、家に大きな亀裂があることに気づく。
斎藤はミラベルというキャラクターに、とてもシンパシーを覚えたそうだ。「私も三姉妹の三女で、ミラベルが抱える末っ子ならではの悩みにはすごく共感できました。常に人から見て姉は自分との比較対象になるし、自分も姉と比べてしまいます。特に私は姉妹のなかで、自分だけがこの仕事をしているので、親や周囲からどんなふうに見られているんだろうかと不安になることがあります。だから、ミラベルが自分だけ魔法の力を持てないことに対してコンプレックスを抱く気持ちも大いにわかりました。いろんな葛藤を抱えるミラベルですが、自分も熱い気持ちを持ってミラベルと向き合おうと思って演じました」
完成した映画では、斎藤の伸びやかで力のある歌声が、多くの人々の琴線を揺らしそうだ。初の大役を無事演じ抜いたことで、斎藤はどんなものを得たのだろうか。
「芸能の仕事で初めていただいた大きな仕事だったので、すごく貴重な経験をさせていただいたからこそ、自分に自信がついた気がします。また、自分がより解放されたというか、ミラベルを演じたことによって、今までなかった引き出しが増えたような感じです」
そう目を輝かせる斎藤に、憧れのスターについて聞くと、クイーンのフレディ・マーキュリーの名を挙げた。「父や母も音楽が好きで、60~80年代のロックなどもよく聴きますが、私自身もその頃の歌が大好きです。特にフレディ・マーキュリーさんの声の張りや熱さはすごいなと感動しますし、芯の強さも含めて、全部が声に表れていると思います。私もいつか、歌によって多くのものを伝えられるような人になりたいです」
くるくるとよく動く斎藤の瞳は、まさに希望に満ち溢れている。最後にこれから『ミラベルと魔法だらけの家』を観る人たちへのメッセージをもらった。「私自身もそうですが、学校や仕事場など、人生におけるいろんな場面で、人と比べて自分を下に見てしまい、落ち込んでしまうことってたくさんあると思うんです。でも、この映画を観てもらえば、きっとミラベルが背中を押してくれるのではないかと思います。
いろいろな深いメッセージが織り込まれた作品なので、ぜひ劇場で観ていただきたいです」
■斎藤瑠希(さいとう・るき)
2002年9月26日生まれ、埼玉県出身。2014年、「最強歌少女オーディション2014」の育成クラスに選出され、ワタナベエンターテイメントスクール、日本芸術高等学園で歌やダンス、演技を学ぶ。2019年、渡辺ミュージカル芸術学院に1期生として入学。卒業後、ワタナベエンターテインメントに所属。2021年、TBS日曜劇場『ドラゴン桜2』に出演。2022年にはミュージカル『ヴェラキッカ』が待機中。