ムロツヨシ、“お調子者”の原点…少年期に笑いの大切さ実感! 役者としての転機も明かす
●頑張ってお調子者になっていた少年期
周囲を惹きつける人柄も魅力的で、ドラマ、映画、舞台にと快進撃を続けている俳優のムロツヨシ。世界的大ヒットを記録したアニメーション映画『ボス・ベイビー』の続編『ボス・ベイビーファミリー・ミッション』(12月17日公開)では、前作に引き続きボス・ベイビー役を演じている。下積み時代を経験しながらも、今年は初主演を果たした映画『マイ・ダディ』が公開となるなど「俳優としての夢が叶った実感がある」というムロ。しかしながら「実感はあるけれど、これからの目標の立て方を考えないといけない」と告白。「現状維持をしようと思ったときが一番危険だと思っている。思い切った変化が必要かもしれない」と思いを巡らせる。今の彼を作り上げた少年期を振り返りながら、ムロツヨシが役者としての現在地を明かした。
■ボス・ベイビーは「飲み友達」 続投に喜び
見た目は赤ちゃん、中身はおっさんであるボス・ベイビーの活躍を描く本シリーズ。
前作の25年後の世界を舞台に、すっかり大人になったボス・ベイビーと兄ティムの前に、「悪の天才博士が世界征服を企んでいる」という情報をキャッチしたベイビー社から派遣されてきたボス・レディが登場。ボス・レディから指令を受けた2人が、世界の危機に立ち向かっていく姿を描く。
ボス・ベイビー役を続投することとなり、ムロは「とてもうれしい」と大きな笑顔。自宅には大きなボス・ベイビーのぬいぐるみがあるそうで、「我が家では、ボス・ベイビーがキャンプ用のチェアに座っているんですよ。よく飲み友達になってもらっているので、久しぶりな感じがしない」とすっかりいい相棒になっている様子。
前作において声優初出演を果たし、「前回はまっさらな状態だったので、現場でとても苦労しました。今回はボス・ベイビーを演じた経験、記憶が自分の中にありますので、それを思い出しながら演じました」と経験を生かせたという。「実写のお芝居は表情、動作、仕草で表現できることがたくさんある。
アニメの表情や動きに合わせながら、声ですべてを表現するというのはとても難しいことですが、やりがいがあります」と語る。
“中身はおっさん”だったボス・ベイビーが大人になり、見た目も中身も正真正銘のおっさんになってお目見えする。しかし世界の危機に立ち向かうべく、ボス・ベイビーは再び赤ちゃん姿に戻ってミッションに挑むこととなる。ムロは「今回のボス・ベイビーはリーダーシップを取って、赤ちゃんたちをまとめるような場面があります。ボス・ベイビーは上から目線でありながらも、なぜかみんなから慕われる。そこに説得力がないといけないので、自信がありながらも、根っこには優しさや熱いハートがあることを意識して演じました」と語り、「ボス・ベイビーはこんな上司がいたらいいなと思うような人ですよね。ダメなヤツも見捨てず、いいところを見つけてくれるような人。僕も憧れます」と役柄への愛情をにじませる。
■「“笑い”っていいものだ」と少年期に実感
今や専業主夫となったティムと、エリートビジネスマンとなったボス・ベイビー。昔を思い出しながら再び兄弟の絆を取り戻していく彼らを見ていると、自身の子供時代を振り返ってみたくなる人も多いはず。ムロは一体、どのような少年だったのだろうか?すると「頑張ってお調子者になっていました」とにっこり。
「父、母がいなくて、おば家族や祖母に育てられてきたので、そのことを周囲に知られていくにつれて、『かわいそうだな』と思われることもあって。先生に家族の話を聞かれて打ち明けると『ごめんな』と言われたり。僕自身、その家族構成についてはつらくないんですけど、“聞いちゃいけないことを聞いてしまった”という空気になったり、『かわいそう』と思われるのが苦手でした。そう思われないようにするには、お調子者になった方がいいかなと思って」と微笑みながら、「でも笑いのセンスもないもんだから、人気者にもなりきれなくて(笑)。面白いヤツにはなれないけれど、なんとか周囲を笑わせようと試みたりして。
“諦めずに試みた”という点は、僕の強みかなと思っています。それは今も変わりませんね! センスのある側ではなく、センスのある側に行きたくてもがいている人なんだと思います」と自己分析する。
ボス・ベイビーたちの奮闘劇には、楽しい笑いがたくさん詰まっている。続投発表時、ムロは「こんな時代にボス・ベイビーになって、みんなの前でわちゃわちゃしたいんです。みんなで笑っていよう」とコメントしていた。彼のライフワークともいえる舞台『muro式』でもいつも観客を大いに楽しませてくれるが、「“笑い”っていいものだ」と思った原点も少年期にあるという。
ムロは「祖母と祖父と3人で暮らしていたときに、祖母と祖父がまあまあ仲が悪くて。家に笑い声が少なかった。
そこで自分がピエロになって何かをやったら、2人も笑ってくれた。2人が会話をすると喧嘩になってしまうので、“僕に迷惑をかけないように静かにしている”という空気も苦手でしたね」と回想。「それに舞台や映画を観て笑っている瞬間って、誰かを憎んだり、嫌ったり、マイナスな感情は消えていますよね。お客さんが手を叩くほど笑ってくれたりすると、ものすごくうれしい」と目尻を下げる。
少年期から客観的に周囲を見つめていた様子だが、ムロは「愛情をいただいているから、そうならざるを得なかった。迷惑をかけてしまうこともあるけれど、あまり迷惑をかけるわけにもいかないなと。“俯瞰で見ていた”というカッコいいものというより、どうしてもアンテナを立ててしまっていたように思います」と語る。
●自分を売り込む人生に変えて花開く
■売り込み続けた自分に「今は感謝」
『ボス・ベイビーファミリー・ミッション』で主人公を演じただけでなく、今年は愛する娘を救うために走り出す父親役を演じた『マイ・ダディ』で映画初主演を果たすなど絶好調。
ムロは今や出演作が途切れない俳優となった。
これまでの道のりにおいては、下積み時代も長かった。「25、6歳くらいまではかっこつけた舞台役者でした。『役者は待つものだ』という言葉にちゃんと洗脳されて(笑)、オファーを待つのがかっこいいと思っていました。でもある日アルバイトをしながら“これがいつまで続くんだろう”と思ったら、休憩時間に涙が流れた。さらに当時お付き合いした女性もいなくなってしまうなど、悲しいことが同時に重なって。そこで次の日から一気に考え方を変えました。待つのではなく、営業して売り込む。
自分を売り込む人生に変えました」と転機を明かし、「『ムロツヨシです』と連呼して、『使ってください』、『売れたいです』、『経験を積みたいです』と言いまくって。人が変わったようでした」と笑う。
営業活動については「周囲にはバカにされました」とも。「それでも笑ってやり続けた自分に今は感謝ですね。もちろん売り込むだけではダメだから、売り込みを続けながら、お仕事をいただけたときにはそこで経験値を増やして、それを今度はきちんと記憶していく。失敗と成功を記憶して、新しい成功を求めていったんです。時間はかかりましたが、僕にはこのやり方しかなかったんだろうなと思います」と力強く語る。■夢が叶ったと実感も危機感「変化が必要かも」
その積み重ねが今、確実に実を結んでいる。「俳優になりたい」と思ったときから考えると、ムロは「今、夢が叶ったという実感がある」とキッパリ。しかしながら、彼は先を見据えてこう打ち明ける。「ものすごくありがたい状況です。自分の中に“このままでいたい”という甘えが出てきているのも確か。でもこれが一番危ない。現状維持をしたいと思ったときが一番危ないと感じています」。
続けて「欲しがっていたものが手に入ったんだから、それをやり続けられればいいのにね! 難しい」と笑顔を弾けさせながら、「舞台に立っているとよくわかるんですが、 “俺を見てくれ!”という役者に対しては、お客さんも“よし、見てやろう。見せてみろ”と前のめりになるんです。でも放出し慣れた人間が出てきた途端、お客さんも少し興味を失ってしまったりする。それはきっと役者が成功体験をもとに、“これをやればいいんだ”と楽をしようとしてしまっているから。舞台に立つ以上、現状維持ではなく、お客さんが楽しみにするようなもの、もしくは何をしでかすかわからないと期待してもらえるものをお伝えしないといけないなと思っています」と役者業の奥深さを痛感している。
必要なのは、「変化かもしれない」と率直な思いを口にする。「役者として生きていくという夢のために何年もかかってしまったがゆえに、ここからの目標の立て方が足りていない。だから恐怖心が増えていく。20代でガラッと自分を変えたように、ここでもう一度変えないといけないのかもしれない。新しい考え方を持つのか、仕事をしない時間を持つのか……。今までの成功体験も一度捨てないとかもしれない。その勇気を発動させることが必要なのかもしれません」と頭を悩ませることも多い。
そんなときに励みになるのが、追いかけたくなるような先輩たちの存在だ。「役者としては古田新太さん、阿部サダヲさんという、昔から芝居をどうにか盗もうとしたお二人を見ながら生きています。一人の大人としては、リリー・フランキーさんに憧れます。何を考えているかわからないような危うさを持っているけれど、いろいろな話を聞いてくれて、いろいろな答えを持っている。これぞ大人だなと思います。追いかけたくなる人がいるというのは、とても幸せなことです」としみじみ。これからもムロツヨシはもがきながら、奮闘していく。その姿こそ彼の人間力、そして役者としての魅力につながっている。
■ムロツヨシ
1976年1月23日、神奈川県出身。大学在学中に役者を志し、99年に作・演出・出演を行った独り舞台で活動を開始。本広克行監督の映画『サマータイムマシン・ブルース』(2005)をきっかけに映像にも活動を広げる。福田雄一監督の映画『大洗にも星はふるなり』(2009)やドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズで個性派俳優として存在感を発揮。2018年には42歳でエランドール賞新人賞を受賞する。『マイ・ダディ』(2021)で実写映画初主演を果たすなど、映画、ドラマ、舞台とジャンルを問わず活躍している。
(C)2021 DreamWorks Animation LLC. All Rights