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中国出身の学生が日本で起業したその理由は? popIn 程氏にきく

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中国出身の学生が日本で起業したその理由は? popIn 程氏にきく
●公平に評価される環境を求めて日本へ
官民こぞってベンチャーへの投資がひきもきらない。2014年に国立大学のベンチャーキャピタル設立が認められると、東京大学や大阪大学、京都大学、東北大学が設立するベンチャーキャピタルに政府はあわせて1000億円の出資を決めた。

また、東京大学にはすでに民間の東京大学エッジキャピタル(UTEC)があるが、UTEC 3号ファンドには経済産業省が設立した産業革新機構が100億円を出資。同じく経済産業省が所管する中小企業基盤整備機構の投資先にはニュースアプリのGunosyやゲームアプリの開発運営を行うgumi、オンライン広告事業を手掛けるフリークアウトなどIPO(新規公開株)で注目を集めた企業が並ぶ。

一方で、ロボット技術のSCHAFTや企業に福利厚生サービスを提供するAnyPerk、電動車いすのWHILLなど日本から米国に渡って起業した例や本拠を米国に移した例も多く、日本発の技術や人材の流出を危惧する声もある。

その中で、日本国内において中国出身の学生が起業した会社がpopInだ。日本のネットメディアを相手に事業を展開、額は大きくないもののUTEC1号ファンドの出資を受け、2015年春に中国企業バイドゥによるM&Aでエグジットとなった。

popInの提供するサービスは、バイドゥが買収しグローバル展開を進めようとしていることからも明らかなように、起業の地として日本である必要はなかった。
その中で、popInはなぜ日本で起業したのだろうか。代表取締役の程氏を取材した。

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○公平に評価される環境を求めて日本へ

popInは、中国出身の程涛氏が東京大学大学院 情報理工学系研究科の学生であった時に、程氏自身が持つ特許をもとに、東京大学エッジキャピタルの支援によって2008年7月に設立されたベンチャー企業だ。ユーザーが記事を「どこまで」「どれだけ」きちんと読んだのかを計測する技術や、関連記事のレコメンド機能などを多くのニュースメディアに提供している。

現在は日本で高く評価されるようになったpopInのサービスだが、程氏はその「評価される場」を求めて日本へ来た。「中国では大学受験が非常に大変なのですが、都市部出身者と地方出身者では合格ラインが大きく違い、地方からの大学入学が難しいのです。だったら、公平に努力が評価される国に留学しようと考えたのが日本へ来るきっかけでした」と程氏は語る。

2年間の日本語学校を経て、東京工業大学へ入学。
もともとコンピューターが好きであったことから、コンピューターに関して学ぶということは決めていた。学習を続ける中で、アルバイトでもコンピューターに関わるようになったことが起業のきっかけとなった。

「最初は飲食店のアルバイトなどをしましたが、大学2年の頃からプログラマーのアルバイトを始めました。デスクワークで疲れませんし、給料もいい。これはいい仕事だと思い、この分野で起業したいと考えるようになりました。しかしアイデアも技術もない。そこで、進学先をハードウェアやソフトウェアの基礎研究ではなく、実際にものづくりを行う東京大学大学院 情報理工学系研究科 創造情報学専攻にしたのです」と程氏。

実際に2年目には自分のアイデアをかたちにし、アメリカの著名な企業担当者が複数いる場でのプレゼンテーションを行う機会を得た。
そこで発表したアイデアが、現在のpopInにつながるものとなっている。

●順調な資金調達の一方で、成長には苦労も
○外国人でも問題ない! 東京大学エッジキャピタルからの投資を受けて起業

起業当時を振り返った程氏は「ちょうどリーマンショックの直前だったのもラッキーだった。もし数カ月遅れていたら、投資はかなり縮小されていたかもしれない」と語る。

アメリカでのプレゼンテーションで手応えを得た程氏は、特許取得や起業について積極的に調査。そこで、東大には学生の特許取得をサポートする制度や、学生ベンチャーへ出資を行う東京大学エッジキャピタルがあることも知ったという。

「当時、ここまで力を入れていたのは東大くらいでしたし、私はその制度をフルに使いました。東京大学エッジキャピタルからの投資は当時、卒業生などを主にしていて在学中の学生としては私が初の事例です。 最初に4000万円、その後500万円ずつ3回の増資を受けていますから、UTECから合計で5500万円ですね。
これ以外の資金調達は行っていません」と程氏。

この投資を受けられたことを振り返り、程氏は「本当にラッキーだった」と語る。それは時期がよかったこと、身近にこうした制度が存在したことに対する感想という面が大きいだろう。しかしまた、日本という場で起業したことへの感想でもあるようだ。「他のベンチャーキャピタルの場合、外国人である私が投資を受けることは難しかったかもしれません。しかし東京大学エッジキャピタルからしっかりと受けることができました。当初は500万円もあればよいと思っていたのですが、それでは足りないからもっと投資を受けるべきだという指摘ももらえました。実際にビジネスを始めてみても、日本というのは非常に平等な場だと感じます。
大事なのはよい製品を持っているかどうかということで、外国人だからどうかというようなことを経験していません」と程氏は語った。

○売却先をバイドゥにした理由と約束

創業当初、サービスはなかなか売上には結びつかなかったが、市場の要求に合わせた新たなサービス追加を積極的に行った結果、2011年には単月黒字化を達成。単年黒字化も2012年には達成することができた。

「でも、最初の1年半、まったく入金がないというのは非常に厳しいものでした。起業の時点では大きな苦労がなくラッキーなことが積み重なりましたが、なかなか売れない、人が足りない、というようなベンチャー企業が経験する苦労は一通りしていますよ」と程氏は苦笑する。

popInは2015年5月にバイドゥによって買収された。ベンチャーキャピタルは、数年後に大きく育ったビジネスを売却することで多大な利益を得ることを目的としている。その意味では「大きな利益を出すことができた」という。


しかしバイドゥというと、2013年に発覚した日本語変換ソフト「Baidu IME」および「Simeji」を通じての情報漏洩事件があった。なぜバイドゥを選択したのかということについて程氏は、丁寧に語ってくれた。

「まず、(ネットサービスに関わる)日本の大手企業のほとんどに打診し、それぞれかなりよい反応を得ていましたが、金額的に一番大きいのがバイドゥでした。またグローバル展開を狙いたい、より多くの人に使って欲しいという我々の狙いを実現するためによいパートナーだったという理由もあります。Simejiの件はかなりつっこんだ質問をし、十分な調査が行われていることを含めて納得のいく回答を得ることができました。その上で、我々の独立性を保つことを盛り込んだ契約を行いました」

●アイデアがあるならまず作ってみればいい
○アイデアを形にできる時代はベンチャーに最適

程氏が事業を展開する中では、製品化されなかったアイデアも多くある。また、同世代のエンジニアたちと共に働こうと声をかけたものの、叶わなかったということもあるという。

「中には現在の人気サービスを生み出した人が何人もいます。
サービス内容を見ると、私も考えていた、自分でもできたと思うこともあります。ただ、私にはすでに展開しているビジネスがあり、そちらの立場から手を出すべきではないと考えた分野でもあるわけです。そうしたサービスが盛り上がっているのを見ると、自分のアイデアを見る目は確かだなと自信を持ちます」と程氏。

そんな程氏は、現在の日本で起業するベンチャー企業が増えていることを高く評価している。「ここ1~2年、国内投資の活発化を感じていますし、ベンチャー企業が増えるというのはよいことだと思います。安定志向から脱出し、クリエイティブな時代になったということではないでしょうか」と語る。

現在では大企業となった日本企業も、創業時は小さな企業だったはずだ。次々といろいろな企業が誕生し、成長し、国際的に展開して行く。そうした流れの入口にあるのかもしれないともいう。

「ベンチャー企業が多くなることで、もう一度そういう時代が来るかもしれません。ソニーや松下(現 パナソニック)が誕生したような時代がもう一度こなければ、日本の未来は危ないでしょう。今は3Dプリンタがあり、いろいろなパーツも入手しやすく、クラウドファウンディングを利用することもでき、起業のハードルが下がっています。今はアイデアがあるなら、作ればいい時代です」と自分たちの起業から現在に至るまでの流れを振り返りながら程氏は語ってくれた。

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程氏が語ることがすべてではないが、特にここ数年の日本国内事情は起業しやすい状況が整いつつある。もちろん他に秀でたアイデアや製品であることは言わずもがなだが、その背景となるは3Dプリンタやクラウドサービスに代表されるようなものづくりプラットフォームとサービス基盤、クラウドファンディングや官民を挙げたベンチャーキャピタルの存在などだ。

一方で、GoogleやFacebookに匹敵するような、あるいはUberやAirbnbのように市場からの資金流入を背景に非上場ながら企業価値が10億ドルを超える"ユニコーン"と呼ばれる存在もまだ日本では生まれていない。GDP規模やサービス市場などの国の違いを考えれば、単純に起業価値で比較すべきことではないし、また日本の"ユニコーン"を目指すべくIPOを避けるべきという話ではないが、ただ、日本の起業シーンに新たな発想や見方を取り入れるためにも、国外からの視点があってもよい。ここまで取り上げたITベンチャーとは異なるが、京都発 弁当箱専門店「Bento&co」は、フランスから来たBERTRAND THOMAS氏が京都で立ち上げた。日本人なら誰でも知っている"弁当箱"は今やヨーロッパにも広がっている。2020年の東京オリンピックに向けて日本への注目は集まっている。観光旅行だけにとどまらず、日本の持っている技術などビジネスの場としての発信も重要となってくるだろう。

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