羽田空港で実施される世界初の情報ユニバーサルデザインの共同実験とは?
東京国際空港ターミナル、日本空港ビルデング、NTT、パナソニックの4社は、羽田空港の国際線および国内線旅客ターミナルにおいて、12月3日より世界初の情報ユニバーサルデザイン高度化の共同実験を開始すると発表。デモンストレーションが行われた。
この共同実験は、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に向け、訪日する外国人観光客、障がいのある人、ベビーカーや車いすの利用者、高齢者などを対象とし、より適切に観光客を誘導することが狙い。そのために、「音」「光」「画像」「無線」といった最先端技術を活用する。
羽田空港の国際線の旅客ターミナルは2010年に開業しているが、国際ターミナルを作る前から「ユニバーサルデザイン検討委員会」を立ち上げており、障がいのある人をはじめ当事者参加型でユニバーサルデザインを作ってきたという経緯があるようだ。
東京国際空港ターミナル 代表取締役社長 土井勝二氏は、「イギリスに本拠を置く"スカイトラックス"という空港や航空会社の評価機関があるが、羽田空港は去年と今年で2年連続5つ星の評価。日本では羽田空港のみ。国際線・国内線のユニバーサルデザインのレベルが高いというのが評価要因として大きい」と語る。
そして2014年に行われた向上委員会では、訪日する外国人観光客への情報提供、情報伝達とコミュニケーション方法の改善を考えており、これをふまえてIT活用の提言がされている。その結果による共同実験のスタートというわけだ。
今回の実証実験では、NTTが「かざして案内」と「インテリジェント音サイン」と「プロジェクションサイン」を、パナソニックが「光IDサインと高指向性ビーコンを使用したナビゲーション」を行う。
●NTT実証実験
○NTT実証実験① -かざして案内-
NTTのデモンストレーションは、案内板にスマートフォンやタブレットのレンズ部分をかざす(向ける)ことで、さまざまな情報が得られる「かざして案内」。案内板の内容を母国語に翻訳して表示するほか、現在位置の提示や目的地までのナビゲーション、交通機関の運賃・時刻表を提示するなど、おもに外国人観光客に向けた機能となっている。
担当者によると、外国人観光客が空港に到着後に困ることとして「次にどこへ行けばいいのか、どの交通機関を使えばいいのか」という心配事が最も多いようだ。日本人が海外の空港に到着したときも同様だろう。
看板にタブレット端末のカメラ部分をかざすと、インフォメーションの看板が読み込まれ、画面が交通案内などに切り替わった。
これはカメラに映った物体を分析する「アングフリー物体検索技術」。
事前に画像を撮影して登録しておけば、その後はどんな角度からでも、また一部が隠れていてもかざすだけで物体を認識できる。実際にデモンストレーションでは斜めからタブレット端末をかざし、問題なく認識された。またHTML5ベースのため、アプリをインストールすることなくWebブラウザだけで動作する。
今後、お店の写真やサンプル食品をかざすと、画像を認識して料理内容を表示する予定。宗教上食べられないものがある場合も考慮するようだ。
○NTT実証実験② -インテリジェント音サイン-
続いて、視覚障がいのある人向けの「音サイン」をより分かりやすくする「インテリジェント音サイン」と呼ばれる技術の実験。「聞こえやすい音声案内」「分かりやすい音声案内」「いろいろな所で音声」という3つの特徴を挙げている。
インテリジェント音サインには、合成音声の明瞭化技術が使われている。周囲がうるさく聞き取りにくい環境でも全体のボリュームを変えることなく、音サインがはっきり聞こえるのが特徴だ。目を閉じてよく耳をすませてみると、通常の音声ガイダンスとは違いがあるのが分かった。
また、空港内に設置されたビーコンにウェアラブル端末やスマートフォンを持ち歩くと、反応して自動で音声が聞こえてくる仕組みも公開された。例えば、各国の言語に合わせた「こちらは男子トイレです」と端末から案内が聞こえてくるシステムとなっている。
○NTT実証実験③ -プロジェクションサイン-
空港では混雑の発生頻度が上がり、問題となっている。それを解決する技術が「プロジェクションサイン」と呼ばれるもの。これは「プロジェクション・マッピング」を用いた案内サインで、人の流れる傾向に応じて案内の内容や場所を動的に変更する。
また緊急避難を視覚化。災害時のアナウンスなど、聴覚に障がいのある人への情報提供メディアとして機能する。人の流れをビッグデータで解析し、刻々と変化する混雑状況を先読みして緩和するのが狙いだ。チェックインカウンターの付近に映像が投射されているため、すぐに目につき分かりやすい印象を持った。●パナソニック実証実験
○パナソニック実証実験 -光IDサインと高指向性ビーコンを使用したナビゲーション-
パナソニックは、2つの技術についてデモンストレーションを行った。
パナソニックの「光IDサイン」は、独自開発した「光ID」という技術を使っている。LED光源を高速点滅させることで、さまざまな情報を送ることが可能となった。この光IDの発信機を搭載した照明看板や照明器具、デジタルサイネージ(ネットワーク接続型のディスプレイ)などにスマートフォンのカメラをかざすことで、関連したコンテンツを表示することができる技術。
最大の利点は、光源にスマートフォンをかざすだけで使用できること。混雑していても光が届く位置であれば情報が取得できる点。
実際にスマートフォンを赤いかばんのデジタルサイネージにかざしてみたところ、瞬時に反応した。手前に人だかりがあっても問題ないそうだ。
この技術によって、外国人観光客が自国語で商業施設の情報を取得することができる。前述のNTTの技術である「かざして案内」同様、外国人観光客の需要を掘り起こした形だ。
「高指向性ビーコンを使用したナビゲーション」は、従来のビーコンでは実現できなかった位置情報サービスが可能になる。GPS電波の届かない室内でも、ナビゲーション機能が利用できる。
パナソニックの担当者によると、音声のナビゲーションもあるため、視覚に障がいのある人も安全に利用できるとのことだ。
実際に高指向性ビーコンが設置された発表会場内を回ったところ、問題なく感知していた。GPS電波が届かない場所は多いので、これが実現すれば、外国人観光客、視覚に障がいのある人、ベビーカーや車いすでの移動者、大きな荷物でエスカレーターが使えない人などの移動の大きな手助けとなるだろう。
○羽田空港の「おもてなしアプリ」にNTT、パナソニックの技術が集約
上記で述べたNTTとパナソニックの技術は、羽田空港が提供するひとつのアプリで使うことを想定しているという。空港に到着後、フリーWi-Fiに繋がり、ダウンロードページが表示されるようになる予定だ。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、有効活用されることが期待される。