ビスケットブラザーズ、躍進のきっかけはコンビ感覚の芽生え 関西二冠の次は「キングオブコントを獲ります!」
●『NHK上方漫才コンテスト』優勝は「大阪賞レースの集大成」
2020年の『第9回 ytv 漫才新人賞決定戦』に続いて、昨年『第51回NHK上方漫才コンテスト』で優勝を果たしたお笑いコンビ・ビスケットブラザーズ(きん、原田泰雅)。関西で二冠を達成し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの2人が、自分たちの笑いや今後の活動について語ってくれた。
――『NHK上方漫才コンテスト』優勝おめでとうございます。優勝したときの心境を教えてください。
きん:ありがとうございます。優勝してから、関西の番組に呼んでいただく機会が増えました。めちゃくちゃ上の先輩方も「おめでとう」と言ってくださって、51回開催されるこの大会のすごさを感じています。
原田泰雅:マネージャーが「優勝すると思いますよ」とずっと言ってくれていた。
情熱的なマネージャーなので「優勝したらさぞ泣くんだろうな」と思っていたけど、泣きもせず、淡々としたリアクションだったんです。ホンマに優勝すると確信していたんだなと知れてよかったです。
――優勝した勝因は?
原田:このコンテスト、“漫才コンテスト”って謳ってるんですけどコントもできる大会なんですよ。
きん:僕らは6組目で、5組目まではずっと漫才が続いていた。(原田が)突然真っ茶色の衣装で出てきたんで「何これ!?」とお客さんの意識を吹っ飛ばせました。
原田:マヂカルラブリーさんがM-1で優勝したとき「漫才なのか、コントなのか」という論争起きたじゃないですか。お客さんは「あっ、漫才はこんなことになってるんだ」と勘違いされるようなインパクトを残せたのでは。審査員の方々も「えっ、何!?」とビックリして笑ってくださった。
それが勝因ですかね。
――優勝後、どのような変化がありましたか?
きん:NHKの『ニュースほっと関西』に出演したりしました。そんな情報番組に悪いことする以外で出られるとは思っていなかったです(笑)
原田:次は悪いことして出たいっすね(笑)。これまで「テレビでビスケットブラザーズ見れるか!」というニュアンスだったのが、人によっては、ここ最近は「テレビつけたら毎回いる」となっている可能性があるくらい呼んでいただいています。本当に歴史ある賞なんだなと実感しています。――『NHK上方漫才コンテスト』を通じて知名度が上がったことは間違いないと思いますが、この優勝はお二方にとってどのようなものになりましたか?
原田:大阪は芸歴10年目以下の賞レースが多いです。僕らは11年目に突入したので、大阪の賞レースの集大成になりました。今後東京の賞レースに出るにあたって、ステップアップになったかなと思っています。
きん:この2年、10年目ギリギリで『ytv漫才新人賞』と『NHK上方漫才コンテスト』の二冠を獲得できて、その「二冠」というワードがキャッチーだなと思います。ラッキーですね。
――2011年にコンビ結成した当時に思い描いていた10年後と、現実の今と比べていかがですか?
原田:当時は悪い方向で有名になるんじゃないかというイメージはありました(笑)。あと、お笑いの世界に入った18の頃は「売れないわけがない」「おれらはカリスマになるんだ!」と尖っていました。今はカリスマどころか太って、顔も声も「お願いします、どうか笑ってください……!」みたいなスタイルに。中学生の自分たちが今の僕らを見たらめっちゃ笑ってくれると思います。ただ、(中学生の自分は)「これが自分か……」「最悪やん」と笑いながら悲しむやろなと (笑)。カッコよく笑かすつもりだった18の頃と今を比べると、逆の状況です。
きん:僕も似たような感じです。組んだときは「10年後全国進出してるかな」「賞レース優勝してるかな」とか思っていたけど、走り出した方向は真逆。真逆のルートを突っ走って一周して、目標を達成している気がします。一応、肩書きだけ達成しましたね(笑)。ホンマはカッコよく人気出て、サラッと優勝、別の賞レースでも優勝……みたいなのが理想でした。
原田:優勝して前髪をファサッとかき上げたり、ジャケット羽織ったりして。「全身タイツ着るのちゃうやん」みたいに言っちゃうカッコいい感じ。中学生の自分たちが今の自分たちを見たら、経歴だけ見てほしい(笑)
きん:そうそう。
「キングオブコント2019決勝進出」「2021年NHK上方漫才コンテスト優勝」とか経歴だけ渡したら「自分、スターやん!」と思うはず。
原田:実際ネタを見たら「うわっ! 泥臭っ! こいつら何やってんの……!?」と思うはず。文字、文字! 過去の自分には文字だけでやり取りしたいですね、マジで(笑)。絶対に「痩せててカッコいい」と思ってくれるはず。ベタに女優やモデルと付き合ってるとか思い描いてくれるはず!
●コンビで互いを絶賛「才能ある」「めっちゃおもろい」
――世間から見ると、ビスケットブラザーズさんは近年メキメキ力をつけて、賞レースで優勝をさらっている印象があると思います。何か大きな転換期があったのでしょうか?
原田:2018年頃、相方と揉めたり話し合ったりしたとき、良くも悪くも「自分でやろう」と思い直した瞬間がありました。「自分が強くなればいいんだ」と。相方に任せるのは最終段階でいいというメンタリティーになりました。
ただ「解散しよう」という考えではないです。自分でやる努力に相方も含めないといけない。昔はもっとしっかり相方にツッコんでもらうものをやっていたけど「きんも面白いしな……」とずっと思っていて、「きんの面白さをどう引き出そうか」と考えられるようになり、「コンビになってきた」という心境の変化がありましたね。僕らは凸凹じゃなくて凹凹(ぼこぼこ)コンビ。コンビとしてのバランスが取れてきた感じはあります。
きん:2017年に『キングオブコント』準決勝に行ったとき「こんだけウケたらここまで行くんや」と体感しました。そこから1年は、キングオブコント決勝目指して進んだはずが、先に『ABCお笑いグランプリ』の決勝へ先に行かせていただきました。ここでやったネタが、次の年のキングオブコント準決勝で披露するネタ2本のうちの1本になっている。
当時は苦しかったけど、全部うまいこと行ったと思います。
――本人を目の前に恥ずかしいかもしれませんが、お互いの魅力とは?
原田:プロフェッショナル感のない人間のなかで一番面白いかもしれないです。一番才能あるんじゃないかと思います。きんは、一番いい形のままテレビに出られたら無敵になる気がします。
――どういう点に才能を感じますか?
原田:11年やればフォームが崩れたり、ちょっとずつ変化すると思うんです。でもきんは、初めて会った11年前から面白さがぜんぜん変わっていない。その面白さがただ人に伝わっているだけ。体型の変化とは別に、ぶっとい芯があります。きんは18の頃からお笑いをめっちゃ見ていたので、理想にがんじがらめになりそうなんですけど、そこがわりと柔軟。「この人間には一生勝てへん」と思うヒーローみたいな存在になってくれたらいいな、というデカい存在感を感じます。――きんさんにとって原田さんの魅力は?
きん:シンプルに、めっちゃおもろいです。
――最大級の褒め言葉ですね!
原田:いや……ありがたい機会をもらいました。こんなこと言ってもらえないですから、普段は(笑)
きん:ハハハ! 例えば漫画でも映画でもいいんですけど、「この俳優さんのこの表情すごいな」とかそれぞれ秘伝のツボがあると思うんです。彼はそういうツボを突くのがうまい。全員共通のツボを突いたときにはむっちゃエグいことになる気がします。ネタ合わせのときに笑い止まらなくなったりするんですよね。
原田:たぶん、きんのツボにもお客さんのツボにも、他の芸人のツボにもなる最強のツボってあると思うんです。しかも“僕らだけが突ける最強のツボ”を見つけられたら、キングオブコントとか、賞レース全部優勝できる気がします。
●キングオブコントは「ジジイになっても何が何でも獲りたい」
――先ほど「東京の賞レースに」というお話が出ました。目標は?
原田:キングオブコントが一番欲しいですね! 僕がお笑いやろうと思ったのは16、17くらいで、そのとき始まった大会なんです。「コントすげぇ! ワクワクする! コントする人たちヒーローや! これを穫るぞ」と決め込んでお笑い界に入ってきました。キングオブコントは、獲りたいじゃなくて獲ります! 歯がボロボロになってジジイになって、ハゲで笑いとってもいいです。お客さんの目の前で歯落としてもいいです。ムチャクチャな形になっても、何が何でも獲りたいです。
きん:目の前で歯落ちるのイヤ過ぎるな……(笑)。でもたしかに優勝したいですね。
――今後は、東京進出を考えているのでしょうか?
原田:そこは正直まだ分からないです。
――検討中ということでしょうか?
原田:そうですね。東京は「キレイで美味しいもの」が多い一方、大阪は「臭くて美味い」が多い。大阪ならではのメシは大阪にしかないんだろうな、という感じがあってどちらにも魅力を感じます。「仕事で呼ばれる頻度が多すぎてしゃーない」という状況になったら東京へ移り住むかもしれません。
きん:そうですね。
原田:ただ大阪も、子どもの頃から見ていた番組のセットに興奮するんですよ。「うわっ! これ知ってる……! 」と。
●「一番意味わからんけど、一番笑けたという形を磨けたら」
――1月14日に東京・ルミネtheよしもとで、1月22日には大阪・よしもと漫才劇場で単独ライブを開催されますが、どんなライブにしたいでしょうか? (大阪公演はオンラインでも配信)
原田:うちらのライブって、芸人さんはいつも笑ってくださるんですけど、お客さんからしたら当たり外れが多いんです。「何これ?」というネタも少なからずある。一番意味わからんけど、一番笑けたという形を磨けたらうれしいです。最終的に、お客さんをトランス状態にしたいですね。
きん:もちろん、満足してもらえるように常に頑張ります。ビスケットブラザーズの笑いは、決まった笑いポイントとかないです。「この表情、この歩き方面白い」って自分でツボを見つけて勝手に笑ってもらって大丈夫な作りになっています。ネタ7本やるうち4本は「めっちゃ面白い」と暗示かけたら面白くなるネタです。その4本のうち1本は「笑いすぎてしんどい」みたいなネタを目指したいです。100点中180点みたいな。「笑いすぎてムチャクチャにされた!」という感覚になってほしいです。
――そんなネタ見たら人生変わりそうですね。
きん:そうですね(笑)
原田:採点したらずっと0点だけど「笑ってしまうから100点にしよ!」みたいなネタがいいですね。減点方式だったら即終了ですけど(笑)
きん:そうそう! 減点方式で見ないでほしいですね。
――それは大切な鑑賞ポイントですね(笑)。最後の質問になりますが、お二人が影響を受けたり尊敬している芸人さんはいますか?
きん:めっちゃいますけど……トニーフランク(笑)
原田:ハハハ! 影響受けた芸人がトニーフランク(笑)
きん:トニーフランク、千人の前に出されてもギター1本で笑いとると思います。すごいですよ~(笑)
■ビスケットブラザーズ
きん、原田泰雅によるお笑いコンビ。ともにNSC大阪校33期生で、2011年4月1日に結成。2020年にYTV『第9回ytv漫才新人賞決定戦』優勝、2021年に第51回『NHK上方漫才コンテスト』優勝を果たした。TBS『キングオブコント』は2019年に決勝に進出している。