クリスマス・イルミネーションにはズームレンズより単焦点 - タムロン「SP 35mm F/1.8 Di VC USD」のボケ味を試す
いまの季節、街のあちこちで見られるイルミネーションは被写体としても絶好だ。特に開放F値が小さい大口径レンズを使えば、キラキラと輝く美しいボケの表現が楽しめる。そんなレンズのひとつ、タムロンの新しい広角単焦点を試してみよう。
○イルミネーション撮影に適した明るい単焦点レンズ
イルミネーションの撮影は特に難しくはない。いまどきのカメラやスマートフォンなら、なんとなくシャッターを押すだけでも、それなりには写るはず。だが趣味として写真を楽しむ人なら、そんなレベルでは満足できないだろう。単なる記録や記念ではなく、自分が感じた美しさや驚きが、その場にいなかった人にも伝わるような写真をめざしたいところだ。
そのためには機材、特にレンズにはこだわりたい。
薄暗いシーンでも感度をあまり上げずに高画質を維持し、なおかつボケのある表現を味わうには、ズームレンズよりも明るさで勝る単焦点レンズのほうが適している。
今回用意したのは、タムロンの新しい広角単焦点レンズ「SP 35mm F/1.8 Di VC USD」だ。フルサイズ対応で35mmという使いやすい焦点距離、F1.8という明るい開放値や、夜景に最適な手ブレ補正機構、逆光に強いeBANDコーティング、クラス最高の最短撮影距離に対応したレンズである。
今回、ボディはキヤノンのフルサイズ機「EOS 6D」とAPS-Cサイズ機「EOS M3」を用意した。これによってフルサイズ機では35mmの広角レンズとして、APS-Cサイズ機では56mm相当の標準レンズとしてそれぞれ活用できる。
まずは遊園地を訪れ、冬期バージョンでライトアップされた大観覧車を狙ってみた。色やパターンがめまぐるしく変化するライトアップだ。静的なイルミネーションに比べて撮影の難易度はやや高くなるが、さまざまなバリエーションが撮れるのでシャッターチャンスはむしろ多い。
ただ、そのまま撮影しても平凡だったので、ここではあえてピントを外してみた。フォーカスモードをAFからMFに切り替え、ピント位置を至近距離に設定することで、イルネーションを滲んだ光として表現。雪の結晶を思わせるクリスマスらしい写真に仕上がった。
このように写真全体がぼけているのも悪くはないが、少し画面を引き締めたい場合には近景に小物を写し込むといい。下の写真では、伸ばした左手に鍵を持ち、それをレンズ前にかざして撮影した。アンティークショップで購入した長さ約9cmの鍵である。
次も同じく、近景の小物にピントを合わせることで背景のイルミネーションを丸くぼかして表現した。タムロン「SP 35mm F/1.8 Di VC USD」は、最短撮影距離が20cmと非常に短く、こうした接写によるボケ表現にうってつけだ。
最大撮影倍率0.4倍は、35mmの単焦点レンズではクラス最高級を誇る。またAPS-Cサイズ機での使用時には、35mm換算の撮影倍率はさらに高まり、ハーフマクロレンズ並の接写が可能になる。
●後ボケや前ボケで変化を生み出す
○被写体と撮影距離にこだわってボケをつくる
ボケの度合いは、レンズの焦点距離と絞り値、撮影距離によって変化する。簡単に言えば、焦点距離を長くするほど、絞り値を小さくするほど、撮影距離を短くするほど、ボケの度合いはそれぞれ大きくなる。
ボケの形状については、使用するレンズによって差がある。今回使ったタムロン「SP 35mm F/1.8 Di VC USD」は、滑らかできれいなボケを表現しやすいレンズといえる。条件によっては玉ボケの中に同心円状のスジがやや生じるのが惜しいが、周辺の玉ボケがレモン型になる口径食の影響は少なめだ。また大口径レンズでありがちな、近接撮影時の球面収差も良好に補正されている。
本レンズのボケの美しさは、次のカットでも確認できる。ピントを合わせた部分はくっきりと解像し、そこから前後に向かって滑らかにぼけている。被写体は、室内のテーマパークに展示されていた高さ50cm程度の光るトナカイだ。
ここまでは主に、ピントを合わせた被写体の後ろに生じる「後ボケ (背景ボケ)」を狙ったが、被写体の手前に生じる「前ボケ」を生かすこともイルミネーションの撮影では効果的といえる。前ボケを作るには、レンズのできるだけ前に、明るめの被写体や光源となる被写体を写し込むといい。
次の写真では、トンネルのように並べて配置されたアーチのひとつに大接近し、そのLEDの隙間から撮影した。アクリル越しのため、遠景の解像はやや低下しているが、大きな前ボケによって奥行きを感じさせる写真となった。
●多重露光機能や動画モードも活用してみよう
○表現をさらに工夫してみる
最後に、応用編として2つの機能を紹介しよう。
ひとつは、連続して撮影した複数のカットをカメラ内で自動的に合成してくれる「多重露光」機能だ。次の写真は、1枚目ではピントを合わせて撮り、同じ構図のまま、2枚目ではピントをぼかして撮影した。このような多重露光によるボケの演出は、夜景やイルミネーションの撮影では、昔からある定番テクニックのひとつ。多重露光機能を備えたカメラがあればぜひ試してみたい。
もうひとつは動画機能だ。最近は動きのあるイルミネーションが増えているので、それを動画で撮るのも面白い。部屋を暗くしてパソコンやテレビで大画面の再生すれば、家にいながらにしてクリスマス気分を高められる。
今回の撮影では、単焦点レンズ1本にボディ2台を用意して、イルミネーション撮影の楽しさを十分に満喫できた。
特に前半で取り上げた、接写によるボケの表現は、近接撮影に強いタムロン「SP 35mm F/1.8 Di VC USD」のメリットを生かした撮り方としてお勧めできる。イルミネーションを撮りに出掛ける際は、アンティークデザインの鍵や子グマの小物を忘れずに持って行くといいだろう。