東芝「REGZA」は今後どうなるか? - 西田宗千佳の家電ニュース「四景八景」
東芝の経営状態が苦しく、再建が急務であることの是非は、今回の記事では置いておこう。単に厳しくなったのではなく、問題をごまかしたうえでよりひどい状態にもっていったことについて、経営陣には、経営施策上だけでなく、道義的にも責任を取る必要がある、と思うが、それはまた別の話だ。
今回考察したいのは、「東芝のテレビ事業がどうなるか」だ。
東芝、5500億円の赤字で無配 - PC関連では青梅事業所の閉鎖や人員削減(12月22日掲載)
結論から言えば、開発拠点である青梅事業所は閉鎖になり、海外でのビジネスは事実上終息に向かい、国内向けに60万台程度のビジネスを目標とした、比較的小さなビジネスとして存続することになる。
こうなることは、2013年後半から明らかだった。東芝は、海外の大規模家電イベントにも積極的に出て行って、テレビの拡販と「REGZA (レグザ)」ブランドの定着に努めていたが、ドイツで開かれる「IFA」からも、アメリカ市場向けの「CES」からも手を引いた。海外では撤退戦の途上であり、その内容を改めて発表した、というのが正確なところだ。
そもそも東芝は、テレビをできるだけ「自社工場で生産しない」こと、液晶パネルを中心とした高コストだが差別化が難しいパーツについても「他社から供給を受ける」体制で成功したメーカーである。
2012年頃、ソニーとパナソニックが「自社製造」ゆえの高コスト体制に苦しんでいる頃から、PCのノウハウを生かした「アセットライト戦略」で効率良くテレビ事業を展開している……とされていた。
だが、結果はみての通りだ。
○「数を売る」テレビの終焉
その背景には、テレビビジネスの構造変化がある。ほんの4年前まで、テレビは家電の花形だった。家庭には「一家に一台」どころか、「一部屋に一台」の勢いでテレビが普及しており、単価が高いにも関わらず数が売れる家電であった。
だが、今はそれが変化した。世界中で「個室向け」のテレビ需要が落ち込み、小型低価格なものは売れにくくなった。また、少々大型でも、低価格な製品については、中国メーカーなどとの安売り競争が厳しくなっている。
結局労働力や生産コストの低い国のメーカーに勝てず、かといって先進国では、スマートフォンやタブレットの普及により、個室ではテレビが求められなくなっていた。「数を売る」ことに最適化したやり方では、もはやテレビビジネスは立ち行かなくなったのだ。
だが、「テレビが売れなくなった」「テレビがいらなくなった」と考えるのは早計だ。日本においても、2013年後半以降、大画面・4Kテレビは好調に売れている。リビングで家族とテレビ番組を見たり、映画を楽しんだり、スポーツに一喜一憂したり、というニーズは失われていない。「一部屋に一台」から再び「一家に一台」に回帰した、と結論づけてもよい。
●「一家に一台」のテレビに求められる条件
となると、売れるテレビの条件も変わる。
一家に一台しかなく、それを5年から10年使い続けるのであれば、「とにかく安いものでいい」なんていう買い方はしない。
若干高くとも良いものを、という発想になる。
特に、現在テレビを買っているのは、2000年代後半、地デジ移行のための薄型テレビをいち早く購入した層だ。すでに大画面テレビを体験しているから、「今持っているものと同じスペースに置けて、さらに大きくて画質の良いものを」というニーズを持っている。技術の進歩により、8年前に比べると、同じスペースで2ランク大きなテレビが置けるようになっているので、「大画面4Kテレビ」が売れやすい環境になっているのだ。
これは別の言い方をすれば、「画質の良いテレビを作れるメーカーだけが、日本などの先進国市場で生き残れる」ということでもある。テレビはもはや家電の王様ではない。そこまで数が出る製品ではなくなったが、毎年一定の数、付加価値の高いものが売れていく市場になったわけだ。日本でいえば、高級炊飯器と同じフェーズに立った、というと言い過ぎだろうか。
○「小さいビジネス」の可否は2017年に現れる!?
画質の良いテレビは、パーツをあつめてくるだけでは作れない。映像に合わせてバックライトをコントロールするLSIや、映像の色合いをディスプレイデバイスの特性に合わせてチューニングして表示する仕組みも必要である。もちろん、低解像度の映像を「超解像」する機能や、ゲーム向けに映像の遅延を抑える機能も必要だ。
こうしたことは、ひとつひとつやってみないと身につかない、ノウハウの塊である。東芝はデジタル放送スタートの初期から、「テレビ開発のキモはエンジンにあり」と見切り、それらのノウハウを蓄積してきた。日本にREGZAファンが多いのは、そのノウハウを信頼してのことだ。事前の報道では「研究開発も終息」との記事も見かけた。実際、社内ではそういう検討もなされたのだろう。
だが、東芝のテレビチームにある知見は、とても貴重なものだ。これを捨ててしまうのはもったいない。日本はいまだ世界有数の市場であり、数を追わない前提に立てば、ビジネスは可能だ。
別の言い方をすれば、テレビはすでに「がんばって市場に残った、ノウハウを持つ企業が残存者利益を得るフェーズにある」といえる。ソニーやパナソニックは、外野からいろいろ言われつつも、テレビ事業を捨てなかった。まだ大きな利益を生む段階ではないが、「良いものを求める人に届ける」やり方をしていけば、健全なビジネスが見込めることだろう。
他方、いかに数を追わない時代がやってきたとはいえ、大規模調達を行う企業のほうが、コスト的に有利になるのは事実だ。世界規模で高画質テレビを売るメーカーは、ソニー、パナソニック、サムスン電子、LG電子の4社だけ、という時代になった。
世界でビジネスをするのは厳しいが、調達力ではソニーやパナソニックのほうが、東芝より優位である。
東芝は、「国内市場の小ささ」に根をあげず、どこまでじっくりと、自社のノウハウを育てながらテレビビジネスを展開・継続できるだろうか?
おそらく、今年や来年の製品に影響はあるまい。チームがコンパクトになった影響は、良い方向であったとしても悪い方向であったとしても、2017年頃に顕在化するのでは、と予想している。