サッポロビールのソーシャルメディア活用術とは
12月11日、秋葉原 UDXギャラリーNEXTにおいてマイナビニュース主催の「マイナビニュースフォーラム2015 Winter for データ活用」が開催された。このフォーラムでは「商品開発からリスク管理、マーケティングまで――デジタルビジネス時代のデータ活用法を探る」をテーマに、各業界で先進的なデータ活用に取り組んでいる企業が登壇。今回はその中から、「<明日使えるレポートを作る>サッポロビールのソーシャルメディア活用術」と題した講演をレポートしよう。
本講演には、ソーシャルメディアの マーケティング分析・管理ツールである「Socail Insight」を提供しているユーザーローカル コーポレートセールス リーダーの嶋田彩野氏と、Socail Insightのユーザー企業であるサッポロビール 営業本部 営業戦略部 デジタルマーケティング室の森勇一氏が登壇。ソーシャルメディア活用としてサッポロビールの事例を紹介した。
森氏はまず、サッポロビールのデジタルマーケティング戦略について説明した。
同社がソーシャルメディアの分析に注力している理由としては、人々の生活にデジタルが溶け込み、日頃から他人とつながるコミュニケーションの時代が到来していることがあるという。特にソーシャルメディアは日常的な情報接触の主役になっているため、同社ではデジタルマーケティング戦略の重要なポイントとして捉えているという。
また、ユーザーの生活が「物の豊かさ」から「心の豊かさ」を重視する傾向へ変わってきており、お酒に対する消費行動にも変化が見られるためだという。
「単純に『お酒を飲む』というだけでなく、『お酒そのものが好き』や『お酒とつくる時間が好き』など、最近は価値観や飲み方が変わってきました」と森氏。
前者は同じ商品のリピート率が高く、後者はシーンに応じて飲むお酒を変える傾向があるという。
こうした背景から、同社のデジタルマーケティング戦略はユーザーの関心に沿ったコミュニケーションによってユーザーと深くつながることだという。
●Twitter公式アカウントからの返信で検証
実際の戦略としては、ファンの拡大および既存顧客の育成にポイントを置いている。ファンの拡大は、新規のコンタクト情報を取得することで見込みユーザー獲得につなげるもので、一方の既存顧客の育成は、あらゆる顧客接点でユーザーを知り、つながりを深めるというものだ。
森氏は、ソーシャルメディアでこれらを実現する例として、10月に発売された新商品「サッポロ ブラウンベルグ」での検証結果を示した。検証では、Twitterでブラウンベルグ関連のツイートをしているユーザーに対し、公式アカウントから返信するとロイヤルティが上がるのではないかという仮説に基づき、実施前後でユーザー行動の変化を比較している。
検証の結果、公式アカウントからの返信後にリツイート(以下、RT)してくれるユーザーは24%増加。商品についてツイートしてくれるユーザーも38%増加している。
森氏は実際のツイートを紹介しながら「ポジティブなツイートだけでなく、『ブラウンベルグはあまり美味しくない』といったネガティブなツイートにも『お口に合わずごめんなさい』と返信してみたところ、他のユーザーからポジティブなコメントがもらえたり、RTで6,000以上のリーチにつながりました。このように、ネガティブなツイートでも返信しだいでポジティブな印象と効果を生み出せるのは、企業にとって大きなメリットになります」と語った。
また、購買につなげる反応としては「ブラウンベルグもう出てるのかな」というツイートに「限定発売中なのでお早めに!」と返信したところ、そのユーザーが実際に飲み「美味かった」と感想をツイート。ユーザーとのコミュニケーションが増えることで、満足度向上やファンの深耕拡大に関してもプラスの傾向が見られたという。
○小さなPDCAの繰り返しが大きな力に
さらに同社では、発売から3週間でツイートされた日別の件数について、2014年5月に発売したシリーズ商品「ホワイトベルグ」との比較も行っている。
「結果は、どの時点のトレンドでもブラウンベルグがホワイトベルグを上回っていました。
延べツイート数はホワイトベルグが合計330件であったのに対し、ブラウンベルグでは1898件です。ツイート数で5.7倍、延べ配信数では17倍と、配信数を大きく伸ばすことに成功したのです」と、取り組みの成果を語る。
そして同氏はソーシャルメディアのメリットを「小さなPDCAを繰り返せる手軽さにあります。多少失敗しても影響は軽微で、むしろ小さな成功を積み重ねていくことが大切です。明確な目標設定と実施、結果の確認、そして策定に落とし込むという繰り返しは大きな力になります」と語った。
さらに「もちろんツールを導入して終わりではありません。何を達成したいのか、このデータを使ってどのような価値を生み出すのかなど、プロセスの検証や判断をする人も必要です」とアドバイスを送った。
●レポート作成の鍵は目的を明確にすること
講演の後半では、嶋田氏がSocail Insightを使ったレポート作成方法について解説した。
「レポートを作成する上では、まず目的を明確にすることが求められます」と語る嶋田氏。これは「誰に」向けて「何のために」出すのかにより、適したフォーマットが異なるためだ。
「弊社はツールを提供しているベンダーですが、単純にツール上の数字を見て綺麗にまとめるだけでは、求める成果につながりづらく、結果として継続もされなくなってしまいます」(嶋田氏)
たとえば、サッポロビールの場合はブランド担当者に向けて、「ターゲットのニーズに合った商品を作るために顧客の声を知ってほしい」「顧客の声を知るためにソーシャルは重要である」ことをアピールし、まずは「ソーシャルに興味を持ってもらう」のが狙いだったそうだ。
そして嶋田氏は、レポート作成で意識すべきポイントとして「シンプルに1枚にまとめる」「競合との比較を項目に入れる」「作成に時間をかけすぎない」「作るタイミングを決める」の4点をアドバイスし、実際にSocail Insightを使ったサッポロビールのレポートを紹介した。
最後に嶋田氏は「レポートはあくまでも、Webやソーシャルの重要性を理解してもらうきっかけ作りのひとつです。ご自身で社内外に発信していくことにこそ意味があります」とアドバイスし、講演を締めくくった。