重要な短絡障害からの保護 - 過酷な車載環境におけるUSBインタフェース開発
今日のコネクテッドカーは、高速データインタフェースとしてユニバーサルシリアルバス(USB)を使用し接続しています。USBはコンシューマ市場ですでに広く普及しています。USBを使用すると、消費者は、車内でさまざまな通信デバイスやインフォテイメントデバイスを使用できるようになります。
ほんの数年前まで自動車購入者は、新車にUSBポートが1つ搭載されているだけでその目新しさに驚いていましたが、今では、最新の自動車にはいくつのポートが搭載されているのか、と質問することが増えています。
しかし、自動車の電気的環境は、静電気放電(ESD)ハザードと大きな過渡電流の可能性の面で、自動車以外の場合と大きく異なります。さらに、12Vバッテリの電圧はUSBデータラインに危険を引き起こします。自動車のUSBポートは、シグナル・インテグリティを維持し、長期的な信頼性を確保(感知される品質レベルの向上、返品やリコール数の低下)するために、このようなハザードに対して効果的に保護することが求められています。
○接続性が鍵
大手の自動車企業は、販売を勝ち取り、顧客ロイヤリティを構築する新しい機能創出に役立つ、エレクトロニクス分野の革新性にますます期待を寄せています。
この傾向と同調して、自動車は、今日のデジタルコンシューマのライフスタイルに不可欠な一部になっています。今日の自動車購入者はスマートフォンだけではなく、タブレットや MP3プレーヤー、 USB/SDストレージ、その他のデバイスを自動車に持ち込み、これらの機器を車載インフォテイメントシステムと接続し、移動中、コンテンツやアクセスサービスを楽しみたいと考えています。
これらの要求に応えるために、またテレマティクス、自動車間通信、 先進運転支援システム(ADAS)といった高度な機能をサポートするために、この機能の制御ユニットは、シンプルなカーラジオから洗練されたコンピューティング・プラットフォームへ進化しています。ヘッドユニット向けの次世代アプリケーションを実現するために、強力なマイクロコントローラが出現しています。このようなデバイスは、洗練されたマルチコアプロセッシング、オフチップメモリインタフェース、およびCAN、MOST、Ethernet、ビデオカメラ入力、ワイヤレス接続向けインタフェース、さらにUSB2.0ポートやUSB3.0ポートといった豊富なコネクティビティで構成されています。ハイエンドのマイクロコントローラは 、複数のHDディスプレイへの出力能力を提供すると同時に、HDMI接続対応が将来的に普及することが予想されます。
今日、自動車ユーザーに各自のデバイスやストレージと接続し、必要に応じて、コンテンツやサービスにアクセスする柔軟性を提供するために、USB接続は重要となっています。運転者だけでなく、後ろと前の座席の同乗者に、それぞれに異なる、さまざまな目的で各自のデバイスを接続可能とするために、複数のUSBポートがますます求められています。
○自動車のUSB
車内USB接続を満たすためには、USB電源電圧・電流を調整し、すべてのUSBデータと電源接続をさまざまな電気的ハザードから保護するよう考慮しなければなりません。
USB電源接続(Vbus)は HOSTコントローラまたは外部ソース(デバイス)のいずれかから電力供給できます。Vbus電圧は4.75Vから5.25Vの範囲になりますが、電流は500mAから、タブレットや新しいモバイル機器では2.1A以上におよびます。これは各機器の継続的な、かつ高速充電の要件によって、変化します。
直面する可能性がある電気的ハザードにはESDと過渡電流イベントが含まれますが、これらは、製造や組み立て中に発生する場合があり、あるいは、車の乗員や車内の他の電気回路が原因となることがあります。路上走行車に関して、ESDおよび過渡電流イベントを取り扱う主要な文書は、ESD試験方法を記載したISO 10605(路上走行車 - 静電放電による電気的妨害の試験方法)と、車内の他の電子機器によって生じる影響に関するISO 7637(路上走行車 - 導通および結合による電気的妨害)が挙げられます。IS0 10605はIEC 61000-4-2業界規格をベースとし、さまざまなレベルのESD信号特性を規定するだけではなく、自動車独自の追加要求事項も含まれています。さらに、通常、 OEM独自の試験要件も課されています。
加えて、USB2.0 Full Speed/High Speed、マルチチャネルUSB3.0 SuperSpeedインタフェース、並びにVbusラインやグランドラインのすべてのデータ・信号ペアは、バッテリへの短絡(16V DC)とグランドへの短絡障害から保護することが求められています。適切な保護ソリューションは、信号減衰を最小限にするために、信号ラインの低容量性負荷などの制限を満たすと同時に、低クランプ電圧により、サージや過渡電流に素早く対応しなければなりません。さらに、シグナル・インテグリティを維持するために、小型パッケージはトレース信号を最小限の曲がりで伝送する能力を提供すると同時に、ボードスペースの要求を最小限に抑える上で役立ちます。
●電子ヒューズICを使用した過電流保護ソリューション
○柔軟性のある保護
図1に示すように、2段階の保護ソリューションを想定できます。このソリューションは、バッテリへの短絡状況に耐えうるESD保護ダイオード、その後バッテリレベルのDC信号を保護回路の損傷から守るデュアルFETから構成されています。電子ヒューズICを使用して、Vbus接続を過電流状態から保護します。ディスクリート部品を使用したこの実装を使用して、USB Vbusと高速データラインを保護するために最適化されたデバイスを選択できます。
ESD保護デバイスは、IEC61000-4-2レベル4に適合する高いESD保護レベルで設計されており、AEC-Q101に準拠、 PPAP対応となっています。
各デバイスの2つの内部ダイオードは、1つのD+/D-ペアを保護し、ティピカル値0.3pFのグランドへのI/O低キャパシタンスを持ちます。シグナル・インテグリティを保護するために、キャパシタンスが厳密に整合されます。低い動的抵抗により、低いクランプ電圧が可能となり、18Vのブレークダウン電圧により、デバイスは、ブレークダウンすることなく、9V から16Vまでの範囲のバッテリへの短絡状態に耐えることができます。
デュアルFETは低いオン状態抵抗(RDS(ON))により設計され、フロースルー設計によって、高速シグナル・インテグリティを維持可能とする内部レイアウトが特徴的です。1.0Vのしきい値電圧により、USBレベルの信号に合わせた、低いゲートドライブ電圧で運用可能です。
Vbus過電流保護は、図2の「NIS5135」に見られるように、電子ヒューズ(eFuse)によって実現されます。この3.6A/5Vデバイスは、接続されたUSBデバイスを、正常な状態で運用を継続可能とすると同時に、 過負荷や短絡状態の場合、過剰な電流消費からVbusラインを守るように設計されています。また、eFuseは事前に定義された値への出力クランピングにより源から発生する電圧スパイクから、USBデバイス(またはその下のダウンストリームIC)を保護します。
図1と図2に示される電気回路を組み合わせ、完全なUSB保護ソリューション、すなわちデータライン、Vbus、グランド接続を含むUSB 2.0 ESD保護を実現します。また、これは、自動車のバッテリへの短絡やグランドへの短絡などの障害から保護します。このアプローチは、ディスクリート部品を使用し、数多くの技術的、経済的メリットを提供します。まず、バッテリへの短絡保護の有無にかかわらず、柔軟にESD保護を実行することで、OEMは最終顧客の仕様を満たす適切なソリューションを構成できます。さらに、選択されたFETのフロースルー接続によって、 車載認定されたESDデバイスと互換性のあるレイアウトで、バッテリに対する短絡保護を簡単に追加できます。
さらに、設計者は、最も便利な場所で、バッテリへの短絡保護回路を配置すると同時に、最大限の効果を実現するため、ESD保護デバイスをコネクタの近くに自由に配置できます。バッテリへの短絡接続を実現するデュアルNFETは、USB2.0、HDMI、LVDSなど、さまざまなインタフェースでの使用に適しています。これは、設計再利用を促進し、OEMが、さまざまな既存の市場や新興市場をコスト効果の高い方法でターゲット可能となります。
○パフォーマンスの証明
テストと検証は、USB2.0通信プロトコルに準拠したアイ・ダイアグラム・シグナル・インテグリティテストを使用して特性化されます。最小限の開いた「アイ」のUSBプロトコル定義を、ソリューションの全体的なパフォーマンスを決定する指針として使用しています。図3は、480Mbit/sのUSB 2.0信号を使用したアイ・ダイアグラム・シグナル・インテグリティテストを適用してテストを実施し、図1に示されるソリューションの満足のいくテスト結果が得られていることを示しています。
データラインでアイ・ダイアグラムを実行する前に、10分間データラインにバッテリへの短絡テストとグランドへの短絡テストを追加で実施しました。50Ωプローブ付きオシロスコープを使用して観察された信号は、きれいなアイ・ダイアグラムを示しています。データラインをグランドに接続した場合、信号は著しく劣化します。10分後短絡を取り除くと即座に、信号が正常のアイ・ダイアグラムに回復します。出力がバッテリ(+16V)に対し短絡すると、入力ラインはVcc(+5V)電力レベルに維持されます。
+5Vを越えるV-peakの入力信号がある場合、出力が+16Vに対し短絡した後、そのレベルが維持されます。バッテリへの短絡状態を取り除いた後、信号パターンは正常に戻ります。
○結論
今日の自動車購入者が、自宅と同じようにデバイスを接続することを車内でも期待する中で、USB接続を提供するかどうかではなく、ポートをいくつ提供するかが、自動車OEMの課題となっています。
モジュールや完成車に適用可能なテスト方法はすでに、ISO 7637やISO 10605などの文書に規定されています。インフォテイメント機器、特にヘッドユニットやADASの設計者は、 USB電力、グランドおよびデータラインを保護するために効果的なソリューションが必要となっています。ディスクリートESD保護ダイオード、短絡保護FET、Vbus過電流保護を提供するeFuseから構成されるネットワークは、必要なパフォーマンスを実現すると同時に、設計者に、さまざまな自動車市場セクターやアプリケーション向けに最もコスト効果の高い保護を柔軟に提供できます。
著者紹介
Deres Eshete(デレス・エシュテ)
ON Semiconductor
スタンダード・プロダクト・グループ
オートモーティブ・ビジネスデェベロップメント・マネージャ
2011年にON Semiconductorに入社後、世界各地のさまざまな出版物に向けて多くの車載関連記事を執筆。ON Semiconductor入社以前はDelphiでセーフティ・アプリケーションにつながる役割を担ったインフォテインメントとナビゲーション・システムの主任設計技術者として従事。米国ローズ・ハルマン工科大学で電気工学理学士、ノートルダム大学で電気工学修士、パデュー大学のクラナート・ビジネススクールで経営学修士を取得。