日本に来てから、15分前行動に - 日本在住6年のベトナム人青年の働き方
20代という若さで、既に日本での生活が6年を超えたというベトナム人のヒェウさん。日本・ベトナムそれぞれで観光ガイドを務め、ベトナムのチュオン・タン・サン国家主席が来日した際は、政府関係者のガイドを担当したことも。しかし今年は心機一転、建築会社に転職。親子のような関係と慕う社長と、二人三脚で目指す新たなミッションとは?
■これまでのキャリアと今の仕事について教えてください。
ベトナムの北の玄関、ハノイ市のノイバイ国際空港近くで生まれ育ちました。小さな頃から日本のアニメやサッカーが大好きで日本に対する憧れが強く、2005年ハノイ外国語大学(現ハノイ大学)の日本語学科に進学。
2年目を終えた頃に休学し、日本政府の外国人技能実習制度に応募して3年間岐阜県の部品工場で働きました。金銭的に3年間は帰国できないことが分かっていましたし、親元を離れるのは初のことだったので、最初の数か月は本当に本当に寂しかったのですが、3年後に日本を離れハノイに戻ると、今度は日本が恋しくて仕方なくなっている自分がいました。
ハノイに戻ってからは大学に復学すると共に、アルバイトで日本人観光客のガイドをしました。その時期は日本人に人気の観光スポット、世界遺産のハロン湾に週に2回は行きましたね。
2012年の卒業と同時に、日本の旅行会社に就職。インバウンド旅行を専門的に扱う同社で、日本を訪れるベトナム人のガイドとして東京で働きました。今年は「爆買い」が流行語になりましたが、ベトナム人の間では電化製品のほか、粉ミルクやサプリメント、健康食品も人気でしたよ。
ベトナム政府関係者のガイドも何度か務め、数年前にベトナム国際会議場の社長の通訳をした際に、現在の会社の社長と知り合いました。社長は日本人ですが、日本の建築材などをベトナム政府に販売しており、政府関係者と交流があったのでその場に同席していたんです。本業の傍ら、以前ハノイ市内に和食店を経営していたという社長と意気投合。
私自身、将来はベトナムで和食レストランを経営したいという夢があり、社長ももう1度ハノイで飲食店をと考えていたので「一緒にやらないか?」と誘われ、数カ月前に転職を決めました。
現在は八王子にある建築会社で、システムキッチンやクロスなど日本の建築商材をベトナムの富裕層やデパートなどに販売する際の通訳業務を行うと共に、ハノイでのレストラン開業に向け準備を進めています。■現在のお給料はどうですか?
給料・待遇すべての面で満足しています。というのも、現在勤務している会社の社長が、会社の隣に社宅を用意してくれたんです。4月に妹を呼び寄せ、その家で一緒に暮らしています。2~3カ月に1度はハノイへ里帰りできるくらいの収入も頂いていますし、非常にありがたいです。
■今の仕事で気に入っているところ、満足を感じる瞬間は?
今の会社は社員が5名ほどで外国人は私1人だけですが、社長や社員の方がとても親切にしてくれます。時には社長や社員だけでなく、家族の方々も私たちの家に招待し、ベトナム料理ふるまうことも。
故郷を離れてもアットホームな楽しいお付き合いをさせてもらえている点が一番気に入っています。また地域の方々も私と妹をとても暖かく見守ってくれていて、今年の夏は地域のお祭りにも参加させていただきました。
社宅の隣にある会社は、社長家族の自宅も兼ねています。私自身、自分の家の隣に見ず知らずの外国人が住むとなったら多少抵抗を感じると思うのですが、そんなことは全くなく、妹のことまで気遣ってくれる社長にはいつも感謝しています。
■逆に今の仕事で大変なこと、嫌な点は?
転職して間もないので建築の知識がほとんどなく、専門用語を理解し訳すのに苦労しています。なるべく早く通訳業務スキルを向上させたいので、時折、組み立てなどの業務にも参加させてもらいます。実際に自分の手と体を動かして商品を使ってみると細部まで理解でき、ベトナム人顧客にもスムーズに説明ができるんです。
■日本人のイメージは? あるいは理解しがたいところなどありますか?
日本人のイメージを一言で言うと「厳しい」。
ベトナム人と比較すると、まずは時間に厳しいですね。でも私の日本生活も6年目に突入しているので、今では常に15分前に約束の場所に到着するのが当たり前になってきました。
もう1つは仕事に対する厳しさ。どんなに難しい業務でも投げ出さず、最後まで責任を持ってやり遂げるのは素晴らしいと思います。最近、建築材の組み立て業務中に「できなかったら、できるまでやりなさい」と言われたのも印象的でした。
理解し難いことと言うと……。実は思い当たらないんですよね。日本とはご縁があるのか、最初から驚くようなことはあまりなかったんです。
都内のラッシュ時の電車通勤も、ハノイの超満員バスに比べれば、車内は綺麗でエアコンも効いていて、天国のように快適ですしね(笑)。●メモを持ち歩くように
■最近TVやラジオ、新聞などで見た・聞いた日本のニュースは何ですか?
TPPの関連ニュースです。ベトナムも日本と共に参加に向けた交渉を進めていますが、一説ではベトナムはTPPで最も利益を受ける国であるとも言われています。今後は参加国内の人・モノ・カネの行き来が活発になり、日本とベトナムもビジネスがより密になってゆくと思うので、常に注目しています。
■あなたの「マストビジネスアイテム」を教えてください。
いつもカバンに入れているのは、携帯電話とスマホ用バッテリー、イヤホン、お財布。それと、メモ帳です。メモ帳はベトナムでは全く使いませんでしたが、日本に来てからは常に持ち歩き、忘れてはいけない予定などを書き込むようにしています。
ベトナムで予定を忘れた場合ですか? 特に誰も怒らないし困らないので、リスケジュールするかな(笑)。
それに、身分証明書となる在留カードは常に携帯していなければいけません。ただ最近、日本人の友人と遊んでいた時に、警察官が彼に「在留カードを見せて下さい」私に「免許証を見せて下さい」と尋ねてきたので、お互い噴き出して「逆でもいいですか?」と聞き返したこともありました。
■休日の過ごし方を教えてください。
基本的には土日が休みです。最近の休日は、社長と一緒にジムに行ったりすることも多いですね。先に述べた通り、私と社長のゴールは「ハノイでの飲食店経営」ですが、実はもう一つ隠れミッションがあって。それが、ダイエット! 1人でのダイエットは孤独ですが、一緒にチームを組めば頑張れそうな気がしています。
この前は2人で高尾山までサイクリングに行きました!
それと数カ月に1度はハノイに帰り、仲間とサッカーをします。というのも、私はハノイの日本語ガイドが中心となって作ったサッカーチームのリーダーなんです。またハノイでガイドをしている友人が添乗員として東京を訪れることも多いので、都内でもよく一緒に飲みます。日本で飲むのはもっぱら「いいちこ」! プリン体が少ないのが魅力ですね(笑)。
■将来の仕事や生活の展望は?
まずは社長と共に、ハノイで日本食レストランをオープンさせるという夢を実現させたいです。それから、東京でベトナム料理レストランもやってみたいな。ベトナム料理と言えば皆さん米麺の「フォー」を連想されますが、米麺は他にも「ブン」「フーティエウ」「バインダー」など多数あり「ミェン」という春雨もよく食べます。私の実家は小さな工場でブンを製造しています。外食することが多く、ちょっと高級なフォーは「お蕎麦」、一方でブンはより庶民的だけどみんな大好きな「そうめん」といったイメージです。日本では現状、乾燥ブンしか手に入らないので、いつか実家のおいしいブンを日本の方にも食べてもらいたいですね!