イトーヨーカドー復活のヒントに? 「omni7」で得た大きな手応え - セブン&アイ・ホールディングス鈴木康弘CIOに聞く(後編)
セブン&アイ・ホールディングスが11月から本格開始したオムニチャネルの「omni7」。重視するのは商品力だ。本格スタートしてからわずか1カ月ほどだが、あるコラボ商品などですでに大きな手応えも得たという。それは今後のデジタル時代における傘下企業の光明になるかもしれない。今後の商品の展開、新たなサービスへの取り組みも含めて、セブン&アイ・ホールディングス取締役執行役員最高情報責任者(CIO)の鈴木康弘氏に聞いた。
――ジャンポール・ゴルチエとのコラボ商品「SEPT PREMIÈRES」の取り扱いを始めましたが、これはオムニチャネルと関わるのでしょうか。
これはオムニチャネルの一環で、目玉企画の第一弾です。今回、我々は、高品質でブランド力のある商品を展開しようと考えました。
これができたのは、我々には、ラグジュアリー商品の扱いに長けたそごう・西武があり、量を扱えるイトーヨーカドーがあったからです。量があるから比較的手頃な価格で提供できるわけです。
――結果は好調だったと聞いています。
テレビCMを流したら、お客様が「omni7」のサイトをご覧になって、PVが大きく伸びました。その後、多くのお客様に実際にご来店いただきました。その影響で、10月、11月のイトーヨーカドー、そごう・西武の来店客数が増えました。これまでにいない層のお客様、つまり若い方のご来店が増えたんです。
さらに後日、これが本当に「omni7」サイトの効果なのかを確かめようと、イトーヨーカドー店頭で調査を行ったところ、販売サイトを見て来店したお客様が31.5%もいました。
ウェブを見た後でご来店いただいたことがわかり、その際、ついで買いをしていただいた方も多く、いきなりウェブルーミング効果が出たと思っています。
――ジャンポール・ゴルチエ氏とイトーヨーカドーの組み合わせは意外でした。
当初は、SNS上で「ゴルチエ? ヨーカドー? ありえねえ」といった感想があったくらいです。イメージは確かにそうかもしれません。「どうして、スーパーでゴルチエなの?」と疑問を抱かれてもおかしくないわけです。
でも、売り場がしっかりしていて、実際に物を見ていただいたら「いいじゃん」「買っちゃった」というように変わったようです。若い方からは尖がってっていいなとか、そういう感想もいただきました。
今回の取り組みでは、もともと、ネットとリアルの好循環を期待していたんですけど、いい事例ができました。
今は商品開発に力を入れようということで、社員一丸となって取り組んでいます。イトーヨーカ堂も、そごう・西武も、「omni7」に合わせてリアルも改革していこうという動きもあります。実際にプロジェクトは動き出しています。
●取扱商品の方向性は?
――出だしが好調の一方で、販売サイト上の商品点数はまだ少ないようです。
確かに、スタートしたばかりなので、まだまだこれからです。サービス開始時点で180万点程度です。まだリアルの商品さえ登録しきれていません。今は商品をどんどん登録している段階です。
販売サイトには、地域の限定の取扱商品も登録しています。醤油ひとつとっても、イトーヨーカドーも、セブン-イレブンもエリアによって異なっていて、リアルだと面積の制限がありますが、ネットは無限の空間ですから、こういうことができますよね。
――今後、「omni7」のサイトで扱う商品の方向性はどうなりますか。
上質、安心がキーワードです。世の中の既存のネットショッピングの商品には、まだまだ冒険的要素が強いと思うんですよ。ときどきヘンなものを買ってしまった経験はないですか? 一般的なネットショッピングはまだそういうことが起きるものと思っています。
だからこそ、「omni7」が扱う商品は、クオリティで安心できるもの、そして、上質であることが重要です。上質というのは、高級という意味ではなく、たとえば「セブンプレミアム 金のハンバーグ」だと、あの値段で、あの味を実現できるという意味です。
安心・安全で少し生活が贅沢になる、そこにこだわった品揃えをしていこうと思っています。
また、さらに重要なことはゴルチエのような比較的、嗜好性の高い商品を企画・開発する一方で、幅広い層の多くのお客様に手にとっていただける商品を現場の仲間とともに開発し、生み出していくということです。
そして、近い将来には「omni7」のシステムを活かし、お客様の声を活かした商品開発をすることも考えています。
――PB(プライベートブランド)の取り扱い比率についてはどうお考えですか。
仮にお店の商品がすべてプライベートブランドで埋め尽くされれば、売り場は楽しくないかなと(笑)。ナショナルブランド(NB)商品とのバランスが重要だと思います。我々のプライベートブランド「セブンプレミアム」については、自信を持ってお客様に販売できる商品を取扱っていこうと思っています。セブンプレミアムについては、もともと高いQC基準があり、当然、そこに照らし合わせていこうと思っています。
とはいえ、お客様にとっては、この商品はこだわるけど、別の商品は一般的な商品でいいというニーズもあります。ですから、必ずしも全商品が"上質"なものになるというわけでもありません。ただ、何でもかんでも揃えようとは思っていません。重要なのはそのときのお客様のニーズに合わせたバランスです。
●"やり続ける"という愚直な経営哲学
――「omni7」の新サービスは?
たとえば、そごう・西武では、お客様からお許しを得た上で、衣服のサイズ情報がサイト上に登録できるようなサービスが考えられます。サイト上で、自分のサイズで迷わずに買い物ができたり、逆にサイトで商品を見て、リアルのどの店舗に在庫があるのかがわかるような機能をつけられたりしたらと思っています。これはリアルがあるからできることなんですよね。
――「omni7」の販売サイトでは、セブン-イレブンの商品とイトーヨーカドーの商品を同じカートに入れて購入することができません。
これはどうしてですか?
これは会計処理の問題で、課題として認識しています。消費税の取り扱いをどうするかという点で、業界によって取扱い方が異なっています。こうしたところも今後、見直していきます。
――店舗の協力を得ることも重要になります。
我々はフランチャイザーであり、いくらオムニチャネルを進めようとしても、現場の理解を得られなければ、前には進めません。オーナーさんは一番のお客様であり、その方たちが気持ちよく取り組んでもらえる仕組みは重要です。皆様からもから多くの意見を頂戴しています。
それをもとに改善すれば、必ずいいものになると思っています。こうした信念は我々のグループ独特のものかもしれません。我々の先輩たちから引き継いでいるDNAには、お客様に認められるまでやり続ける愚直さというものがあります。
たとえば、セブン-イレブンでは、37年前からおにぎりを販売していますが、当時、おにぎりは家で作るもので、店舗で販売しても、ぼそぼそしていてまずい、などと言われていました。米をコシヒカリに変えて進化し、今では、おにぎりはコンビニで買うものということが当たり前になっています。
――「omni7」もやり続けていくと?
そうです。繰り返しになりますが、我々には他社にはないものが3つあります。ひとつは、様々な業態の小売企業を抱えていること、セブン-イレブンというお客様との接点をもっていること、愚直な経営哲学です。
そして、新しいことをやるには、基本の徹底も不可欠です。変化への対応、基本の徹底がグループの行動指針になっています。この部分はかなりの自信を持っています。
――「omni7」を通じての大きな目標は?
2020年まではぼやっと見えています。東京オリンピックでは海外の方が大勢来ますし、その際に「日本の小売業っていいよね」と思ってもらえるのが僕の夢ですね。「omni7」が海外の方へのお手本になって、「これ便利じゃない? アメリカでもこれをやろうよ」と言っていただけるところまでいけたらいいですね。