ゼンハイザー「MOMENTUM Wireless」を試す - ワイヤレスでも高音質
2015年1月の「CES 2015」で初展示されたゼンハイザーのオーバーイヤーヘッドホン「MOMENTUM Wireless」。MOMENTUMシリーズ初のBluetooth・ノイズキャンセリング対応モデルということで話題を呼んだが、2015年12月16日、ついに日本でも発売となった。初お目見えから約1年、待ちかねたという人も多いのではないだろか。本稿ではMOMENTUM Wirelessの使い勝手や音質をチェックしてみたい。
○ノイズキャンセリング機能は良好
MOMENTUM Wirelessは、2015年7月に発売された第2世代のMOMENTUMにBluetoothとノイズキャンセリング機能を加えたモデルだ。Bluetoothのバージョンは4.0で、NFCにも対応。右ハウジングのボタンを2秒間押し続けると電源がオンになり、Bluetooth機能とノイズキャンセリング機能が有効となる。今回、プレーヤーはソニーのウォークマン「NW-ZX100」を使用したが、簡単に接続でき、コーデックも自動的に高音質のapt-Xが選択された。
ヘッドホンを装着し電源をオンにすると、今まで耳触りだったエアコンやパソコンのファンの音がスゥーッという感じで消える。ノイズキャンセリングの効果が実感できる瞬間だ。ノイズキャンセリングヘッドホンにありがちな気に障るホワイトノイズもない。
ノイズキャンセリング機能に関しては完全に雑音を消すということではなく、電車の中など騒音の大きな場所では、音楽をかけていないと周囲の音がそれなりに聞こえてくる。それでも、喫茶店など周囲の音が気になる場所で電源をONにして装着しておけば、音楽をかけていなくても騒音はかなり低減される。集中して本を読みたいときや書類作成を行う時などに役立ちそうだ。もちろん、音楽をかければ周囲の騒音は気にならなくなり、音楽に没頭できる。ノイズキャンセリング機能はなかなか良好と言える。
ワイヤレス接続の安定性も高い。鉄筋コンクリート造マンションの室内で試したところ(壁はモルタル)、10m離れた場所でも音が途切れることはなかった。屋外でも、ショルダーバックに入れたオーディオプレーヤーで音楽を再生しながら山手線を半周し、さらに新宿の街を歩いてみたが、やはり音は途切れない。●音楽に引き込まれていく
○音楽に引き込まれていく
「HD650」など、ゼンハイザーの名機と言われる歴代のヘッドホンと同様に、このMOMENTUM Wirelessも音楽を聴いているとその世界にどんどんと引きこまれていく。たとえば、ヘッドホンのレビュー記事を書く際は、各曲の聴き所だけを再生することもあるのだが、MOMENTUM Wirelessの場合は音楽に引きこまれて途中で止められなくなってしまうのだ。それだけ曲の魅力を引き出す力がこのヘッドホンにはある。
カラヤンが1960年初頭にベルリンフィルと録音した「ベートーベン交響曲 第3番 英雄 (FLAC 96kHz/24bit)」を聴くと、解像度が高いうえに音場が広く、定位もきっちりしているので、コンサートホールの中央に座して聴いているような感覚になる。目を閉じると前方にカラヤンとベルリンフィルが見えるようだ。
低域、中域、高域がバランス良く出ているため、各楽器の繊細な表現もしっかりと描写する。クラリネット、フルートなどの木管、トランペットなどの金管、バイオリン、ヴィオラなどの弦楽器が、あるときは繊細かつ美しく、ある時は激しく壮絶に目の前で奏でられる。
オーケストラの全体像をはっきリと見通すことができるので、ドイツの正統オーケストラらしい硬質な音を出すベルリンフィルを、若いカラヤンが高い統率力で推進していく様がはっきりとわかる。目を閉じて至福の時にひたっているうちに交響曲としては比較的長いベートーベン交響曲 第3番もあっという間に終わってしまう。あぁ、もっとこの時間が続けばよいのに……。何度となく聴いてきた曲でこんな風に思ってしまうのは、明らかにヘッドホンの力によるものだ。
マイルスデイビスの「Kind of Blue (FLAC 192kHz/24bit)」もすごい。もともと臨場感のある録音で有名なのだが、本機で聴くと、まるでスタジオの中にいるような感覚に襲われる。
ドラムのジミー・コブが、ベースのポール・チェンバースが、テナーサックスのジョン・コルトレーンが、アルトサックスのキャノンボール・アダレイが、ピアノのビル・エバンスが、そして御大マイルス・デイビスが目の前でスリリングな演奏を展開していく。各楽器の音色やアタック感など細かな部分まできっちり描写されるので、バンド全体が生み出す絶妙なスイング感がストレートに伝わってくる。椅子に座っていても思わず体がリズムに合わせて揺れてしまう感じだ。
●ローリング・ストーンズもハマる
ローリング・ストーンズの「メインストリートのならず者 (FLAC 192kHz/24bit)」のようなギター中心のロックもよい。1曲目の「Rocks Off」はキース・リチャーズのチャックベリー風ギターリフで推進していく曲なのだが、ギターのドライブ感に加え、チャーリー・ワッツ、ビル・ワイマンのリズム隊、ボビー・キーズとジム・プライズのホーンセクションなど、バンド全体が生み出すグルーブ感が見事に表現され、絶妙のノリを体感することができる。ギターの音は厚みがあるものの細部がつぶれることなく細かなニュアンスもよく聴こえてくる。筆者のようなキース・リチャーズ好きにはまさに悶絶もの。ミック・ジャガーのボーカルもリアルで迫力がある。
女性ボーカル曲がどう聴こえるのかも気になるところ。そこでノラ・ジョーンズの「Come Away With Me (FLAC 192kHz/24bit)」と平原綾香の「my Classics 2 (FLAC 88.2kHz/24bit)を聴いてみた。まずノラ・ジョーンズだが声に実在感がある。「Come Away With Me」は、少しハスキーなささやくような歌声が艶やかでなまめかしい。細かいブレス音も聴こえてくるので、まさに目の前で歌われているように感じる。平原綾香はハスキーながら低域から高域までしっかり表現できる歌唱力の高さが魅力だが、本機で聴くとその魅力がよくわかる。低域のささやくように歌う部分は音がつぶれないうえ、伸びのある高音もアタマうち感なく表現される。音が刺さる感じもない。
今回は、このほか、クラシックのピアノ曲、カントリーブルース、歌謡曲など幅広いジャンルの音楽を聴いてみたが、総じて感じたのは、そのどれにも高水準で対応できるということ。どんな曲を聴いてもその世界の中に引きこまれていくのだ。もっと解像度が高く、細部の描写力もあるヘッドホンはあるが、音楽を気持ちよく聴けるという点においては、本機はかなり高いレベルにあると言ってよいと思う。
○装着感をチェック
音楽に思わず没頭してしまうくらいなので、当然のこと、装着感もなかなかよい。ヘッドバンドは無段階調整が可能なスライド式で、ハウジングの位置を頭の大きさに合わせてきっちり調整できるし、側圧もほどよい感じだ。イヤーパッドはやわらかくやさしく耳にフィットするので長時間使用しても疲れにくい。ただし、有線接続の「MOMENTUM G」の220gから、256gへと重量が増しているため、女性は若干重さが苦になるかもしれない。折りたたみも可能で、持ち運びに便利なキャリングケースも付属する。
オーバーヘッド型のヘッドホンとしてはコンパクトなほうなので、ポータビリティにも不満はない。
○高価だが割高感はない
MOMENTUM Wirelessの実勢価格は65,000円前後(税込)。初代「MOMENTUM」が30,000円台、第2世代「MOMENTUM G」が40,000円台であることを考えるとやや高価だ。だが、ワイヤレスの使用感がよく、効果的なノイズキャンセリング機能を搭載していることを考えれば、決して割高感はない。音質は筆者がこれまで試用したワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホンでは間違いなくトップクラスだ。おいそれと手にできる価格のモデルではないが、個人的にはかなり興味をひかれた。ワイヤレス、ノイズキャンセリングというだけで拒否反応を起こしてしまう方もいると思うが(実は筆者もそうだった)、そんな方にもぜひ一度試聴してみてもらいたい逸品だ。