電力小売自由化目前! 過熱する首都圏の需要争奪戦の現状【前編】
2016年4月に開始される“電力小売自由化”に向け、市場へ参入表明している各企業の動きが慌ただしくなってきた。
今回自由化されるのは、一般家庭や小規模事業者、商店といった“低圧”に分類される部分。ちなみにオフィスビルや百貨店、大規模工場などの大口需要家向けの“特別高圧”、中規模ビルやマンション、スーパー、一般的な工場などに向けた“高圧”はすでに自由化されている。つまり、4月に自由化されるのは残された最後の領域で、今回の施策が電力“全面”自由化と呼ばれるのはそうした意味合いからだ。
低圧とはいってもこの市場の価値は大きい。経済産業省によると、一般家庭と小規模店舗で約8,400万件にのぼり、金額ベースでは約7.5兆円に達する巨大市場。2015年12月28日現在、119社にものぼる小売電気事業者が名乗りをあげているのもうなずける。とくに参入事業者がねらいを定めているのが、もっとも電力需要が大きく、これまで東京電力が寡占してきた首都圏の市場だろう。
そんななか、以前から市場参入を表明していた東京ガスが、2015年12月24日に電力料金プランをリリースした。東京ガスはその名のとおり東京とその周辺県で自社導管し営業しているガス事業者。その東京ガスが電力事業に乗り出すということは、提供してきたエネルギーは異なるが広域で営業区域が重なる東京電力と、真っ向から勝負することになる。
また年が明けた1月6日、ケーブルテレビを主事業にしているジュピターテレコムが「J:COM電力」の先行申し込み受付をスタートさせた。J:COMは日本全国で約500万世帯の契約者を抱えるケーブルテレビ最大手サービス。ただ、日本全国で営業しているとはいっても、約315万世帯が関東圏の契約者。こちらも電力市場に乗り出すとなると、6割以上の契約者が占める首都圏を最初の足がかりにするのは間違いない。
“東京電力包囲網”ともいえる一角に連なる両社だが、その戦略はわかりやすい。
東京ガスは「ガス+電力」、ジュピターテレコムは「J:COMサービス(CATV・インターネット・固定電話)+電力」(※)といったように、ともにこれまで手がけていた主事業と新たに提供する電力を“セット販売”することで割引し、東京電力に対し価格競争力を生み出すのがねらいだ。ちなみに、東京ガスは年間約4,000~5,000円(40A、年間使用量4,700kWhを想定)、J:COMは6,804円(関東地域、40A、年間5,820kWhを想定)が東京電力のプランに比べお得になるとアナウンスしている。
※ CATV・インターネット・固定電話のいずれかのうち、2種以上のサービスを受けている契約者が「J:COM電力」を利用した場合、割引価格が受けられる。
●契約者にダイレクトにリーチできる強みを生かせるか
ただし、これらの試算は電力自由化前の東京電力と比べたもの。両社とも、発表の時点では東京電力の自由化以降の価格を知らず、本当に価格競争力があるかどうか確信は持てていない。また、このセット販売の施策がどこまで“首都圏電力のガリバー”である東京電力に通用するのか“手探り”といった印象だ。
事実、ジュピターテレコム 執行役員 ケーブルTV事業部門 副部門長 堀田和志氏は、「中期的にエリア内加入率の20%にあたる、100万世帯を獲得したい」とするが、実際どのくらいの年数で達成できるのかは明言を避けた。また、4月の電力自由化開始までに「価格の見直しも考えられる」(堀田氏)と、逡巡している様子もうかがえる。
「中期的」と断言していることを捉えれば“3~5年で100万世帯”と考えているといえそうだ。
ただ、J:COMの場合、強みがある。それは、訪問販売スタッフやサービスエンジニアリング、ジェイコムショップ、専門チャンネル用番組表冊子の送付、J:COMポータルサイトなど、契約者にダイレクトにアプローチできる“接点”が整っていること。実際、今回の電力サービス開始にあたり「ヒューマンリソースの強化や営業所の拡充といった施策は考えていない」(ケーブルTV 事業部門 ケーブルTV事業統括本部長 高橋邦昌氏)という。これらの接点を効果的に活用して電気サービスを訴求すれば、数年で100万世帯は難しい数字ではないといえる。
むしろ、東京ガスのほうが消費者とのダイレクトな接点探しで苦労しそうだ。自由化までまだ数カ月残しているのに、年末から大規模にテレビCMを打っているのは、その表れといえなくもない。
一方、こうした事業者を迎え撃つ東京電力の戦略はどうか。
後編にてお伝えしたい。
○全面自由化前夜……夜明けを待つ電力会社の動静
●電力小売自由化目前! 過熱する首都圏の需要争奪戦の現状【後編】
●電力小売自由化目前! 過熱する首都圏の需要争奪戦の現状【前編】
●東京電力が高効率LNG火力発電への切り換えを急ぐ理由
●“守り”ではなく“攻め”へ! 電力小売自由化に向けた東京電力の戦略