iOS 9.3:ホーム画面のクイックアクセスメニューのサポート拡大 - 松村太郎のApple先読み・深読み
iPhone 6s、iPhone 6s Plusで採用された感圧タッチディスプレイ「3D Touch」は、これまでのマルチタッチディスプレイに圧力を検知できるセンサーを追加し、また振動によるフィードバック機構を備えたテクノロジーだ。 これにより、感触のあるタッチパネルを実現している。
現在実装している機能は、ホーム画面でアイコンを押し込むことでアプリの機能に直接ジャンプできる「クイックアクセスメニュー」、画面の左端を押し込むことで起動できる「タスク切り替え」、リストを押し込んで中身を表示できる「ピーク」、さらに押し込んでコンテンツを開く「ポップ」。加えて、いくつかのアプリでは、感圧タッチを筆圧検知に使って、描画時の表現力を高めている。
9to5macによると、Appleがプレビュー版をリリースしたiOS 9.3では、「天気」「コンパス」「ヘルスケア」「App Store」「iTunes Store」、そして「設定」の各アプリで、「クイックアクセスメニュー」が新たに利用できるようになったという。
特に、「設定」アプリのメニューに入るとみられる「Wi-Fi」の項目は、使用頻度も高いため、重宝しそうな機能ではある。ただし、後述する通り、その存在を忘れなければ、の話だ。
Appleは、Mac、iPhone/iPad/iPod touchと、製品ラインアップをOSで分けており、Tim Cook CEOは「OS XとiOSの融合はない」と公言する。
しかしながら、インターフェイスの面では、iOSデバイスを主導としながら、「共通体験を拡げる」方向性を探ってきた。
マルチタッチをiPhoneに導入し、iPadではより多くの指を使ってタスク切り替えなどを行うジェスチャーを導入した。またMacのトラックパッドもマルチタッチのジェスチャーをサポートし、3本指、4本指でデスクトップを切り替えたり、アプリを起動するためのLaunchPadを呼び出すことができるようにした。
感圧タッチパネルについては、Apple Watchが先駆けとなった。小さな画面でオプションメニューを開く際に、ぐっと押し込む動作を採用して以来、MacBook・MacBook Proのトラックパッド、iPhone 6s・iPhone 6s Plusと採用を拡げてきた。このようにして、マルチタッチ、3D Touch(もしくはForce Touch)と、タッチインターフェイスの共通体験を進化させてきた経緯がある。
ただし、これはSiriにも共通することだが、複数の指を使わなければならない、押し込む動作を行わなければならない、声を使わなければ実現できないという、活用を強制する機能ではない点も特筆すべきだろう。
ユニバーサルデザインの観点だけでなく、スマートフォンの操作に慣れていない人にとって簡単に使えるデバイスで在り続けるためにも、必ずしも難易度の高い作業を押しつけることはしていないのだ。
●3D Touchは難しい?
ユニバーサルデザインであることは、非常に評価できる。ただし、新しいインターフェイスの導入や活用に際しては、その速度を遅める可能性もある。必然性がない、絶対使わなければならない、というわけではない点で、筆者もつい、3D Touchの機能の存在を忘れて、利用せずに過ごしてしまうことが少なくないからだ。
例えばタスク切り替え。頭では、ホームボタンをダブルタップするより、画面の左側を押し込んだ方がアクションが少なくて済む、と分かっている。にもかかわらず、右手で持っているから、あるいはつい今までの癖で、といくつかの理由で、3D Touchによるタスク切り替えを忘れてしまっている。
ホーム画面のアイコンを押し込んで機能にショートカットする「クイックアクセスメニュー」も同様だ。前述の通り、新しいiOS 9.3では、設定アプリにWi-Fiへのショートカットが追加されるとみられており、これは重宝しそうだ、と直感的に思う。
ただし、その活用が定着するかどうか……。
「クイックアクセスメニュー」で絶対的に便利だと思う機能は、カメラアプリだ。
「カメラ」のアイコンをタップするとすぐに静止画の撮影モードが起動する。もし動画やセルフィを撮りたい場合は、もう1アクション操作してモードを切り替えなければならない。「クイックアクセスメニュー」を使うと、静止画撮影の他に、スローモーション撮影、ビデオ撮影、セルフィ撮影に直接ジャンプでき、とっさにカメラを使いたいときに、目的のモードに1テンポはやくアクセス出来るようになるはずだ。
しかし、そういうとっさの時ほど、慣れた操作以外の機能を利用して素早く行うことができないものだ。●そろそろ、カスタマイズ性へリーチした方が良いかもしれない
マルチタッチと比べると、全く異なるといっても良い動作になる3D Touchの「押し込む」という操作方法。述べてきた通り、その動作を使う必然性がなく、これまでの操作方法との連続性も薄い新しい操作方法を活用するにはどうしたらよいか。
そこで、これまでのiOSのインターフェイスにあまりなかった要素、カスタマイズ性の出番ではないか、と考えている。
「電話」や「メッセージ」、「Facebookメッセンジャー」の「クイックアクセスメニュー」は、お気に入りやよく連絡する相手が表示される仕組みになっている。そのため、家族や恋人に素早くメッセージを送りたいときには、その相手のスレッドにショートカットできて便利だ。
もっとも電話かメッセージの場合、ホーム画面を左にスワイプして表示されるSiriによる推測候補からアクセスしたり、もしメッセージのやりとりが続いていれば通知をタップするなど、その他の方法もたくさん用意されているため、「クイックアクセスメニュー」が特別便利だという話にはなりにくい。
ただ、このメニューの中身を自分好みにカスタマイズできるようになると、その機能を知っている人なら積極的に使い始めるのではないか、とも考えられる。
ちなみに、UIのカスタマイズについては、iOSがAndroidから遅れている最も大きな分野だ。しかもAndroidとの競争において、Appleにとって最も興味・関心が薄いテーマといえるだろう。ただ、操作方法や見た目そのものをガラッと変えるのではなく、ユーザーが手に馴染むようにショートカットを編集するのであれば、さほど問題なさそうに思えるのは筆者だけだろうか。
前述の「Facebookメッセンジャー」のように、アプリによっては、「クイックアクセスメニュー」の中身を動的に変化させているものも既にある。より具体的なアクションをこのメニューに登録できると、よくやる定型作業の効率化などに寄与し、生産性の面でも効果が現れるはずだ。
松村太郎(まつむらたろう)1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura