日本通信が事業戦略発表会を開催 - 規制緩和でMVNOは第2章へ
日本通信は22日、東京都内で事業戦略発表会を開催し、同社の福田尚久社長が2015年12月16日に発表された総務省の「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」を受けて、同社のMVNO事業が今後目指す方向性について説明を行った。
○タスクフォースの後押しで障害がなくなる
福田社長は冒頭で、これまではMVNO事業者に対して9つの技術的制約が足かせになっていたと説明。これらの制約がタスクフォースの声明により排除されることが、MVNOにとっての規制緩和第2弾になるだろうとした。
続いて、規制緩和による市場の変化について、同社の歴史を背景に説明。同社は2001年にMVNO事業を開始しているが、MNOであるキャリアとの接続料などで問題があった。これを解消したのが2007年の総務大臣裁定であり、これがMVNO規制緩和の第1弾であったとした。
この総務大臣裁定によりMVNOの接続料金が低廉化し、いわゆる格安SIMの第1弾としてイオンからb-mobile SIMを発売した。これにより携帯事業者以外から携帯通信(SIM)を購入できることを広く浸透させた意義があったと説明。
しかし、その後のMVNO市場を見るに、参入社は増えたものの、価格一辺倒の競争になってしまっている。MVNO SIMの認知度自体は上がったものの、携帯電話の契約数に占めるMVNOのシェアは未だ2%台と低迷しており、小さなパイをMVNO事業者が身を削りながら取り合っている状態になっている。
そこで日本通信は、価格競争である格安SIM事業から、今後はサービスを中心とした多様化競争へと舵を切ることにした。だが、多様化競争への道には「接続料算定問題」と「技術的制約」という2つの障害があり、これが排除されなければMVNOのさらなる発展はない、というのが、タスクフォースの諮問会における同社の主張だったわけだ。
今回、タスクフォースの声明により、こうした制約が排除される方針が定まり、日本通信としては従来のMVNOのモデル事業者としての役割を再定義し、新たに「モバイルソリューションイネーブラ」として、MVNOやシステムインテグレーター、メーカー、金融機関などがモバイルソリューションを実現するための黒子的存在として事業戦略を転換していくことを明らかにした。●独自SIMの開発を急ぐ
○今後は独自SIMの発行が急務
今後の展開について福田社長は、来るIoT時代において、「安全・安心なネットワーク」の提供という点で無線専用線が企業基盤・経済基盤として必須のインフラになることを強調。同社はこの分野について、米国での実績があることを挙げ、日本でも既存の固定専用線の10分の1程度で、いつでもどこでもアクセスできる安全なインフラとして提供できると自信を見せた。
そして最後に、世界最高のモバイルインフラを持つ日本でMVNOへの規制が緩和されることで、自動車メーカーや家電メーカー、金融、医療分野での強力なプレーヤーを世界へ紹介していくための支えになりたいとまとめた。
○ソフトバンク網を使ったMVNOも検討
質疑応答では、今後の展開について、まずは独自のHLR/HSSを設置して、自社独自のSIMを発行することを最優先課題に挙げた。独自SIMの発行が可能になれば、ただのSIMだけでなくMIM(車載機などに搭載される固定タイプのSIM)やソフトウェアSIMといった形態も可能になる。実現する時期としては2016年度中ということだが、HLR/HSSを設置するのにはコストもかかるのである程度やむをえないところだろう。
また自社SIMが使えるようになれば、アクセス網がキャリアなのかWi-Fiなのかを気にすることなく、どこからでもアクセスできる無線専用線の実現も可能になる。現在はデュアルSIMでドコモ網とソフトバンク網を切り替えているが、そういった手間もなくなるわけだ。
ソフトバンク網を使ったMVNO事業についても言及。スマートフォン利用者の割合が高いソフトバンク向けSIMは、顧客企業からの引き合いも強く、すでにHLR/HSSの解放について協議を進めており、ソフトバンク向けの格安SIMの提供についても意欲を見せた。ただし、これはb-mobileブランドではなく、すべて他社への卸として行うという。
なお、過去には月額980円程度の音声定額などの実現についても触れていたが、独自SIMや無線専用線が実現してから、段階を追って取り組んでいきたいとのことで、早くても2016年度内、実質は来年度からということになりそうだ。
一方、同社が展開してきた「b-mobile」ブランドのMVNO事業は継続するものの、これは低価格なMVNOという見本の意味合いが強いショーケースであり、今後はMSEnablerとしての業態に中心をシフトしていくという。これまでも他MVNOに回線を卸していた日本通信だが、今後はこれを強化して、日本通信/b-mobileブランドを前に出さず、利益構造がしっかりしている法人向け回線に注力するという方向性になるわけだ。これからは日本通信/b-mobileという名前にユーザーが触れる機会は減るのかもしれないが、これもMVNOの多様化が進んできたひとつの証だとも言えるだろう。
なお、同社はこの日、業績の下方修正も発表しており、11億円の黒字から15億円の赤字に転落している。これはMSP事業やSIM事業の下方修正だけでなく、何かと話題になったVAIO Phoneの在庫処分にかかる費用も重荷になっているようだ。MVNOの草分けとして日本のMVNO市場形成に大きな役割を担った同社だけに、ようやく得られた第2の規制緩和を生かして、安定した経営状態に戻してほしい。