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DACが語る、2016年アドテクのキーワードは「多様化するデータの統合と活用」

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DACが語る、2016年アドテクのキーワードは「多様化するデータの統合と活用」
●複雑化するデータをデジタルマーケティングにどう活用するか
2015年のデジタルマーケティングをめぐる動きを振り返ると、ユーザーの行動履歴をはじめとするデータの利活用は当たり前になり、スマートデバイスの普及により時間や位置情報といったデータを活用したO2Oの展開も活発になってきた。一方、テクノロジーの分野ではIoT(Internet of Things:モノのインターネット)への注目が高まり、今年は一層技術の進化が期待できるところだ。

こうした動きを踏まえ、2016年のデジタルマーケティングはどうなっていくのか。その展望について、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(DAC)プロダクト開発本部広告技術研究室長の永松範之氏にお話を伺った。

――2015年は、アドテクノロジーにおいて一層「データドリブン」の必要性が高まったのではないでしょうか。この動きは今後どうなっていくと感じていますか?

永松氏:私たち広告技術研究室では「テクノロジー」、「メディア/コンテンツ」、課金や効果指標、取引手法といった「メソッド」、そして「データ活用」という4つの領域で研究を行っていますが、近年はそれぞれの領域が複雑に絡み合い、融合してきていると感じています。

データの領域について、私たちが注目しているのはロケーションデータの活用です。これまでもロケーションデータはターゲティングの手段として使われてきましたが、それに加えてスマートフォンのGPS機能によってデータが収集しやすい環境が整い、またPOI(Point Of Interest)のデータが整備されてきたことによって、「どの位置にどのような関心を持ったユーザーがいるのか」ということが見えてくるようになりました。
つまり、ユーザーのロケーションデータとPOIデータを組み合わせることで、より精度の高いプロファイリングができるようになったのです。さらに、オンラインの行動履歴とリアルな位置情報を組み合わせることで、より深いターゲティングもできるようになります。

――アドテクノロジーの最大の関心は「どこに潜在顧客がいるのか」ということであり、それを探すための技術ということが求められています。ロケーションデータとPOIデータの組み合わせはその答えのひとつということでしょうか?
永松氏:そうですね。今のアドテクノロジーではあくまでもオンラインにおける行動をベースとしたデータの活用が盛んに行われていますが、今後はこれにリアルなロケーションデータを加えることで、よりユーザーの興味関心に応えるアプローチが可能になるのではないでしょうか。PCとモバイルといったクロスデバイスの利用シーンで、複数のデバイスを横断するユーザーに対して広告配信を最適化させる仕組みも、今年は活用していきたいと考えています。

――「潜在顧客を探す」という点では、CRM=既存顧客データの活用も昨年から注目されてきています。

永松氏:アドテクノロジーとマーケティングテクノロジーの融合、つまり顧客データをはじめとする企業が保有するアセットとの融合もひとつの大きなテーマですね。
私たちでも、いくつかの案件でデータの連携を開始したり、LINEビジネスコネクトを活用して間接的に企業のデータをマーケティングに活用したりといった動きが出てきました。いかにして企業の保有するデータをマーケティングに活用するかという点は、重要視されてきていると感じています。まずは企業が持っている顧客のデータを解析し、それを私たちのようなサードパーティが持つデータと融合させることで、企業の顧客と近い見込み顧客がどこにいるのかを発見することができるようになる。私たちもそういった価値を提供する仕組みを用意しているので、実際に企業に活用していただき、そのメリットを実感してもらいたいと思っています。

●アドブロックは“話題先行”、しかし対応を考える必要はある
―― 一方で、広告を配信する技術では新しいトピックスはありますか? 広告配信では前述のターゲティング技術はもちろん、効率やコストの最適化などが求められると思いますが。

永松氏:取引の仕組みについては、プライベートマーケットプレイスのようなものが拡大するのではないかと思います。私たちでも、完全オープンな広告オークションでの取引に抵抗のある企業に対して、招待制で厳選された広告主、媒体社だけが参加することができる価値の高い広告在庫のマーケットプレイスを用意しています。

加えて、配信技術については、昨年から注目されてきているアドブロックに対して技術的にどう対処していくかは、少しずつ出てきているところです。
例えば、「アドステッチング」という従来のコンテンツ=コンテンツサーバー、広告=アドサーバーという区別を見直して、コンテンツと広告を一体化して同じサーバーから配信するといった考え方や、「ファーストパーティー・アドサーヴィング」といって媒体社もしくは広告主のドメインで広告を配信するといった考え方が生まれています。アドブロックについては日本では話題が先行しているものの、実際のところはまだまだこれからなので早急に対応する必要はありませんが、市場の動向次第では2016年の大きなテーマになる可能性はあるので、今後対応を考えていかなければならないと感じています。

○テレビとネットの融合、技術的には連携させるロジックが確立へ

――民放各局が参加する「TVer」に代表される見逃し配信の拡大や、オンライン動画を活用したコンテンツマーケティングの発展などを背景に、動画に対する注目も高まってきています。このような動きはデジタルマーケティング、中でもターゲティングや効果測定にどのような影響を与えるでしょうか?

永松氏:ここ最近では、テレビ広告とオンライン広告を一緒に売るという動きは浸透してきていると感じています。ただ、データという点ではテレビとオンラインはまだ繋がりが弱い状態にあって、例えばテレビを観ていない視聴者にオンライン広告を見せたいといったニーズに対しては、まだ明確なロジックが生み出されているわけではありません。テレビ広告とオンライン広告の組み合わせで“リーチを拡げる”という効果を求めようとしても、まだその方法は確立していないのです。

ただ、例えば一部のスマートテレビ(ネット接続が可能なテレビ)で可能となってきた視聴ログの収集が拡大すれば、ネットの視聴ログと組み合わせて広告に活用できるのではないかと考えています。まだ研究段階の技術も多いですが、これまでありそうでなかったテレビ視聴データのデジタル化は技術的にかなり現実的になってきました。
これが実用化されれば、テレビとオンラインを連動させたターゲティングのロジックとそれによるリーチの拡大も現実味を帯びてくるのではないでしょうか。

○データの利活用とプライバシーの課題は“表裏一体”

――ネットに繋がるシーンが増え、ユーザーとの距離も近づくと、取得できるデータも豊富になる。そうなると、やはりデータとプライバシーの問題は避けて通れないと思います。「広告はユーザーデータをどこまで収集・活用するか」という論点はまだまだ議論の余地があるのではないでしょうか?

永松氏:そうですね。ユーザーにどのような配慮をしてデータを収集・活用するかという点は、改正個人情報保護法の動きなどを踏まえながら当社でも厳しくチェックをしているところです。データを取得するという場面においても、オプトアウトの選択権をユーザーに提供しています。また、当社がデータを取り扱う際も、いくら匿名データであっても細分化された様々なデータを積み上げていくと個人の特定性が高まってしまうので、常にユーザーがある複数のセグメントで固められた母集団で構成されるよう分析ロジックを工夫しているところです。

この問題は、ユーザーの近いところに迫れるようになったからこそ、真剣に考えなければなりません。
私たちにとって「データ」は大きな研究テーマですが、それと同じくらい「プライバシー」も重要なテーマだと位置づけており、社内では専門チームをつくり、社外では各業界団体と連携して考えているところです。

●実態を伴う効果指標によってメディアと広告の新たなエコシステムを
――広告手法の高度化、タッチポイントの多様化によって、広告の指標やビジネスモデルも大きく変化していくと思います。広告のビジネスモデルで今後どのような動きがあるでしょうか?

永松氏:パフォーマンスを目的とした広告については、最適化のロジックや運用方法の進化はあるものの、あまり大きな動きはないと思います。一方で、ブランディング広告については大きな変化があるのではないかと思います。

例えば、最近増えている動画広告については従来のような“1インプレッション”では効果を評価できない場合が出てくる。オンラインの動画広告はテレビのように15秒や30秒といった固定値とも限らない。そこで、視聴時間に応じた課金モデルである「CPH(Cost per Hour)」など新しい効果測定の手法について検討が進んでいくのではないでしょうか。

――確かに、ログデータとして記録されるインプレッション数や再生回数が実態(ネット視聴者の広告接触・視聴)を伴っているかどうかについては、疑問の声が挙がっていましたね。


永松氏:よりネット視聴者の利用実態に合わせた効果測定・課金のモデルの最適化が考えられていくのではないかと思います。例えば昨年は海外で、ブラウザ下部のユーザーが見えない場所に表示された広告を1インプレッションとカウントしていることへの課題意識から、バナーが視認できる場所に表示され、実際にネット視聴者がバナーを見た回数を1インプレッションとみなす「ビューアビリティ」という言葉が出てきていて、この考え方で課金する「vCPM(v=viewability)」というモデルも生まれています。これは日本でも現在検討が進んでいて、より現実に即した課金モデルが普及していくのではないでしょうか。

――vCPMはとても良い発想だと思いますが、広告収益に依存しているパブリッシャーにとっては少し辛いところですね。

永松氏:そこが大きな課題だと思います。アメリカではvCPMでなければ広告を買わないという広告主も多くなってきていて、GoogleやFacebookといった大手メディアも対応を始めています。他のメディアも追随せざるを得ない状況が生まれつつあります。日本ではまだそこまでではありませんが、もし同じような状況が生まれた際には、広告単価をしっかり向上させなければ広告メディアにとってのメリットがなくなってしまいます。
その点には十分に注意を払っていく必要があると思います。

――CPCにしても、CPMにしても、単価は右肩下がりの傾向が続いている。それはブランドの認知やトランザクションといった広告主のKGIに対して十分な費用対効果を提供できていなかったからだとも言える。それに対して、vCPMによって費用対効果を向上することができれば、広告単価は向上するのが自然だと言えますよね。

永松氏:そのようなスキームに落とし込んでインターネット広告のエコシステムを活性化していくことが広告会社に課せられた使命なのではないかと思います。

○新しい技術、アドテクノロジーにどう取り込むか

―― 昨年はウェアラブルデバイスに対する注目が高まった年でした。デジタルマーケティングはこの動きに追随していくのでしょうか。

永松氏:いくつかアドテクノロジーとして検討する方向性があるのではないかと思います。ひとつは、広告を表示するメディアとしての可能性。ただこれは、表示面の大きさが多種多様などの点から、ハードルはかなり高いのではないかと思います。一方で、広告配信のベースとなるユーザーの状態や興味関心といったデータを取得する手段として活用するという考えもあり、まずはここからウェアラブルデバイスやIoTの活用が進むのではないかと思います。

――また、テクノロジーの世界ではIoTやAI(人工知能)の動きが加速しています。デジタルマーケティングはこうした技術をどのように取り込んでいくのでしょうか?

永松氏:人工知能(特に機械学習やディープラーニング、認識技術等)をどうマーケティングのテクノロジーに取り込んでいくかという点は、既にターゲティングといった広告配信で活用しているものもありますが、さらに研究を進めていくところです。考えられる活動領域としては、レコメンドやターゲティング、予算配分、クリエイティブの最適化、効果検証といった分野ですが、それぞれでどのような活用が可能かを試行錯誤しています。

○ネット広告とユーザーが、良い関係を築くために

――AIなどは、収集したデータを基に広告をアウトプットする場面で活用できるのではないかとも思います。例えば、ユーザーはネット広告を“邪魔な存在”だと思っている場合が多い。こうした課題に対して、機械学習や人工知能の活用はネット広告とユーザーとの間に良い関係を築くためのヒントを生み出すのではないでしょうか?

永松氏:それは大いにあると思います。今までは、広告会社はあまりユーザー目線でネット広告を考える立場ではなかったとも言えます。しかし、データとプライバシーの問題を例にとっても、今後はそのような立場では難しい時代になってくるのではないかと思います。広告会社・広告主とユーザーの距離がどんどん近くなってきている中で、広告とユーザーが発展的に良い関係を築くことができるような方法論を考えていくことは、非常に重要だと思います。広告会社はユーザーに対してもオープンでいなければ、立場が難しくなっていく時代になるのではないでしょうか。

――ネット広告そのものに対してユーザーからの支持・信頼を得られなければ、業界全体が高まっていかないですよね。

永松氏:そうですね。スマートフォンが普及したことによって、ユーザーとネットの距離がさらに縮まり、その課題はより顕在化したのではないかと思います。これまでと違って、ネットでは本当に様々な広告手法が生み出されています。様々なネット上のサービスをみても、ユーザーの支持・信頼を得ているものが継続的な成長をしていき勝者となっています。ネット広告とユーザーの間に良い関係を築くためには、考えていかなければならない重要な課題です。

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