旅行先での法外な医療費対策「海外療養費制度」の仕組みと手続き
出張や旅行などで海外に行くという機会も珍しくなくなってきた昨今。いつもとは違う空間の中でのハプニングで一番困るのは、突然のけがや病気などの類い。日本の保険制度とは異なり、自己負担額が高くなりやすい海外。有事に備え、外国の医療費について知っておきましょう。
○海外では100万円単位の治療費がかかる場合も
十分に注意を払っているつもりでも、旅行中にケガや病気といったハプニングは起きるものです。海外の医療機関にかかってしまうと、日本の健康保険証は使えず全額自己負担になってしまいます。
おまけに国によっては1日の入院で100万円以上という、尋常ではない医療費を請求されることもあるのです。法外なお金を払わなければならなくなると、せっかくの楽しい旅行も台無しになりますね。
旅行中に病気やケガがないよう注意するに越したことはないですが、万が一のための"救済策"を紹介します。
○海外療養費制度とは
先述のように、日本の健康保険証は外国の医療機関では使えませんが、日本の健康保険は有効です。
正確には、いったん全額自己負担をしなければいけませんが、必要な手続きを取れば、後で日本の健康保険から払い戻しを受けられる制度があるのです。これを「海外療養費制度」といいます。海外で受けた医療行為でも、それが日本国内で保険診療として認められているものであれば、海外療養費の支給対象になるという仕組みです。
逆に、日本で保険診療と認められていない薬を使用した場合や、美容整形などは対象になりません。また、治療目的であえて海外に行った場合なども対象になりません。
●心強い「海外療養費制度」の手続き方法
○海外療養費制度の仕組みと申請方法
還付される金額は、日本国内の医療機関などで同じ傷病を治療した場合にかかる治療費を基準に計算した額(実際に海外で支払った額の方が低いときはその額)から、自己負担相当額を差し引いた額です。
外貨で支払った場合は、支給決定日の外国為替換算率(売レート)によって円に換算された金額になります。
例えば、「アキレスけん断裂」で現地の病院で入院、手術を受けたとしましょう。重いスーツケースを持って歩いたり走ったり、階段を上がったり……なんてことの多い海外旅行では、案外よくある症例です。日本の医療機関で治療したと仮定すると、アキレスけん断裂にかかる医療費は約42万円(健康保険組合連合会 大阪中央病院のホームページ参照。差額ベッド代などを考慮せずに計算)。この7割の29万4,000円が海外療養費として還付されるという訳です。
手続きには海外の医療機関の「診療内容明細書」と「領収明細書」が必要になりますので、忘れずにもらうようにしてください。帰国後、これらの書類の日本語訳および「療養費支給申請書」を添えて、健康保険組合や市区町村(国保の場合)などの自分が加入している保険者へ提出します。
○海外旅行保険への加入も視野に
30万円近いお金が戻ってくるのは、とてもありがたい話です。ですが、もしも治療したのがニューヨークの病院だったら、約230万円~約360万円の医療費を請求されてしまうため、最低でも約200万円の赤字です(東京海上日動「世界の医療事情」参照)。
そうなってしまっては、わざわざ"借金"をつくりに海外に行ったようなもの。万が一に備え、海外旅行保険に加入しておくことも賢明な選択でしょう。
※写真と本文は関係ありません
筆者プロフィール: 武田明日香(たけだ あすか)
エフピーウーマン所属、ファイナンシャルプランナー。日本テレビ「ZIP!」やTBSテレビ「あなたの損を取り戻せ 差がつく! トラベル! 」、「Saita」「andGIRL」等の雑誌、「web R25」「わたしのマネー術」等のウェブサイトなど幅広いメディアを通じ、お金とキャリアの両面から女性が豊かな人生を送るための知識を伝えている。お金の知識が身につく初心者向けマネーセミナー受付中(受講料無料)。