有望な先輩ほど辞めてしまう会社でどうやって生きる?
「働く人の幸せを考えない企業に、持続的な成長はあり得ない」。社員とお客様をともに幸せにする経営改革、ソーシャルシフトを提唱しているループス・コミュニケーションズの斉藤さんに、読者のお悩みにアドバイスしていただきました。あなたが前向きな明日を踏み出せる一助となりますように。
○寄せられたお悩み
新卒で今の会社に入り、まもなく3年目を迎える営業職男性です。営業の社員はたくさんいて、面白い先輩もいるのですが、「この人に教わりたい」という人ほど転職してしまいます。上の人が「有望な社員ほど辞めてしまう」と悩んでいるという噂も聞きました。組織改変も多く、現場から不満が出る人事も行われています。昇進するのは社歴が長い人ばかり。
自分もこのまま会社にいていいのか、悩んでいます。(25歳男性)
○出入りが激しいなら、出会いのチャンスも多い
営業は理性ではなく感情と向き合うことが多い仕事です。もっとも人間的な職業であり、型にはまったマニュアルでカバーしにくい職種のひとつと言えるでしょう。だからこそ先輩が学んできた暗黙の知恵を学びたいとお感じのはず。それなのに「この人に教わりたい」と慕っている先輩が辞めてしまうのは、すごくさびしいことですね。そもそも社員が頻繁に入れ替わると、ここで長く働いていいのか不安になってしまいがち。お気持ち、とてもよく分かります。
でも、入社して3年目のあなたが、人事や会社組織について意見を述べたり、何かを変えようとしたりするのは、残念ながら現実的ではないかもしれません。
厚い管理職の壁がそこに立ちふさがっているからです。
ここにはひとつの原則があります。自分自身ができることから変えていく「インサイドアウト」の発想です。自分以外の人を変えることはとても難しいこと。誰もが自分は正しいと思って行動しているからです。むしろ、良かれと思って人を変えようと思う気持ちが悩みの種になってしまうのです。そんな時には、あなたが幸せになるように、あなたの考え方、世界観を変えてみることです。あなたのケースでは、次のような3つの視点に立って、発想を逆転させてみてはいかがでしょう。
まず1つ目。社員の入れ替わりが激しいということは、それだけ出会いのチャンスも多いんだ、と考えてみること。僕の知る限り、有能な営業ほど、自らの強みや持ち味を最大限に活かして仕事をしています。営業のエキスパートはみんな個性的なのです。人の出入りが激しいということは、その分、多くのロールモデル(自分の模範となる人物)に出会える可能性に恵まれている、と考えてみましょう。そのチャンスを逃さずに学べば、あなたは必ず成長します。
2つ目は、先輩の転職によって、あなたの社外人脈が広がったと考えてみることです。FacebookやLINEなどのソーシャルメディアがこれだけ普及した今の時代、会社を辞めたからといって、生涯の別れとなるわけではありませんよね。
あなたにできることは、会社で接点がある間に、先輩と誠実な人間関係が築けるように努力すること。今や、信頼関係こそが一生の宝物なのです。そうすれば同じ会社にいなくても、ソーシャルメディアでつながり、いくらでも学んだり、相談したりできるのです。業界の最新事情を教えてもらったり、転職の相談にのってもらったり。きっとググっても得られない実践的な知見を、あなたは多様な人脈から得られるようになるでしょう。
3つ目は、あなた自身が昇進する可能性に目を向けること。会社は今のままでは立ち行きませんから、いずれは組織や人事制度を改善しようという機運が高まるでしょう。残念ながら優秀な先輩がやめてしまう、それはあなたに大いなるチャンスが訪れるということです。
その時のために、会社の改革案を自分なりに考えておきましょう。そして管理職になったら、自分ができる範囲で着実に実行していくことです。あなたはいつしか社長にも認められ、会社を変革できるポジションに抜擢されるかもしれません。
転職も有意義な着想ですが、その前に自分自身ができることにチャレンジしてみませんか。いま「ないもの」や「失われたもの」に目を向けて不満を感じても、自分が不幸になるばかりです。それよりいま「あるもの」に感謝し、それをいかに活かすかを考えてみるのはいかがでしょう。自然とまわりの人たちがあなたを見る目も変わってきます。なにより、今日の仕事がすこし楽しくなりますよね!
●経営者と管理部門への提言
○有望な社員ほど辞めてしまう会社の経営者と管理部門の方へ
有能な社員がやめてしまうことは、経営者にとって何よりつらいことのひとつです。
特に営業職は成果が数値化しやすいので、正当に評価されず、自らの成長にもつながらないと感じた社員は、これからも退社してしまうでしょう。社歴が短くとも優秀な人材を抜擢する。まわりの社員もそれを歓迎する。そんな場をつくるための評価制度の改革が現場から望まれていると推測します。
ただし短絡的に個人成果主義を導入するのは危険でしょう。個人主義が社風となり、チームで人脈やノウハウを共有しなくなるからです。相対評価の導入も慎重にすべきです。まわりを助けることが自分の評価を落とすことに直結するからです。
チーム力を高めるためには、次の3つがポイントとなります。
○「ソーシャルキャピタル」時代の評価体制へ
1つ目は、評価対象を個人ではなく、チームにすることです。これまで企業は「ヒューマンキャピタル(社員個人の能力)」を資本と考え、それを高める人事政策が主流でしたが、社会学や経営学の研究が進んだ結果、今ではむしろ「ソーシャルキャピタル(社員間のつながり)」が組織に価値をもたらすことがわかってきました。数字によって人間関係を分断するのではなく、人と人とが密接に結びつき、コラボレーションの力で勝負する時代です。いかに社内で善い信頼関係を育むか。そこに会社の成長がかかっているのです。
2つ目は、成果だけでなく、プロセスも評価に取り入れることです。特に業務を改善したり新しいアイディアを創造する「創意工夫行動」と、知見を共有したり仲間をフォローしてチームを支える「支援行動」を見逃してはいけません。これらはいずれも短期の営業成果には直結しないため、数値化しにくい部分です。縁の下の力持ちの行動をきちんと汲み取ることで、人のつながりが生まれ、有望な人材の流出も防げるのです。
3つ目は、チームの成果や評価をできるだけ全社オープンにすることです。上司が管理するためではなく、チームメンバーが新たな創意工夫をするためのツールと位置づけるのです。トップが賞罰を用いて社員をコントロールするのではなく、現場の内発的動機づけを刺激し、それを会社として徹底的に支援することです。ただし、個人の評価は安易にオープンにしないでください。社員のモラルが著しくダウンさせ、チームの助けあいを分断させてしまいます。オープンにするのはチーム単位とする点に注意してください。
ご参考まで、このようなケースでは、評価制度の改革以外にも、キャリアパスにそった人材育成、社内SNSによるコミュニケーション活性化、オープンリーダーの育成などを同時に行うと、より効果的なチーム運用が図れると思います。いずれにしても、現場社員の悩みは、結局、めぐり巡って業績に跳ね返り、長期的には経営者や本社部門のクビを締めることにつながります。現場社員の役目は顧客に奉仕すること。本社社員の役目は現場社員に奉仕すること。社員が幸せに働けるよう、ぜひいろいろ知恵を働かせてみてください。