「Xperia X」シリーズから始まる新チャプターとは? - ソニーモバイル・伊藤博史氏に聞く
ソニーモバイルコミニュケーションズが、Mobile World Congress 2016で発表したスマートフォンの新製品「Xperia X」シリーズ。これまでの「Xperia Z」シリーズから新シリーズとなったXperia Xについて、商品企画統括部長の伊藤博史氏に話を聞いた。
Xperiaのスマートフォンシリーズは、Androidを採用したXperia X10から始まる「第1章」、"ワンソニー"を掲げてソニーのあらゆる技術を詰め込んだというXperia Z1からZ5まで続いた「第2章」、そして今回のXperia Xで「新しいチャプター、第3章が始まった」と伊藤氏。
開発においては、「ユーザーのニーズを徹底的に調べることから始めた」という。それによって、「コミニュケーション、エンターテインメントというスマートフォンの本質をしっかりとやっていく」という答えにいたったという。スマートフォンの機能をシンプルにするのではなく、「インテリジェンスを入れ込むことでスマートフォンの新展開を目指したい」とのことだ。
ニーズの多いカメラについては、「性能のいいものが欲しいという声も聞いている」ということで、カメラにインテリジェンスを入れ、「予測ハイブリッドAF」を搭載した。動体撮影において、カメラが被写体の動きを予測してAFを合わせ続ける、一眼カメラの「α」に搭載されている技術で、「決定的瞬間を逃さない」という。
さらに、決定的瞬間を逃さないために、カメラの起動時間を高速化し、「過去機種と比べると2倍のスピードで圧倒的に速くした」としている。
Xperia Xシリーズは、3モデルを用意しているが、すべて5インチサイズ。伊藤氏は、「スマートフォンとしてのサイズを本質的にこだわった」としており、持ちやすいサイズを徹底的に調査したと語気を強めた。
Zシリーズの「オムニバランスデザイン」はXシリーズでも継続。伊藤氏は「基本として忠実に守る」とデザインの継続性を重視。それに加えて今回は、前面のディスプレイ周囲も背面カラーと同色にするなど「ユニファイドデザイン」を投入し、「溶け込むようなデザイン」を目指したという。
背面は従来のガラスからメタル素材に変更され、Zシリーズとは異なる印象を与えるデザインで、ディスプレイと背面のエッジにアールを持たせることで持ちやすさを向上させることを目指したそうだ。背面全体をメタル素材に変更するにあたって、アンテナ性能に影響がないような革新的な技術を投入したとのことで、こうした新技術の導入によって最適なデザインをさらに追及していきたいとしている。
●軸足をインテリジェンスに置いた新しい提案
Xシリーズについては、「軸足をインテリジェンスに置いて、新しい提案をしていく」と伊藤氏。その新しい提案の1つが、Xperiaシリーズの拡大だ。今までスマートフォンのブランドだったXperiaを、その他のスマートデバイスにも拡大。イヤーピースの「Xperia Ear」、プロジェクターの「Xperia Projector」、ライフカメラの「Xperia Eye」、音声エージェントの「Xperia Agent」の4製品が発表された。現時点ではEarのみ夏以降の発売が予定されており、それ以外はコンセプトモデルという扱いだ。
これらの製品に共通しているのは、「コミニュケーションにフォーカスし、インテリジェンスでユーザーの日々の生活をサポートすること」だという。「Xperiaはスマートフォンの枠を超えて、広いコミニュケーションツールに発展させていきたい」と伊藤氏は語る。
Xperia Earは、日々の生活で最も密接になったスマートフォンの画面を見ている時間を解放することを目指して開発されたとのこと。
そのため、スマートフォンの画面を見ずに、スマートフォンの機能が利用できるように音声認識機能を搭載している。また、近接センサー、加速度センサー、ジャイロセンサーを備えており、耳に入れたことを認識して自動でスマートフォンから情報を取得できる。これらの機能は、その日の予定、天気予報、不在着信といった通知を声で教えてくれたり、音声だけでGoogleナビを起動して道案内をしたり、電話をかけたりといった操作を、スマートフォンの画面を見ずに行えるようにするのが目的で採用されており、「スマートフォンの画面を見ていて、友人やきれいな景色との遭遇という偶然を逃さずにコミニュケーションできる」というのが狙いだという。
それでも、Xperiaブランドにおいてはスマートフォンが中心であることは変わらない。Xperia Zからのブランド変更について伊藤氏は、「どれが前モデル、後継モデルとは考えていない」という。つまり、ソニーモバイルとしては「Xperia Zの後継がX」とは位置づけていないようだ。伊藤氏は「新しいストーリーにインテリジェンスを埋め込んだ」と話し、あくまで別ラインというポジションのようだ。
●Xperia Z6は出ない
伊藤氏は昨年のインタビューで、「Xperia Z5には次期モデルの予兆がある」といった話をしていたが、カメラではZ5で最速0.03秒のAF速度を達成し、「絶対撮り逃がさないカメラに近づきたい一歩」だった。
このように"ワンソニー"によってソニーの技術を入れ込んでいくのが「Zシリーズの進化だった」という。
それに対して、インテリジェンスを入れ込むのがXシリーズの進化であり、それが予測ハイブリッドAFの搭載だった。「ワンソニーの集大成としてのZ5があり、これからさらにインテリジェントに進化していくストーリーがここから始まる」と伊藤氏は言う。
ワンソニーではソニーの技術の搭載にこだわったが、インテリジェンスでは「全くソニーにない技術も色んなチャレンジをしたい」と伊藤氏の発言からの印象では、他社との連携も視野に入れているようだ。
「ハイレゾオーディオ、CMOSセンサーといったソニーの技術の上に我々オリジナルなストーリーを展開していきたい、というのが第3章の思い」と伊藤氏は続ける。
このXシリーズに、さらにインテリジェントを追加して成長させていきたいというのが今後の方針で、そのため「Xperia Z6は出ない」と明言する。
伊藤氏は「インテリジェンスをキーワードにすると、一足飛びに人工知能に行くわけではなく、地道な積み重ねが重要な領域」として、「Xperia Xいくつで完成形、といったところまで議論はまだいたっていないので、第一歩を大切にして、これからインテリジェンスを積み上げていきたい」と心情を吐露。
このインテリジェンスにはスマートフォンだけでなくXperia Earのようなスマートデバイスも含まれ、「全体のコミニュケーションの世界を作っていきたい」と意気込む。
Xperia Xシリーズは、まずは幅広いユーザーのニーズから最初に5インチサイズを決定し、設計を進めていったようだ。ZシリーズではCompactやPremiereのようなサイズバリエーションがあったが、「これはあくまで第一歩で、ここから色んな展開をしていきたい」ということらしく、サイズの異なる製品の登場も示唆した。
Xperia Xシリーズの製品ライフサイクルは1年を想定しているとのことで、次の新製品は来年になるはずだが、例えば9月に「Xperia X Compact」が出る可能性もないわけではない。この9月の発表で、ソニーモバイルがどういった戦略を考えているのか、その一端が垣間見えるかもしれない。
伊藤氏は「スマートフォンでできることが限界値に達したかは分からないが、スマートフォンを最大限に生かせる提案ができないか探っていて、それで見つけたのがインテリジェンスというキーワード」であり、それを投入したXperiaシリーズによって「第3章の幕が開けた」とアピールしている。