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人事異動でモチベーションダウン、どうしたら?

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人事異動でモチベーションダウン、どうしたら?
●頭の中に大きな消しゴムを想像してみましょう
「働く人の幸せを考えない企業に、持続的な成長はあり得ない」。社員とお客様をともに幸せにする経営改革、ソーシャルシフトを提唱しているループス・コミュニケーションズの斉藤さんに、読者のお悩みにアドバイスしていただきました。あなたが前向きな明日を踏み出せる一助となりますように。

○寄せられたお悩み

突然、新設の部署に人事異動されました。自分では特に何かを期待されて配属されたとは思えず、ここにいるメンバーも事務的に振り分けられたように思われます。同期の社員たちが各自の持ち場で充実して仕事をしているのを見ると、なぜ自分だけこのような部署に配属されたのだろうか?人事部門は何を考えて配置しているのか?そう考えると空しい気持ちになり、モチベーションが上がりません。

○今の部署で楽しむ工夫を

会社に勤める人にとって、配属先はじつに重要な問題ですよね。「なぜこんな部署に配属されたのだろう」と悩みながら働いていても空しいだけし、仕事にも力が入らないでしょう。
働き手からすると人生における大切な転機なのですが、経営視点から見ると配属先を振り分ける合理的な業務プロセスにすぎません。しかも「各部門の人材ニーズにいかに応えるか」を主眼としており、配属される本人にとっては寝耳に水のケースも少なくありません。

私も会社員時代、異動には何度も悩まされました。私の時代は大量採用の真っ盛り、同期入社が1,000人以上もいたので、配属は機械的にならざるを得ません。最初の配属は米国人が半分ぐらいの部署でした。英会話のできない私にとって会議など心細くて針のむしろです。その後、他部門に移って心機一転がんばろうと思った矢先に、今度は畑違いの新設部署へ……。活躍している同期を横目で見ながら焦りを感じたものでした。
ですので、相談者の方の気持ちも痛いほどわかります。

気分が滅入ってやる気にならず、頭の中で嫌な思いが何度も繰り返されてしまう。そんな時には、私はいちど冷静になって「いったい自分は何に苦しんでいるんだろう」と自分の心のなかを観察してみるようにしています。例えばこのケースでは、こんな思いがうずまくのではないでしょうか

・なんで私がこの部署に配属されるんだろう
・がんばっていたのに私は評価されていなかったのか
・同期の充実した仕事ぶりがうらやましい
・未来に対する漠然とした不安もよぎる

このように、本来の意図と葛藤しあう雑念が頭の中を渦巻いてしまうことを「心理的エントロピー」と呼びます。心理的エントロピーが増大すると、心の中はどんどん無秩序になり、不安・嫉妬・怒り・恐れなどが増してゆきます。そして、これらの雑念こそ人間を不幸にする最大の元凶なのです。あなたの心を苦しめて生活のパフォーマンスを落とす、悪意に満ちた落書きのようなものです。

私は自分の心を観察した後には、大きな消しゴムを想像し、頭のなかからその落書きをゴシゴシと消してしまうことにしています。
そうすると気持ちがすっきりしてきて、だんだんシンプルな現実が見えてくるでしょう。あなたは「新しい部門に配属された」だけなのです。

例えば、もしあなたが新入社員でれば、その配属先を違和感なく受け止めていたでしょう。むしろ、イチからスタートできる新設部門での仕事に、やる気を持って取り組んでいたのではないでしょうか。あなたを悩ませていたものは「配属そのもの」ではなく「配属に対するあなたの反応」にあったことがわかります。そしてあなたの反応は、あなただけが自由に決めることができます。あなたは、自分自身の幸せのために反応を選択できる権利を持っているのです。

そのことに気がつくと、気持ちが少し前向きになってきますね。
では続いて、今の現実に対して「自分で変えられること」に集中してみましょう。会社の人事は自分では変えられないけれども、自分自身が幸せに仕事をするために、今の部署でどう楽しく過ごすかを考えてみるのもいいですね。

・イチから人間関係を築くチャンスなのだから、積極的に声をかけてみる
・配属になった人たちに興味とリスペクトを持って接してみる
・新しい仕事に興味を持ち、自分の新たな専門性をどう築くかを考えてみる
・前の部門の人たちとも交流を深め、両部門の橋渡しの役目を担う

人間の持つ心理に「返報性の原理」というものがあります。他人から何か施しを受けるとお返しをしなくちゃと思う心理のこと。あなたの好意がヒトに伝わると、そのヒトはあなたに好意を返すのです。あなたも、あなたに好意を持った人には好感を持ちますよね。新しい職場で好感をもたれたかったら、先手をとって相手に興味や好意を持って接してみたらいかがでしょう。それが新しい職場での人間関係の明るい第一歩となるといいですね。
明日があなたに優しい一日になりますように!

●社員配置を担当する人事部門、新しく社員を迎える部門長の方へ
○社員の立場になった人事の仕組みを考える時代です

社員数の多寡にかかわらず、社員一人ひとりのキャリアや適性を考えて、人材を最適に配置するのが人事の役割ですね。ひと昔前には、結婚したら退社しにくくなるから転職させるなんてことが大企業でもありました。しかし時代は明確に変わっています。そのような乱暴な人事をすると「ブラック企業」のレッテルを貼られ、大きなブランド毀損となるようになったのです。

会社の都合で機械的に配属を決めるのではなく、社員の立場になってキャリアアップを支援する人事の仕組みを創りましょう。厄介なことだと考えずに、その仕組みこそがコアコンピタンスになるのだという意識で取り組んでいただきたいと思います。なぜならカネもモノも情報も価値が低下した現在のビジネス環境において、人材こそが圧倒的に重要な経営資源になったからです。

また、生活者のライフスタイルは年々多様化しています。
かつては出世を望む社員が多数派でしたが、今は一人ひとり自己実現の方向が異なりますね。仕事よりも家族を大切にしたい、働きながら社会貢献をしたい、将来は地方に住みたいなど、社員によってさまざまな人生設計をもっています。社員と話し合い、彼らのキャリアパスを真剣にサポートしてください。そうすれば彼らは、就業中はもちろんのこと、退社した後も会社を積極的に支持し、ブランドへの共感度を高めてくれるでしょう。

最後に、特に新しく社員を迎える部門長の方へのメッセージとして、著名な心理学者であるチクセントミハイ氏の「フロー理論」をご紹介します。彼は、人間の心理的エネルギーが今取り組んでいる対象に100%注がれている状態を「フロー体験」と呼び、次のような条件を満たすことが重要であることを導き出しました。

1.活動の目標が明確であること
2.成果に対する迅速なフィードバックがあること
3.十分に集中できる環境にあること。今の問題に集中できること
4.対象への自己統制感があること。
自分がコントロールできている感覚があること
5.機会と能力のバランスが良いこと。適切な難易度であること

逆に、仕事を通じて喜びを感じにくい要因として
1.今日一日の活動目標が明確ではないこと
2.成果に対するフィードバックがないこと
3.業務に集中できる環境がないこと
4.外部の指示が多く自分が仕事をコントロールできている感覚がないこと
5.業務とスキルのバランスが悪いこと

を挙げ、これらがストレスの原因になると分析しています。

特に「機会と能力のバランス」は重要です。チクセントミハイ氏はそれを「フローチャンネル」という図を使って表現しました。

この図は、行動が時間経過とともにどう複雑さを増していくかをあらわしたもので、センターにあるのが、フロー体験をできるゾーン「フローチャンネル」です。A地点からスタートした社員は、それが続くとスキルが向上して飽きていきます。この時点でフローに戻るにはチャレンジを高めてCにする必要があるのです。しかし、現時点の自らのスキルレベルを遥かに超えると不安になり、やはりフロー体験を得られなくなることがわかっています。この図を見ると、適切な仕事のアサインが非常に重要なことがわかります。

チクセントミハイ氏は、人は家庭よりも職場において多くのフロー体験を味わうことが多い、つまり、現代の仕事は辛いことではなく楽しさを感じるものであるとしています。職場とはフロー体験を経験するために最適な場であり、社員の幸せと生産性向上という両輪を得ることは十分に可能であることを示唆しているのです。ぜひ、全員ハッピーな職場を目指して、優しいリーダーシップを発揮してくださることを祈念しています。

参考図書
M.チクセントミハイ『フロー体験 喜びの現象学』(世界思想社)
M.チクセントミハイ『フロー体験とグッドビジネス―仕事と生きがい』(世界思想社)

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