大学デビューの落とし穴 (23) 3月:失敗上等、何度でも仕切り直そう!
大学1年生のみなさん! 「大学デビューのホントのところ」、知りたくないですか? 本連載は、かつて大学デビューに半分成功・半分失敗したトミヤマユキコ(ライター・大学講師)と清田隆之(恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表)が、過去の失敗を踏まえ、時に己の黒歴史を披露しながら、辛く苦しい学生生活を送らないためのちょっとした知恵をお授けする。そんな連載です。
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○大学教員にとっていま一番大事な仕事とは
4月から桃山商事・清田くんと続けてきたこの連載も、あっという間に1年が経とうとしています。時の流れ、早すぎやしないか……。
「もうすぐ2年生になる君たち! 1年間ついてきてくれてありがとう! 大学デビューもそろそろ卒業だね!」と明るく送り出したいところなのですが、今回は、ちょっと重い話をしようと思います。
「大学教員にとっていま一番大事な仕事は、研究でも教育でもなくて、学生を死なせないことだ」という話を聞いたことがあります。大学は研究機関であり、大学教員は研究者ですから、一番大事なのは研究です。そして、研究を教育という形で学生に還元することも大事。
しかし、いまは学生の心のケアも大事な仕事になりつつあります。大学に馴染めないことで、引きこもり状態になり、そのまま退学したり、ひどい場合は自分を殺す方向に行ってしまう学生がいるからです。
こういう学生は、たいてい真面目ですし、つねに正しさを求めています。「適当にやり過ごす」ということができません。平均的な学生像をはみ出してしまった自分を許せないのです。
○何度でも仕切り直していい
大学が就職予備校化していることもあって、レールを外れることなく真面目に学ぶ&正しく生きることばかりが重要視されている現状を、わたしは不安に思っています。真面目に正しくやった奴だけが報われるべきである、という考えもあるでしょう。でも、不真面目でも、正しくなくても、報われることはあります。
欠席しまくりなのに学生コンパの仕切りだけはやるとか、論文を酷評されてもヘラヘラしているとか(わたしです)、そういう人間でも、ちゃんと社会人になれるし楽しく生きられるのに、そういう「ダメなりの報われ方」がまるっと「無いこと」にされるのは、ちょっと違うような気がするのです。大学というのは、人生の中で「人と同じじゃなくてもなんとかなる」ことを知るための場所だと、わたしは考えています。何かを学ぼうという気持ちがほんの少しでもあれば、ぼっちだろうと、留年しまくろうと、構わないのです。どんな奴がどんな風に学ぼうと自由。それが大学のあるべき姿です。
本連載は「なんでも要領よくこなせるキラキラ系学生は相手にしない」と決めてスタートしました。それよりも「ちょっとしたことで躓いてしまう学生にそっと手を差し伸べたい」と思っていました。ですから、1年生の終わりに「まだ大学に馴染めないな」とか「大学デビュー失敗したわ」と思っているひとには、「何度でも仕切り直していいんだよ!」と言いたい。
キャラ変してもいいし、転部を考えてもいいし、大学では適当に過ごして外での活動を頑張ってもいいし。べつに最初の1年間で作った自分に縛られる必要はありません。むしろ、変わっていいのです。自分に一貫性がないことを、あまり恥じないでください。
○真面目さと正しさを求めすぎない
わたしには苦い思い出があります。学生時代のことなのですが、すごく仲の良かった友だちが、みんなの前から姿を消してしまったのです。勉強がうまくいかなかったのかも知れないし、恋愛がうまくいかなかったのかも知れない。家庭になにか問題があったのかも知れない。
でもその友だちは、誰にもなんにも相談しないで、いきなり音信不通になってしまいました。「うまくいかない原因」を知られて、これまで築き上げてきた「優秀だしモテる」というリア充キャラが崩壊することを恐れているように見えました。
それは若さゆえの恐れであって、30歳を過ぎれば、笑って再会できるだろう。そんな風に思っていました。でも、いまだに音信不通のままなのです。あのとき、どんな言葉をかければよかったのだろうと、切ない気持ちになることがいまだにあります。
教員になってからも、同じようなことがありました。優秀な学生の中に、最後の課題が出せないひとがいます。
授業中の発言などで「あいつできるぞ!」というイメージがつくと、それを守ることに必死になってしまって、身動きがとれなくなってしまう。教員からすれば、できる奴でもC評価食らうことはあるよ、ぐらいの気持ちなのですが、本人は絶対A評価を貰わないといけないと思い込んでいる。でも、必ずA評価を貰えるかどうかは、フタをあけてみるまでわからないわけです。そうなると、欠席を繰り返し、課題の提出をせず、敢えて「不可」を食らう作戦に出る。BよりCより、いっそ不可の方がマシだと思うのでしょう。この手の学生を救うのは、なかなか難しいというのが、正直なところです。
失敗することや、挫折すること。これを学生時代に受け入れることができれば、後の人生でかなり強みになります。
積極的に失敗しろ! とはいいませんが、用心してたって失敗するのが人生だということを、分かっておいて損はありません。失敗しない方法を考えているヒマがあったら、失敗をリカバーする技術を磨いた方がよっぽどいいのです(そのためのちょっとしたヒントを1年かけて伝えてきたつもりです)。
いつまでも新品同様みたいな人生はない。傷つき、汚れ、使い込むほどに味が出る人生を目指すべきです。ピカピカの大学1年生にはちょっと想像がつかないかも知れないけれど、10年もすれば、きっとこの言葉の意味がわかりますから、とりあえず、真面目さと正しさを求めるあまり自分を責めたり殺したりする方向はナシでいきましょう!
トミヤマユキコ
ライター・大学講師。「週刊朝日」「文學界」でブックレビュー、「ESSE」「タバブックス」でコミックレビューの連載を持つライター。早稲田大学などでサブカルチャー関連講義を担当する研究者としての顔も持っている。「パンケーキは肉だ」を合い言葉に、年間200食を食べ歩き『パンケーキ・ノート』(リトルモア)にまとめた。
Twitter @tomicatomica
清田隆之/桃山商事
1980年、東京生まれ。失恋ホスト、恋のお悩み相談、恋愛コラムの執筆など、何でも手がける"恋バナ収集ユニット"「桃山商事」代表。男女のすれ違いを考えるPodcast番
組『二軍ラジオ』を更新中。雑誌『精神看護』やウェブメディア「日経ウーマンオンライン」「messy」などでコラムを連載。著書に『二軍男子が恋バナはじめました。』
(原書房)がある。
Twitter @momoyama_radio