北海道新幹線、北の玄関口"木古内駅"で下車! そこは伝統とグルメの街だった
北海道に到達した新幹線が最初に停車するのが、北海道木古内(きこない)町だ。人口4,500人あまり(2016年2月末現在)の小さな町だが、3月26日の新幹線開業にともなって「あの町はおもしろい」とにわかに注目を集めている。その評判の一端にふれてみよう。
○歴史と伝統に彩られた木古内町
木古内町には室町時代から和人が定住していた記録があるなど、北海道の中でも古い歴史を持つ町として知られている。毎年1月には、4人の若者が厳寒の海に飛び込んで御神体を清める、江戸時代から続く伝統神事「寒中みそぎ祭り」が行われている。
また、同町は幕末期に太平洋横断往復した船として有名な咸臨丸の終焉の地でもある。明治4年(1871)、輸送船として任務に就いていた咸臨丸は木古内町のサラキ岬沖で座礁し、沈没。木古内町郷土資料館「いかりん館」には、海底から引き揚げられた「咸臨丸のものと推定されるいかり」が展示されている。
さて、そんな木古内町にある「木古内駅」に停車する新幹線は、1日8往復16本。3月26日開業時点の終点「新函館北斗駅」まで乗らずにあえて木古内駅で降りると、どんな体験が待ち受けているのだろうか。
○新幹線駅の目の前に道の駅
青函トンネルを抜けて北海道に出たら、間もなく木古内駅。新幹線を降りたら自由通路を通って南口に出よう。するとすぐ目と鼻の先に「道の駅 みそぎの郷きこない」と書かれた建物があるではないか。新幹線駅の真向かいに道の駅とは、なかなか挑戦的である。
新幹線開業に先駆けて1月にオープンした同館に一歩足を踏み入れると、この地域で産出される木材「道南杉」をふんだんに用いた温かみのある空間に心が安らぐ。木古内町と周辺自治体の特色ある食産品を集めた物販コーナーも、地域の食文化が伝わってくるようで楽しい。
寒中みそぎ祭りが行われる津軽海峡の海水から作った「みそぎの塩」や、その塩を使った「みそぎの塩サイダー」など、話の種になりそうな土産品も豊富だ。館内には観光コンシェルジュが常駐し、木古内町を含む9つの町について観光情報を教えてくれる。「この魅力的な地域に来ていただければ、しつこいくらいにおもてなしさせていただきます! 私だけじゃなくて、そんな人が多い地域なので、ぜひ旅を楽しんでください」と観光コンシェルジュの津山睦さんは語る。そんな道の駅には、つい「なぜ北海道に!? 」と思ってしまう、あのイタリアンの巨匠が監修したレストランもあり、連日大盛況している。続いてはそんなレストランを紹介しよう。
●木古内で話題のイタリアンで舌鼓! 「町外不出」の日本酒も外せない
○奥田政行シェフが魅せる北のグルメ
道の駅 みそぎの郷きこないには、連日地元客が押し寄せる大人気レストランが併設されている。山形県鶴岡市のレストラン「アル・ケッチァーノ」のオーナーシェフ、奥田政行氏が監修する「どうなんde’s(どうなんデス)」だ。
同店は、「地域の食材を自分で焼いて皿に乗せて完成させる、日本初のイタリアンレストラン」(料理長の飯田晃久さん談)。
あか毛和牛の品評会で日本一に輝いた木古内産「はこだて和牛」を筆頭に、北海道産の豚肉・羊肉、天然のエゾ鹿肉、さらには近海産の新鮮な魚介類が提供され、客はそれらをロースターで焼き、ソースにからめて野菜と一緒にいただく。
シェフが全てを作るのでなく、シェフと客の共同作業で料理を作り上げ、口の中で調理される。そんな奥田シェフの考え方が反映されたスタイルなのだという。「北海道でなぜ奥田シェフ? 」と疑問が湧くかもしれないが、実は木古内町と鶴岡市にはつながりがある。
木古内町には、明治時代に鶴岡市から旧庄内藩の士族たちが移住して開拓した鶴岡という地区があり、現在両自治体は姉妹都市の提携を結んでいる。その縁もあり、町から打診を受けた奥田シェフはレストランの監修を快諾。自ら各地の生産者をめぐって食材を探し、一つひとつの食材が持つ味を最も引き出す形で提供するメニュー作りを行ったという。焼くスタイルの料理のほか、パスタ各種やサラダ、スープなどが豊富にそろう。
○超レアな酒の試飲も!まちあるき体験
駅前の酒屋さんや菓子店に寄り道しながら寒中みそぎ祭りが行われる浜辺まで歩く、約1時間の「まちあるき」もぜひ体験したいコンテンツ。酒屋さんでは、「町外不出」の酒として愛される日本酒「みそぎの舞」の試飲ができる。これは、木古内町でわずか1軒の農家だけで栽培している米「ほのか224」を使い、姉妹都市である鶴岡市の冨士酒造が醸した酒。香り高く、やや辛口でスッと飲める。生産本数が少なく、木古内町以外では買えないのでお土産にも最適だ。
まちあるきは事前予約制で、参加費はひとり1,000円(ひとりから催行)。通年開催(日曜・年末年始は休み)で、新幹線開業直後は混雑を避けるためいったん休むが、4月から再開する。
○木古内駅から「道南いさりび鉄道」という手も
木古内町にはこのほか、山本寛斎氏が代表を務める寛斎スーパースタジオがガチに作りこんだご当地キャラクター「キーコ」がいたり、新幹線の線路をほぼ真上から見下ろすように作られた展望台があったりとネタがいろいろ。
ちなみに、北海道新幹線を新函館北斗まで乗車すると、JR北海道の「はこだてライナー」に乗り換えて函館駅まで行くことになるが、木古内駅で下車した場合は第3セクター鉄道「道南いさりび鉄道」に乗り換えると函館駅まで直行できる。
トンネルや防音壁のせいで車窓の景色をあまり楽しめない新幹線の代わりに、四季折々の津軽海峡の眺めを楽しみながらのんびりと旅情が楽しめる道南いさりび鉄道に乗り換えて函館入りするのもいいだろう。断言しよう。旅のツウは「北海道新幹線を木古内駅で下車する」である。
※記事中の情報・価格は2016年3月取材時のもの