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LINE MOBILEが突きつけた可能性と課題、「使い放題」はどこまで許される? - 西田宗千佳の家電ニュース「四景八景」

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LINE MOBILEが突きつけた可能性と課題、「使い放題」はどこまで許される? - 西田宗千佳の家電ニュース「四景八景」
●世界中で広がる特定サービス定額化
筆者は海外出張からの移動中で、3月24日に行われた「LINE MOBILE」の発表会には参加できなかった。しかし、成田から都内に向かう車内で動画サービス「LINE LIVE」で視聴し、度肝を抜かれた。今回話題にしたいのは以下の記事だ。

LINE、MVNO事業に参入 - SNSが使い放題で月額500円からの「LINE MOBILE」(3月24日掲載)

LINE MOBILE、これはなかなかに大胆な施策であり、多くの人が喜ぶはずだ。LINEのメッセージングと通話で消費したパケットが料金に加算されなくなるのだから、通信料はかなりお得になる可能性が高い。なにより、「どれだけ使っても無料」というのはわかりやすい。

同時に、FacebookやTwitterでのパケット通信料が加算されなくなるプランや、LINEの音楽ストリーミングサービス「LINE MUSIC」の通信料が加算されなくなるプランの存在も発表された。現状発表されているのは「最低金額が月額500円で、ここにはLINE使い放題が含まれる」ということだけ。
スタートは夏以降だが、注目すべきサービスであることに違いはない。

○YouTube見放題も! 世界中で広がる特定サービス定額化

こうしたやり方は、なにもLINEが最初ではない。3月9日から、FREETELがLINEトークやWhatsApp、WeChatといったメッセージングアプリの通信料金をゼロ円にするサービスをスタートし、割安感を打ち出そうとしている。

海外では、イタリアのZeromobileが「ChatSim」というサービスを展開している。ChatSimは、LINE、Facebook、SkypeにiMessageと、世界中の主要メッセージングサービスに対応していて、しかも、年額10ユーロで使い放題になる。国をまたいでも、SIMを差し替える必要はない。といっても、写真や音声の配信には別途追加料金が必要。ちょっと制限のあるサービスである。


もっと大胆な策に出ているのがアメリカのT-Mobileだ。昨年11月から「Binge On」というサービスを開始。NetflixやHuluといった映像ストリーミングサービスに使うパケット通信料をカウントしない、というものだ。つい先日、YouTubeも含むことを発表するなど、とにかく破壊力がある。

ちなみに「Binge」とは「一気見」のこと。Netflixなどでは、ドラマをどんどん続けて見てしまうことを「Binge Watch」と呼び、サービスが伸びた理由の一つとなっている。スマホの上で好きなだけBinge Watchをしてほしい、そしてそれを他社回線との差別化につなげたい、というのがT-Mobileの狙いである。

●課題は回線負荷、画質の最適化は避けたい
○課題は回線負荷、画質の最適化は避けたい

LINE MUSICのようなストリーミング音楽も、スマホで使える気軽さが評価されている。
その一方で、若い世代の有料契約には結びついていない、と言われている。ならば、こうした「使い放題」ビジネスは今後増えていくだろう。消費者をつなぎとめ、長期的に固定費を支払ってくれる状況にすることが、ビジネスにとっては重要だからだ。音楽はもちろん、Binge Onのように映像も見放題になれば、喜ぶユーザーはもっと多くなる。夢のような話だ。

もちろん、夢の裏には現実がある。Binge Onでは、ストリーミング映像が回線に合わせて「最適化」される。ようは画質が落ちるのだ。
YouTubeなどではHD映像を視聴できるが、Binge Onでは480pに下がる。高画質で見たい人は、Binge Onをオフに設定する必要がある。

LINEなどのメッセージングは、さほどデータ量を食わないため、使い放題になってもネットワークにかける負担はたかが知れている。だが、音楽や映像はどうだろう? Binge Onがそうであるように、最適化を行わないと厳しい。あまり意識されなくなっているが、現在の携帯電話ネットワークでも、画像系は網内で圧縮をかけ、全体での負荷を減らす試みがなされている。せっかくの高画質写真も、いつのまにか圧縮されてディテールが落ちている可能性がある。

ネットワークの帯域はユーザー同士で共有しているものであり、無線通信を使う携帯電話では、その影響はさらに大きなものになる。LTEの技術進歩により、同じ電波帯での収容人数は増えたし、実効通信速度も上がった。
だが、負荷も高まっており、混み合っていることには変わりない。若い世代では、家庭にそもそも固定回線がなかったり、あってもWi-Fiでのオフロードを行っていないところが少なくない。その一方で、テレビなどの放送ではなく、YouTubeなどのネット系エンターテインメントを好むようにもなっているので、回線負荷はどんどん高まっている。テレビ局などでは、見逃し配信サービスを企画する際、「今よりももっと画質を下げられないか」との話が出たという。携帯電話網だけに依存するユーザーの加入ハードルを下げるためだ。

使い放題の一方で、それに応えるための回線拡充と「最適化」は必須だ。しかし、それがどのレベルまで行われるべきは、よく考える必要がある。

●「通信の中立性」に関するルール策定を
○「通信の中立性」に関するルール策定を

「流れるデータに最適化を加える」「流れるデータの種類によって課金するか否かを変える」ということは、2つの意味で危険性をはらんでいる。


一つ目は「通信の秘密」の面。ネットワークは郵便網と同じだ。どこへ向けたものかはわかっても、その中身を見てはいけない。法律がそう定めている。だが、「流れるデータに最適化を加える」「流れるデータの種類によって課金するか否かを変える」には、流れているデータがどういう種類のものかを判別する必要がある。

こうした時に使われるのが「Deep Packet Inspection (DPI)」と呼ばれる手法だ。DPIそのものは、セキュリティ対策や帯域のコントロールなど、すでに広く使われているものではある。しかし、サービスを高度化するためにDPIを活用することが常態化すると、通信の中身を一部傍受されることにもつながる。
例えば、それを広告に活用したらどうなるだろう? 基本的には、利用者から許諾を得た上で利用する形でカバーしうるものとは思うが、暴走は戒めなければならない。

二つ目は「公正競争の維持」だ。例えば、携帯電話事業者が自社でのメッセージングサービスや動画配信で、パケット通信料をとらない、と決めたらどうなるだろう? そして、その事業者がすでにその分野で大きなシェアを持っているとしたら? 今から出てくる新しいサービスは、回線と通信サービスの両方で戦う必要が出てくる。すでに強い事業者はどんどん強くなる。

LINE MOBILEにも、公正競争維持の面では、少々微妙と思える部分がある。もやは日本において、LINEは最大のメッセージング・プラットフォームである。その影響力を使うと、通信回線事業者としてもかなり優位に立てる。今回、LINEはFacebookやTwitterの使い放題も打ち出したが、うがった見方をすれば、そうしないと公正競争上で問題が出そうだから、ともいえる。

単に使う側に立てば、LINE MOBILEの試みは歓迎すべきものだ。少なくとも、実効通信速度が明確でない状態で月額数百円の通信料金だけを競い合ったり、携帯電話購入時の不透明なキャッシュバックで戦ったりするより、よほど本質的だし、消費者のためになる。だが、上記のような課題もあり、そこで「どうするべきか」のルールを決める必要ある。

こうした問題を「通信の中立性」という。海外では議論が続けられてきたが、日本ではあまり盛り上がってこなかった。これを機会に、通信の中立性に関する明確なルールを定めて、各社が競争できる状況になることを望みたい。

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