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地方を救う? "リアル人生ゲーム"が生み出す効果とは

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地方を救う? "リアル人生ゲーム"が生み出す効果とは
●イベント6回で12000人の集客
大型小売店の進出をきっかけに、活力が失われてた地方の商店街。衰退した商店街の姿から生まれたのは"シャッター通り"という言葉だった。活気を取り戻すのは容易ではないが、誰もが知っているボードゲーム「人生ゲーム」が地域活性化の鍵を握るかもしれない。

○祭りでは商店街は潤わない

人生ゲームは、ルーレットを回し、盤上のマス目に記されたイベントをこなして、ゴールを目指す。家族やお金に恵まれたばら色の人生、そうでない人生もルーレット次第。誰もが知っているあのゲームだ。

その現実版がリアル人生ゲームであり、出雲市経済環境部産業振興課の田中寛氏が考案した。商店街に活力を取り戻したいという思いが発案のきっかけになったという。


出雲市と言えば出雲大社があり、その参道となる神門通りおもてなし商店街には人の往来があるが、田中氏が気にかけるのは、市内の別の商店街、平田本町商店街のほうだ。平田本町商店街は、出雲大社から車で東に20分ほど向かった先にあり、当然、観光客がくるわけではない。大型店の進出などにより、近年はシャッター通りになりつつあるという。

商店街を盛り上げようと、"お祭り"も行われているが、イベントで盛り上がるのは、見世物のステージ、儲かるのは露天商だけ。店主はイベントスタッフとして動員され、店舗は休み、という現実を田中氏は耳にする。

どうすれば、かつての賑わいを取り戻せるのか。そこで浮かんだのが人生ゲームだった。「お酒の席で、幼少の頃に遊んでいたゲームは何かと話していて、人生ゲームが話題になったんです。
そのマス目の並びが商店街にそっくりだと。それを街めぐりに活用できないかと考えました」(田中氏)。

こうして、平田本町商店街を巻き込み、生まれたのが"リアル人生ゲーム"である。初回は2013年7月に開催。初回は地元の人を中心に406人が参加したが、イベントがメディアによって報道されると、その存在が広まり、2015年10月開催時には1925人が集まった。神門通りおもてなし商店街でもイベントが行われ、過去に計6回、延べ12000人を集客した。

○リアル人生ゲームで生まれ変わる商店街

リアル人生ゲームのルールは、盤面のものとほぼ同じ。参加者には職業カードを引いてもらう。
職業が決まると、初任給(仮想通貨)、店舗がマス目になった紙のマップをもらい、ルーレットを回してゲームをスタートさせる。ルーレットで出た目のマス目まで進み、そのマス目には人生ゲーム同様にイベントが発生して仮想通貨のやりとりをする。イベントをこなすと各店舗に設置されたルーレットを回して、商店街を一周、最後は仮想通貨を一番多く獲得した人が勝ちとなる。

肝になるのは、参加者が必ず商店街の店舗に立ち止まり、店内を見てもらうということだ。何の変哲もない、店内を見てもらうという行為。これこそが、重要なポイントだ。

●人生ゲームの効用とは?
○リアル人生ゲームが変えたもの

いつの日からか、大型店ばかりに足が向き、接客するのは馴染みの客ばかり。見過ごされてきた地元の商店。
家電屋とはわかっていても、どんな商品が並ぶのかはわからない。入店すれば、何か買わないと申し訳ない。だったら行かないほうがいい。これが活気を失った商店街に抱く消費者の気持ちだ。

リアル人生ゲームはこうした心理的な障壁を乗り越える。強制的に店舗に立ち寄り、中を見る。何も買わなくても、どんな商品が店舗に揃っているのかがわかるようになる。これは大きな進歩だろう。
イベントの実施により「イベントをきっかけに、普段使っている化粧品があることを知って、平田本町商店街で買うようになったという人もいる」(田中氏)とのことだ。

店側の意識も変わった。イベント当初は、積極的ではなかった店も、回数を重ねることで、陳列する商品にもこだわりを持たせた店舗が出てきたという。

イベント終了後もこうした効果の持続が課題となるが、田中氏は「イベント開催の1カ月前から、商店街で一定額の買い物をした場合に、仮想通貨を渡すなど、イベントに有利に働く仕組みも取り入れるなどのアイデアを取り込んでいきたい」と話す。課題は見えつつも、地元民、店舗の双方が前向きになったのは、大きく評価すべきだろう。

○双六じゃだめなのか

さて、誰もが抱きそうな素朴な疑問についても触れておこう。それは「別のゲームじゃだめなのか」ということだ。たとえば、双六に人生ゲームの要素を入れれば、あまり変わらないように思える。
商店街活性化のために、あえて"人生ゲーム"と銘打つ必要はなさそうだ。

しかし、田中氏は、人生ゲームの必要性を2つ挙げる。ひとつは、イベントの開催にあたって、ルールの説明が不要なことだ。人生ゲームの認知率は9割に達しており、「イベント開催にあたってルール説明をしたことがない」という。

もうひとつは、参加者が地元に限らないことだ。平田本町でのイベントで5%、出雲大社近くの神門通りおもてなし商店街で10%が遠方からの参加者。北海道、佐賀から参加する人もいるという。いずれも、リアル人生ゲームを出雲観光とセットで考えれば、「地域活性化」という意味合いからも、効果ありと見てよさそうだ。


実際、リアル人生ゲームは、地域活性化の事例として、多くの商工会議所が注目しており、田中氏には、講演依頼が多数寄せられているという。

●リアルの効果はさらに拡大?
○リアルで期待される人生ゲームの広がり

この話、面白いのは、さらなる広がりを見せたことだ。田中氏の取り組みが出雲市長の長岡秀人氏の目にとまり、出雲市は自治体PRのためにタカラトミー、ツヴァイと連携、「縁結びポケット人生ゲーム」という名称で実際に商品化してしまったのだ。

ゲームはパワースポットなどの観光地を巡り、出雲そば、ぜんざいなどの特産品に触れ、出雲男子との出会いにより結婚、出産・子育てをしていくストーリーとなる。

縁結びの神様を祭る出雲大社があり、ターゲットとなるのは独身女性。人生ゲームで出雲市を知ってもらいたい考えだ。長岡市長は「出雲大社の大遷宮をきっかけに、出雲に1000万人の方にお越しいただいております。訪れる8割の方が独身の女性。行ってみたい街、住んでみたい街、出雲を目指したい」と話す。

人生ゲームの提供元、タカラトミーでは、出雲市のほかにも、コラボレーションを予定している。提携するのは、愛知県犬山市の「博物館 明治村」。そこで「明治村版リアル人生ゲーム(仮称)」が今秋、開催される予定だ。

明治村ではチーム対抗方式のゲームとなる。村内を盤面に見立て、村内の建造物を巡り、与えられたミッションをクリアしながら、仮想通貨の獲得を目指していく。家族や友人とコミュニケーションを図りつつ、ゲームを通じて明治村を巡ることで、明治時代の雰囲気を味わい、楽しみながら学べるという。実際の建物を目の当たりにし、イベントを通じて明治時代を味わえるのであれば、教科書を読むよりも、覚えやすく、頭に入ってくるだろう。

明治村でのイベントがどのようなものになるのかはまだわからないが、リアル人生ゲームは、出雲市のように"地域活性化"という側面だけではなく、"学習"のあり方も大きく変えうる可能性も秘めているように感じられる。「リアル」×「人生ゲーム」。そのコラボレーションはまだまだ広がり、大きな効果が期待できそうだ。

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