市川紗椰、『ユアタイム』あの騒動で波乱の船出も「なんとかなる」- キャスター挑戦・夜型生活化でも発揮するポジティブ思考
●いいチャンスだからやってみようって(笑)
フジテレビ平日夜のニュース番組が、大きく生まれ変わった。『プロ野球ニュース』『すぽると!』と40年にわたり独立してきたスポーツ情報番組を報道番組と合体させ、4月4日に『ユアタイム~あなたの時間~』がスタート。ニュースとは想像できない番組タイトル、毎日変わるオープニング/エンディング曲、そして何より、メーンキャスターにモデルとして活躍する女性を起用したことで、新しいニュース番組が誕生した印象だ。
その女性こそが、市川紗椰。相撲、鉄道、アニメ、プラモなど、"オタク"気質で好奇心あふれる人物だ。番組スタートの半月前に、タッグを組む予定だったショーン・マクアードル川上(ショーンK)氏が、経歴詐称騒動で出演を辞退するという波乱の中で船出を迎えたが、そんな世間の騒ぎをよそに「なんとかなるんじゃないかという感じでした(笑)」と当時を振り返るなど、今回のインタビューでは、常にポジティブな思考を見せてくれた――。
※このインタビュー取材は、4月14日の熊本地震発生前に実施したものです。
――番組がスタートして2週間がたちましたが、慣れましたか?
はい。
雰囲気とか時間帯とか共演者の皆さんとか、"場"には慣れました。
――『ユアタイム』と同じフジテレビの報道局が展開しているウェブのニュースチャンネル「ホウドウキョク」でもキャスターを務められていましたが、やはりそこの"場"とは違いますか?
全然違います! ホウドウキョクはものすごい少人数でやってますし、ほとんど台本がないので、本当に別物です。『ユアタイム』と同じスタッフも何人かいらっしゃって心強いんですけど、実際にやっていることは全然違いますね。
――初回の放送などで「緊張しなかった」とおっしゃっていますが、本当ですか!?
緊張はしないんですけど、後悔はします(笑)。こうすればよかったなとか、こうしなきゃなというのはいっぱいあるんです…。
――あまり緊張しないタイプですか?
そうですね。自分の中ではしてないんですけど、初回の放送と昨日の放送を比べると、しゃべり方とか表情とかは、絶対違うと思います。だから、どこかで緊張している気持ちはあるんでしょうけど、それを感じることがないんですよね。
――そういう意味でも、慣れてきたんですね。
良い意味で「台本を無視していい」というのが分かってきました。もっと自分の言葉で伝えていいんだということ。初回に関しては(コメンテーターの)モーリー(・ロバートソン)さんも、(MCの)野島(卓アナウンサー)さんも、(スポーツキャスターの)田中(大貴アナウンサー)さんも、みんな初めてだったので、距離が近くなればなるほど、自然体になってきているというのもありますね。
――今回、地上波の夜帯ニュース番組のメーンキャスターという話を受けた時の心境はどうでしたか?
最初は光栄、それだけでした。その後、本職のキャスターではない私でいいのかという気持ちもありましたし、毎日帯で生放送というのもやったことないですし、そういう不安もありました。
――そんな不安の中でも出演を決断したのは、どういった気持ちからですか?
断る理由も特になかったですし、ものすごくいいチャンスなのでやってみようって(笑)
――報道番組をやってみたいという志向はあったのですか?
ホウドウキョクがものすごく楽しかったのと、もともと時事問題やニュースとかも好きだったので、その延長という感覚ですね。
●ショーンKの出演辞退は…
―― 一緒にメーンキャスターを務める予定だったショーンKさんが、経歴詐称疑惑を受けて番組スタート前に辞退されてしまいましたが、これによって市川さんに不安や心構えの変化はありましたか?
実は、辞退されるのが決まったのは、顔合わせの前だったんです。
まだイメージトレーニングの段階でした。それに、私が実際に打ち合わせをしていた周りのスタッフの皆さんは一緒で変わらないですし、そのままみんなを頼って支え合っていけば、なんとかなるんじゃないかという感じでした(笑)
――楽観的に受け止めてらっしゃったんですね。そして、実際に番組がスタートしましたが、苦労されている点などはありますか?
ホウドウキョクのときは、番組自体も2時間半ですし、インターネットの媒体ということもあって、わりとゆっくりとマイペースにできる感じだったんです。コメントも長くしゃべったりとか、結構深掘りしていく感じだったんですけど、『ユアタイム』はサクサク進んでいくので、1つ1つの時間尺にまだ戸惑ってますね。
――時間に追われるという感じですか?
追われるというより、短い時間の中で、どうやって自分の意見や、コメンテーターの方の意見を、いろんな視点で出していくのかというのが、なかなかの課題だなと思ってます。
――「SAYAのニュースなSASAYAKI」のコーナーでは、市川さんがニュースに対するコメントを述べられていますが、事前に相当考えてから本番で話しているのですか?
そうですね。私、言葉を重ねて個性を出していくようなタイプなので、短くすると普遍的なことしか言えないんです。文字数の多い人間なので、サクッと聞きやすくするにはどうしたらいいんだろうと考えてコメントしてます。
――1回文章に起こしたりしてるんですか?
文章にまで起こしてしまうと、たぶん、セリフっぽくなっちゃって視聴者に届かないと思うので、メモったり、箇条書きにしておくなど、視聴者の皆さんに一番親切なやり方を考えています。
――4月12日の放送では、本屋大賞を受賞された宮下奈都さんをゲストに迎えていましたが、エンディングで「私たち、しゃべり過ぎです」と反省されていましたね。
そうなんです(笑)。もっと宮下さんの話を聞きたかったんですが…。
――そこも、自分の言葉を短い時間でまとめなければいけないという課題ですか?
その日の反省は、チームとしてですね。
――コメンテーターのモーリーさんも含めてですね(笑)
はい(笑)。でもそこも私の責任です。本の話はいっぱい聞けたんですけど、もうちょっと宮下さんの人となりの話などを、本当は聞き出したかった。
でもちょっと時間が…。お話を聞いていて楽しくなっちゃって、みんなも盛り上がり、宮下さんも楽しいと言ってくださったんですけど、しゃべり過ぎちゃいました(笑)
――トークが盛り上がっても、生放送の中で頭を切り替えて言葉を選んでいくという作業が難しいんですね。
そうですね。やっぱり地上波サイズのコメントとか、会話ってまだまだ課題だなと思ってます。
――先日の放送で、女子アナを目指す学生さんに密着したVTRを受けて、「私はカミカミです」とおっしゃっていましたが、鉄道のことですとか、ご自身の趣味に関係することをしゃべっているときは、すごく流ちょうでカミカミではない気がします。
ああ、たぶん、決まりの言葉を読むのがあんまり得意じゃないんだと思います…。でも私、普通の会話も噛んでしまうタイプなので、そこも課題ですね…(笑)
――この4月改編で夜のニュースキャスターがほとんどの局で交代しましたが、裏番組は気になりますか?
今回キャスターに本職ではない私を起用した狙いや強みとして思っているのが、やはりそういった既存のニュース番組に左右されないということだと思うんです。それを生かしていく必要があると思うので、録画してチェックなどはしてないですね。
――ニュースキャスターを務めるにあたって、参考にしている方などはいらっしゃるのですか?
ラジオのパーソナリティが多いですね。話す内容というよりも言葉遣いの部分で。意見をズバズバ言いながらも、品よくきれいに伝える日本語というのを、何人か参考にさせてもらってますね。
――隣に座っている野島アナウンサーから、アドバイスを受けることなどはあるのですか?
野島さんは本当にアナウンスのザ・プロなので、見て学んでますね。生放送の尺の感覚とか、平静にしている部分とか、すごいなぁと思ってます。
――モーリーさんからはいかがですか?
モーリーさんからのアドバイスですか!?(笑)。そうですね、いつも「われわれらしく行こう」と言われますね。モーリーさんは「他にないことをやりたい」という気持ちが強いので、自分たちらしいものにしたいという気持ちが伝わってきます。
●『ユアタイム』の新しさは"キャスティング"
――先日、新宿ゴールデン街の火事のニュースを受けて、よく行っていたとおっしゃっていましたが、夜の帯でニュース番組をやると、お店に飲みに行く機会も減ってしまい、寂しくないですか?
そうですね。でも家に帰ってから飲んだり、週末には行けるので。この生活はまだ2週間なので、気になってはないですけど…。
――これから夜の街が恋しくなってしまうかもしれない…。
私、食いしん坊で、ランチというものが大好きで、遠くにB級グルメを食べに行ったりするんです。おいしいお店ってランチしかやってないことが意外とあったりするので、ランチのいいお店が逆に行けるようになったと、ポジティブに発想を転換していきます(笑)
――キャスター就任に伴って生活がガラッと変わったと思うのですが、これを機に新しく始まった習慣などはありますか?
私、深夜アニメや深夜ラジオが好きなくせに、実は深夜に起きてることが今までほとんどなかったんです。今まで録画や録音でチェックしていたのが、リアルタイムで見たり聴いたりできるようになりました(笑)
――番組が終わって家に帰ったら、ちょうど深夜アニメがやってるんですね。
はい(笑)。あと、帰り道にradikoで「あ、生で『JUNK』(TBSラジオ)聴ける!」みたいなことがあって、楽しいです(笑)
――先日放送されたフジテレビのバラエティ特番で、市川さんが発表された「ラストが衝撃!切なすぎるアニメ」の内容が本当に衝撃で話題になっていましたが、そういう情報もこれからはより多く収集できるようになりますか?
アニメに関しては全部録画してチェックしていたので、情報の量は変わらないです(笑)
――『ユアタイム』は、タイトルに「ニュース」や「報道」という言葉が入っていないことなどからも、新しいニュース番組というのを感じます。他のニュース番組と違って、この番組の新しい部分は、どこだと思いますか?
やっぱりキャスティングですよね。プロのキャスターじゃない私や、コメンテーターにモーリーさんを起用して、他では聞けない意見があることだと思います。あと、基本的に出演者の人数が少ないので、そこも他との大きな違いだと思ってるんです。だってお天気キャスターもいなくて、私が読んでるんですよ(笑)。だから、自分の出番じゃない時に、ただ待っているという感じの人が、スタジオにいないんですよ。
――みんなが常に臨戦態勢なんですね。
そうですね。そういう態勢であるということも、こじんまりとしてる雰囲気も、私たちならではだなと思ってます。
――オープニングとエンディングの曲が毎日違うというのも、特徴ですよね。
いつまで続くか分かりませんが、楽しいですよね。私は好きです。
――市川さんも選曲されたのですか?
はい。一度やりましたが、毎日選んでいいなら毎日やりたいくらいです(笑)。プレイヤーを横に置いて、レコードをピックアップして「今日はこれです」と言って流し始めるみたいな(笑)。そういうのがやりたいです。
――ニュース番組でそれは斬新ですね! エンディングの「ユア"ハッピー"タイム」のコーナーで、ペットや赤ちゃんに癒やされた後に(笑)
そうですそうです(笑)。コレクションから引っ張り出して!
――それこそラジオDJですね(笑)
そうですね、ラジオでやれですね。ごめんなさい(笑)。でも、名盤でも新曲でもいいですけど、楽しそうじゃないですか。それを楽しみに見る人も意外と出てくるかもしれないと思うので、番組に提案したいです(笑)
――今後取材していきたいものや、場所はなんですか?
今、クラウドファンディングの募集サイトが面白くて、よく見てるんです。めちゃくちゃなものや、本当にあったらいいな!というアイデアがあったりするんですよ。最近見て面白かったのは、台風の風を使って電力を起こすというもの。いいアイデアですよね。こういうアイデアをどういう人がやろうとしているのか、実際に話を聞いてみたいですね。あと、人工知能が書いた小説が、「星新一賞」の一次審査を通過したというニュースも聞いて、こちらも興味があります。
――ハンバーグや、相撲、鉄道といった趣味の分野では?
あっ、そうですね(笑)。鉄道はもう何でも行きたいです! これはもうキャスターをやるということは、そのニュースがあれば行くという大前提で、スタッフが連れて行ってくれると思ってます(笑)。
――注目の鉄道スポットは?
今、地方では、観光資源として鉄道を利用してるじゃないですか。移動手段ではなくて、乗ることが目的のイベント列車を走らせて、その土地のご飯を出したり、地域の特色を出しているんです。これが地方創生の大きな力になると思っていまして、私は勝手に「テツノミクス」って呼んでるんですけど(笑)。あとは、京都の梅小路の鉄道博物館にも行きたいですね。
――「相撲オタク」の市川さんですが、番組でスポーツニュースに接するようになって、他のスポーツにも興味はわいてきましたか?(笑)
スポーツに興味というのは、本来はないですよ(笑)。でも、田中さんがすごく分かりやすくて、扱うスポーツも『すぽると!』の精神を受け継いでいることもあって、結構マニアックじゃないですか。マニアックであればあるほど、へぇーって思うので面白いなと思う要素が毎回あって、意外と楽しいなと思いますね。
――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、視聴者の皆さんへのメッセージをお願いします。
『ユアタイム』は、どこのニュース番組よりも始まる時間が遅いので、最新のものが一番入ってくるというのも魅力ですし、内容は盛りだくさんなんですけど、空気はゆったりしてるので見やすく、距離感近めでやってるつもりです。――夜遅いということもあって、市川さんの好きな深夜ラジオに近い部分もあるんですね。
そうですね。『ユアタイム』というタイトルを謳(うた)っているくらいなので、リラックスして見ていただければと思います。
■プロフィール
市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年名古屋生まれ。4歳でアメリカ・デトロイトに移り住む。14歳で帰国。
16歳でスカウトされ、『ViVi』(講談社)専属モデルとしてデビュー。その後、『25ans』のカバーモデルをへて『Sweet』『BAILA』『MAQUIA』など、多数の女性誌で活躍中。
2005年、コロンビア大学などに合格するも、日本に残ることを決意し、早稲田大学に入学。
音楽・読書・アニメ鑑賞・鉄道・相撲と趣味は幅広く、その博識ぶりから専門誌で連載を持つなど、さまざまな分野のカルチャーに精通している。