脚本家・古沢良太が語る、キャラクターづくりとテーマづくり
●映画『スキャナー記憶のカケラをよむ男』は異種格闘技戦
『ALWAYS 三丁目の夕日』で鮮烈な印象を世の中に与え、『キサラギ』『相棒』『リーガルハイ』など多くの作品を生み出す、脚本家・古沢良太。古沢の最新作が映画『スキャナー記憶のカケラをよむ男』(4月29日公開)だ。狂言師・野村萬斎と、お笑い芸人・宮迫博之(雨上がり決死隊)が「元漫才コンビ」という設定で、萬斎演じる仙石和彦はものや場所に宿った人間の"残留思念"を読み取りながら事件を解決していく。現在トップクラスで活躍する脚本家の最新作についての思い、そして仕事論について話を伺った。
○萬斎さんは本質的に明るい
――野村萬斎さんの役は当て書きをされたそうですが、実際に出来上がった映画を見てどう思われましたか?
当て書きをしたのは萬斎さんだけだったのですが、ほかの方もイメージに合った方がキャスティングされていたと思いました。というよりも、むしろあてがきをしなかった方のほうがイメージ通りで、萬斎さんの部分は、「そうやるんだ!」という意外性があったんです(笑)。萬斎さん本人は非常に明るい性格で暗い部分がないそうで、本質的に明るい部分が漏れてる感じになっていて面白かったですね。陰の人間なんだけど、パワーを感じるというような。
――ほかの方、たとえば安田章大さんはいかがでしょうか。
安田章大さんの演じた役は、ある種難しい役だったと思うんですが、見事に演じてくださったと思います。それは、安田さんの力だと思うんですよね。端っこにいて存在を消している部分もあれば、クローズアップされて光を放つ部分もある。彼のおかげで成り立ってるところもあるので、ありがたいと思います。この映画って萬斎さんが狂言師、宮迫さんが芸人、安田さんがアイドルで、それぞれの良いところを出してくださってて、異種格闘技戦みたいな感じですよね。実は、杉咲花さんが一番王道の俳優さんだったという。
○変なキャラクターのそばにはパートナーがほしい
――今回、萬斎さん演じる仙石と、宮迫さん演じる丸山は、お笑いコンビを組んでいたという間柄ですが、事件にかかわる中でバディのような関係性になりますよね。
特にバディにこだわっていたわけではないんです。でも、おもしろいキャラクターを作っていくことに時間をかけていると、気が付いたらそのキャラクターが変人になっていることがあって(笑)。ちゃんとパートナーがいてつっこんであげないとキャラクターが成立しなくなることが多いので、自然とバディのような関係性になることはあります。
僕も学生時代、面白いことを言ってみるんだけど、キャラクターのせいかなかなかつっこんでもらえなくて、面白さが伝わらないという経験があったんです(笑)。でも、台本だったら、ツッコミの存在を書ける。つっこんでもらえると、嫌なヤツに見えたキャラクターの誤解が解けるんですよね。それと、自分が嫌われるかもしれないということを恐れずに、好き勝手言える仲に対する憧れもあるのではないかと。
――それは、古沢さんの作品では、男性同士ではなく、男女でも描かれているような気がしますね。
2015年は『デート ~恋とはどんなものかしら~』のようなラブコメディなどもありましたが、どういったジャンルのお仕事がやりたいと考えていますか?
ジャンルにもこだわりはなくて、なんでも書けるようになりたいと思ってるんです。やったことのないジャンルはとりあえずやってみたいし、常に変化したいという思いもあります。『デート』に関しては、ラブストーリーの連ドラは当たらないと言われていたので、当ててみたいという気持ちがありました。僕の性格的に、今こういうものが流行っているからやろうということはなくて、あまり人がやっていないものをやりたい。
●「成長物語」に当てはめられたくはない
○能力を誰かのために使う使命
――そもそも、古沢さんが脚本家を目指そうと思ったのは何がきっかけだったんですか?
実は、脚本家になろうと思ったことはありません。もともと、中学時代に漫画家になりたかったんです。ストーリーの勉強のために、脚本について書かれた本を読み始めました。コンクールに応募して、その後、連ドラの仕事をするようになって、意外と向いてるなと思って今に至ります。
この『スキャナー』でも、仙石は自分で望んで残留思念(物や場所に残った人間の記憶や感情など)を読み込む能力を手に入れたわけじゃないんですけど、能力を持ったものは、自分の幸せのためではなく、その能力を誰かのために使う使命がある。『スキャナー』って、能力を持った自分を受け入れ、自分に与えられたことを全うするという物語だとも思うんですよね。
――この『スキャナー』は、記憶がテーマになっていますが、記憶をテーマにした理由はなんでしょうか。人って思いこむものじゃないですか。僕は小さいころからすごく誤解をされやすい人だったんですね。怒ってないのに怒ってると思われたり、みんなで遊園地に行っても、つまらなさそうにしてると思われたり。高校のときは肉屋でアルバイトしてたんですが、クリスマスに外で七面鳥をたたき売りをすることになって、自分もいつやるのかなと思って楽しみにしてたら、「あの子は絶対そういうの無理だから」と思われて、たたき売りができなくて寂しい思いをしたことがあるんですよ(笑)。
それに「自分の記憶は正しいと思っていても、ほかの人の記憶とは違っているかもしれないし、誰かのフィルターで通した真実や正義は、その人にとっての真実や正義でしかない」と、昔から思っていたんですよ。
自分自身も、自分の都合の良いように記憶をとらえてるかもしれない。でも、そこに疑いを持つことって少ないんですよね。そういうことを書きたいと思ったんです。
○ダメな人の方が面白い
――以前、『リーガルハイ』の記事で、古美門研介の成長を描きたいわけではないという記事を見たのですが、物語の中の成長というものをどう考えてますか。
たぶん記者さんに「これは成長物語ですよね?」と聞かれたので、「そんなつもりで書いていない」と答えたんだと思います。ドラマの成長物語というと、考え方が幼かったり、人と違っていたりする人が、いろんな経験をして立派になり正しくなることを言うんだと思うんですけど、それに当てはめられるのは嫌だなと。何が正しくて何が間違っているかという定型にはめこまないことをテーマにしたドラマだったんで、そういう次元ではないと言いたかったんだと思います。
――この『スキャナー』からは、成長物語ではないけれど、最後まで見ると、淡い変化みたいなものは感じます。
そうですね。基本、人間ってそんなに簡単に変わらないと思ってます。それに、間違ったりダメだったりする人のほうが面白いじゃないですか。ダメなヤツも含めてみんな一緒に生きてるんだという世界のほうが好きですね。それに、この作品は、意外とラブストーリーと見ることもできると思うんです。世間一般で思うような恋ではないかもしれないけど、今、会えない人に恋をした男が、そのことで自分の心を開いていく物語だとも思います。そんな視点からも見てもらえればうれしいです。
『スキャナー記憶のカケラをよむ男』
残留思念(物や場所に残った人間の記憶や感情など)を読み取ることができる特殊能力を使い漫才コンビとして活躍していたが、精神をすり減らしマンション管理人として暮らす仙石和彦(野村萬斎)。
仙石のもとにかつての相方・丸山竜司(宮迫博之)と、女子高生・秋山亜美(杉咲花)が訪れ、失踪したピアノ教師・沢村雪絵(木村文乃)の捜査に関わることとなる。(C)2016「スキャナー」製作委員会
西森路代
ライター。地方のOLを経て上京。派遣社員、編集プロダクション勤務を経てフリーに。香港、台湾、韓国、日本などアジアのエンターテイメントと、女性の生き方について執筆中。現在、TBS RADIO「文化系トーラジオLIFE」にも出演中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。