ディズニー最新作『ズートピア』主人公は当初、ウサギのジュディではなくキツネのニックだった!
●主人公を逆転させた理由
全米で『アナと雪の女王』『ベイマックス』を超え、ディズニー・アニメーション史上No.1のオープニング記録を達成し、ディズニーの最高傑作との呼び声も高い『ズートピア』が、4月23日に日本公開を迎えた。本作は、動物たちが人間のように暮らす楽園"ズートピア"を舞台に、新米警官・ウサギのジュディの奮闘を描いた物語。動物たちの世界に差別や偏見がある人間社会が映し出され、大切なメッセージを投げかけてくれる。
感動あり、笑いあり、ミステリーという面白みもある本作でメガホンをとったのは、『塔の上のラプンツェル』のバイロン・ハワード監督と、『シュガー・ラッシュ』のリッチ・ムーア監督。この豪華コンビが、生きていく上で大切なメッセージが詰まった物語を生み出した。先日、来日した2人にインタビューし、物語に込めた思いや、制作秘話を聞いた。
――そもそも今回、お2人のタッグがなんて豪華なんだと思いました。組んだ理由を教えてください。
バイロン・ハワード:この企画を開発して3年くらいたった頃に、物語を練り上げていく上で助けが必要になったんです。それまではジュディの相棒であるキツネのニックを主人公にしていましたが、それをジュディに変えるというとタイミングでした。リッチ・ムーア監督は『シュガー・ラッシュ』でわかるように非常にユーモアがありながら感動も伝えてくれる方。幸いなことに一緒に組んでくれることになり、これだけ層の厚い多様なものを作っていく中で、お互い助け合って作り上げていくことができました。
リッチ・ムーア:バイロンと共同監督として一緒に作り上げたこの映画を、心の底から誇りに思いますし、この映画に関われて監督を務められて最高に光栄だと思っています。また、バイロンと2人で作ったわけでもなく、総勢700人のスタッフがこの映画に関わっていて、その一人ひとりが全力を注いでこの映画が完成したと思っています。
――最初はニックが主人公だったんですね。ニックからジュディに変えたのはなぜですか?
旧バージョンでは、ニックは今のような皮肉屋で、自分の住んでいる街が嫌いだったので、ズートピアから出たいと思っていたんです。
そうすると、観客もどうしても彼を通してズートピアを好きになれなくなってしまい、それではダメだと思ったのです。主人公は物語を引っ張っていくものなので、楽観主義者のジュディのような、ズートピアの最もいいところを見いだしてくれるようなキャラクターが必要で、そのあとに世の中というものは目に見えるほど単純なものではないということがわかってくるようにしました。
――この物語では、人間社会と同じように、"違い"から生まれるさまざまな偏見が描かれ、生きていく上で大切なメッセージが込められています。"偏見"の問題をテーマにした理由は?
バイロン・ハワード:動物を1年くらい研究していく中で、哺乳類の中では捕食する側が1割、捕食される側が9割ということに気付いたんです。この自然界の事実をもとに、時として対立関係にある2つのグループが進化して一緒に社会を築いていった場合、もともとあったお互いに対する恐れや不信感は心の中に残っているといったストーリーを思い付きました。
――人間以上に個性が際立っている動物だからこそ、より偏見の問題がわかりやすく、そしておもしろく伝わってきました。
バイロン・ハワード:イソップの童話までさかのぼって、人間社会や私たちが抱える個性、欠点などを動物に例えて表現するというのは、昔から受け継がれている伝統だと思います。動物で描くからわかりやすくなるというメリットは確かにあると思いますね。
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●大きな挑戦となった動物のリアルなサイズ感
――主人公を逆転させたとのことでしたが、たくさんいる動物の中で、ウサギを主人公にした理由は?
リッチ・ムーア:(ジュディのぬいぐるみを動かしながら)キュート! カワイイ!(笑)
バイロン・ハワード:そうですね! かわいいというのも理由の一つです(笑)。ウサギはかわいらしくて小さくてふわふわしている。この物語では、ウサギのジュディが、周りの人たちからウサギだからとバカにされ、勇ましい警官にはなれないだろうと見られてしまいますが、その彼女が主人公であることによって、偏見や先入観からいろいろな障害や困難を経験した人たちに理解してもらえるものになると考えました。
――動物を描くにあたって、実際の動物を徹底的にリサーチされたそうですが、ウサギを調べてどんな発見がありましたか?
バイロン・ハワード:ビンキージャンプという、空中でひねりながら回転して跳ぶウサギ独特の動きを知りました。本編でジュディがサイに踏まれそうになる場面がありますが、そこのシーンでよりウサギらしさを出すために、担当したアニメーターの選択でビンキージャンプを取り入れています。動物たちは通常は人間に近い形で行動しますが、怖がったり興奮したり感情的になる時に動物らしい姿を見せるというルールを、自分たちの中で決めていました。
――日本に先駆けて公開された全米で大ヒットを記録していますが、本作のどういったチャレンジがヒットにつながっていると考えていますか?
リッチ・ムーア:最大のチャレンジの一つは、動物のキャラクターをリアルに描くにあたって、実際の自然界におけるサイズ感もリアルに描くということ。今まであった言葉を話す動物たちの世界を描いたアニメーション映画では、全体的に同じくらいの背丈に並べるため、小さなネズミを大きめにし、ゾウやキリンといった大きな動物を小さめにしてバランスをとってきましたが、今回は新しいチャレンジとして現実と同じサイズ感で描きました。
これはとても大変でした。小さいネズミと大きなゾウを同じフレームに収めるのはかなり工夫がいることで、例えば、アイスクリーム店でジュディが大きなゾウの店員とからむ場面は、構図的に創意工夫が必要です。あまりにもチャレンジが大きすぎて、本当にここにこだわる必要があるのか自問自答することもありましたが、それこそがこの映画をユニークにしていると思ったので、いろいろ知恵を出して"ズートピア"の世界を作り上げていきました。
■プロフィール
バイロン・ハワード
1968年生まれ。1994年にウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ入社。『リロ・アンド・スティッチ』(02)と『ブラザー・ベア』(03)でスーパーバイジング・アニメーターおよびキャラクター・デザインを担当し、その後もストーリー・アーティストおよびキャラクター・デザイナーとして経験を積み、『ボルト』(08)で長編映画監督デビュー。2作目となる『塔の上のラプンツェル』(10)は日本でも今なお愛されている。
リッチ・ムーア
1963年生まれ。
1987年、TVアニメ・シリーズ『Mighty Mouse - The New Adventures』のデザイナーおよびライターとしてキャリアをスタート。その後、長寿コメディ・アニメシリーズ『ザ・シンプソンズ』(89~)の最初の3人の監督の1人として活躍。テレビ・アニメーション界で革新的な作品を放った後、ディズニー作品『シュガー・ラッシュ』(12)で長編映画監督デビューし、アニー賞映画部門で作品賞と監督賞を含む5部門を受賞、アカデミー賞長編アニメーション賞にもノミネートされた。
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