鉄道トリビア (153) 半世紀近く列車が走っていないのに廃止されない路線がある
安比奈線は1925(大正14)年、南大塚~安比奈間で開業している。
途中駅はなかった。この路線の目的は入間川に堆積していた砂利の運搬だ。関東大震災の2年後、首都東京は復興建設ブーム。その建設資材として砂利を必要としていた。1963(昭和38)年、入間川からの砂利の採取が規制され、安比奈線は役目を終えた。
しかし、安比奈線は廃止されなかった。1960年代は「いざなぎ景気」と呼ばれた高度経済成長期にあたる。東京郊外の住宅開発が進み、「核家族」という言葉も生まれた時代だ。
西武鉄道としては、将来は通勤路線として活用しようと考えていたのかもしれない。また、1967年には東急電鉄による「こどもの国線」の運行が始まっている。ひょっとしたら、「安比奈地区にレジャーランドを作ろう」という考えが西武鉄道にもあったのかもしれない。
こうした計画が進展することもなく、じつに半世紀近くもの間、休止扱いのままになっている。
○安比奈線を復活させる計画もあるけれど…
この安比奈線について、西武鉄道と川越市が再利用を検討している。発端は1980年代後半のバブル景気の頃の西武新宿線複々線化計画だ。西武新宿線沿線の人口が増加するため、輸送量の増加を見越して上石神井~西武新宿間を複々線化しようとした。それに合わせて列車を増発すれば、新たな車両基地が必要になる。
その候補地として挙がったのが安比奈線沿線だった。
川越市が2009年に実施した「第9回 大東地区 川合市長と語り合うタウンミーティング」の議事録には、参加者の意見として、西武鉄道によって住民に対する説明会も開催され、一部の線路用地は民家を移転して拡幅工事を実施したとの記録がある。市の総合政策部長も、当初は2008年3月までに整備する方針だったものの、その後、西武鉄道から、「平成30(2018)年3月までに事業計画を延長する」という話を聞いたとしている。車両基地の外周道路に関しては、「平成24(2012)年末までに早期に着工できるように努力したい」という話が伝えられていたようだ。
川越市は安比奈線の旅客化を要望している。第三次川越市総合計画(2006年策定)によると、「東武東上線の複々線化」「西武新宿線の複線化及び地下化」「JR川越線の複線化」とともに、「西武鉄道の車両基地建設に伴い、安比奈線の旅客線化及び新駅の設置」を促進すると明記している。同計画は2012年4月に内容が更新されたが、鉄道に関するこれらの項目は残された。
とはいえ、実際に安比奈線の線路付近をたどって観察してみると、踏切が多く、現在の線路での復元は難しそうだ。
とくに国道16号は交通量が多いし、県道114号線は入間川を渡る八瀬大橋が造られ、安比奈線の線路を分断している。したがって高架線とするか地下にする必要がありそうだ。また、川越市の資料によると、線路拡幅や途中駅の用地確保もまだできていない様子である。
鉄道ファンとしては旅客線としての復活が待ち遠しいし、沿線の人々の中にもそれを望んでいる人が多いことだろう。なお、西武鉄道からは安比奈線復活計画に関する公式発表はない。2012年度の設備投資計画のプレスリリースにも、「安比奈線」の文字はなかった。
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