高嶋政伸が感激した“市村正親の言葉”「またやろう、お前がやるならやるよ」
●3年越しの念願叶ったキャスト陣
俳優の高嶋政伸(「高」は、はしごだか)が28日、朗読ライブ『リーディングセッションVol.16』(18:30〜 / 21:15〜 2ステージ)を、東京・BODY&SOUL 新渋谷公園通り店にて開催する。
1995年にスタートした『リーディング・セッション』では、高嶋が感銘を受けた文学作品や自身のオリジナル詩をゲストとともに朗読。過去には、山田五十鈴さん、市村正親らもゲストとして出演しており、3年ぶりの開催となる今回は、“アングラ界の鬼才”ばらちづこをはじめ、山崎佳美、MARISAといったゲストを迎えるほか、チェロリスト・坂本弘道が演奏を担当する。
父親になって感じた自身の変化や、高嶋家を襲う謎の存在「ムシムシ」について語ってもらったインタビュー前編に続き、後編では高嶋にとって朗読劇とは一体何なのか話を聞いた。
○■「蟻地獄のように」オファーは変わらず
――『リーディング・セッション』では、政伸さんが「一緒にやりたい」と思った方に毎回出演オファーをされているとのことですが、今回の出演者の方々の人選理由をお聞かせください。
2020年に、木内昇先生の『頓田町の聞奇館』(短編集『占(うら)』に収録)を読ませていただいて、面白いなと思ったんですね。それで、イタコの老婆役には、僕が若い頃からテント芝居を観させていただいている「野戦の月」のばらちづこさんが頭に浮かんで。テント芝居一筋でやってこられた僕の大好きな女優さんなのですが、声が本当に独特で、「聞奇館」の奇怪なイタコの老婆にはピッタリだな、と。
そして、桐子(とうこ)という役には、前回の『リーディング・セッション』にも出演していただいた山崎佳美さんにやっていただけたら面白いだろうな、という構想があったのですが、その頃はコロナがちょうど始まった時期だったので、3年経った今ようやく実現に至りました。
――MARISAさんはいかがでしょうか?
『ちむどんどん』で共演した俳優さんと『リーディング・セッション』の話をしていたときに、「知枝(ともえ)という役がまだ決まっていなくて」という話をしたら、MARISAさんをご紹介いただいて。稽古場に来ていただいて、読み合わせをしたら、すごく声が良かったので、お願いすることにしました。チェロリストの坂本さんとは古い付き合いになります。最初に会ったのは、確か「風の旅団」に楽団として出ていらっしゃったときだと思います。その頃からすごく気になっていたので、何度か公演を見に行かせていただきました。
『占』には、欅の木や檜の木、主人公が悩む時にゴロンと寝転がってじっと見つめている天井の木目であったり、非常にたくさん木が出てくるのですが、他の『茗荷谷の猫』や『漂砂のうたう』を読ませていただいても、木内先生の作品には、木がものすごく出てくるんですよ。その木の温もりが音楽としてあったらいいなと思って。
坂本さんの奏でるチェロの音はすごく温かみがあるので、今回は坂本さんに音楽監督といいますか、音楽全般をお任せすることにしました。
●市村正親「またやろう、お前がやるならやるよ」
○■市村さんはもう一つすごいエピソードがありまして……
――前回、加藤敬二さんの出演には、食事に誘い、読み合わせに誘い……と「蟻地獄のように計画的に進めた」と当時のインタビューでお話されていました。今回も「蟻地獄のように」オファーされたのですか?
大体同じですね(笑)。「どうやら、政伸が朗読劇を一緒にやりたがっているらしいぞ」と友人に触れ回らせ、ご本人が“本当なのか?”と思い始めたときに、僕が「実は話したいことがあって……」と電話すると、向こうも「ついに来たか!」という感じで、スッと引き受けてくださるんです(笑)。
――政伸さんからそんな風にお声がけされたら、皆さんその気になりますよね(笑)。
頂いたお仕事をやらせて頂く、それも本当に素晴らしいことなのですが、『リーディング・セッション』というのはそれとは別に、自分自身が本当にお腹の底から惚れた作品を自分で見つけてきて、自分のやりたい方とやりたいようにやる。
それをやることによって、プロやアマチュアを問わず表現に興味がある人々が集まってくる「場」ができる。そういう実験の「場」をずっと持ちたいと思っていたので、『リーディング・セッション』を始めました。
ただ実験の「場」と言っても、面白くないといけないのは当然の事で。面白くなかったら、お客さんも二度と来てくださらないので、表現者としての決死の腕試しの場所とも考えています。「なんだ、政伸のやりたい世界ってこんなもんか」という風に思われてしまうと、僕の役者人生、沽券にも関わるので(笑)。――それで前回公演前には、「本番は楽しくもあり怖くもある」とおっしゃっていたのですね。
そうですね。最初は楽しんで始めるんですけど、途中くらいから七転八倒です。皆で同じ視点で話し合って、稽古を進めていくのですが、年齢も活動のフィールドもばらばら。多様性ですね。
真正面から多様性を認めるのってすごい難しいことで、例えば国家単位でなにか大きなことをやるとなると、何事でも賛成派と反対派が出てきますよね。それをお互いに認め合うのが多様性なわけですが、本当に難しい。そもそもの目的が違いますから。
『リーディング・セッション』は、それのちっちゃい版みたいな(笑)。やはり皆さんそれぞれ、立場があるし、考え方もあるし、哲学も持っていらっしゃるので、お互いに認め合って一つのものにしていくというのは、大変です。『頓田町の聞奇館』も多様性が大きなテーマの一つだと思うので、それを稽古場で実際に体感しています。
――その大変さを乗り越え、本番で皆さんが一つになったときのエネルギーはすごそうです。
皆さん「やりたい」と思ってやってくださるので、終わったあとというのはやっぱり格別ですね。
本当にみんなで一つのことをやり遂げたという感じで。山田五十鈴先生とご一緒した『老妓抄』という作品に市村正親さんにご出演いただいたのですが、「またやろう、お前がやるならやるよ」と言ってくださって感激しました。山田五十鈴先生にも、恐れ多いことですが、「次のリーディング・セッションで、『桜の園』のラネーフスカヤを演じていただけませんでしょうか」と言うと、「やらせていただきます」と。嬉しくて、涙がでました。
市村さんはもう一つすごいエピソードがありまして、前回、加藤敬二さん、山崎佳美さんと一緒に『リーディングセッション』をやります、と伝えると、「俺、当日手伝いに行くよ」とおっしゃってくださって(笑)。「市村さんがお弁当配ったりするんですか!?」と言ったら、「なんでもやるよ! 嫌だったら行かないけどね(笑)」とおっしゃるのですが、「いやいやいや! 恐れ多き過ぎますです!」と(笑)。
――市村さんにお弁当を配ってもらうなんて、皆さん落ち着きません(笑)。
僕の口から言うのも変なのかもしれないんですけど、一度ご一緒させて頂きますと、まるで、何十年もお付き合いさせていただいている、本当の家族や兄弟になったような気持ちになります。
これは、僕にとっては、かけがえのない経験なんです。
●衝撃を受けた“朗読体験”
○■涙が出て、立ち上がれないくらいに
――映像でも演劇でもない、朗読劇という形態の性質も影響しているのでしょうか?
どうなんでしょうか……一応“朗読以上演劇未満”というコンセプトでやっておりまして、歩き回ったり、お互いに見て喋るのはナシにしているのですが、途中で立ち上がって身振り手振りとか、かなり落語に近い感じでやっていただくというのが『リーディング・セッション』のやり方で。でも朗読ですから、覚えずに読む。立ち上がったり、身振り手振りをつけたりはしますが、あくまで書いてある通り読みます。この辺は、演劇とは違うのかなと。
加藤敬二さんも「すごく新鮮だった」というふうにおっしゃっていました。ばらさんは今稽古をしながら、「覚えてやるほうが楽だ」というふうにおっしゃっていて。公園とか高架下に張ったテントという、電車や車のノイズがすごい環境で演じている方でも「覚えないで読むのが難しい。
逆に覚えちゃったほうが楽だ」とおっしゃっていました。
――『リーディング・セッション』はどんなステージで行われるのですか?
基本的に周りの美術やセットが一切なくて、椅子と台本があればできるものなので、聞いてくださる、観てくださるお客さんのイマジネーションを掻き立てるような演出を心がけています。だから、ある人は僕たちが読んでいる作品が四畳半の部屋で行われているように感じて、ある人は広大な宇宙空間のように感じる方もいらっしゃる。お客様お一人お一人のイマジネーションに委ねる。そういうギリギリのところまでシンプルに持っていったなかで朗読することで、その作品を書いた作家の「魂」を、僕らという回路を通して、今この世界に出して示す、というのが一番のテーマだと思います。出して示す、わけですから、祟(たた)る、とも言えますね。
――そもそも、政伸さんが朗読劇に興味を持たれたのは、1992年に青井陽治さんの「ラヴ・レターズ」を観たことがきっかけだそうですね。当時衝撃だったと。
特に、「ラヴ・レターズ」は、物語というよりも、人生そのものなんです。子どもの頃から老いていくところまで、人生そのものを読む作品。だからなのか、最後の場面のときには涙が出て、立ち上がれないくらいになったんです。
自分でも不思議だったんですよね。自分自身の感情を制御できなくなったというか、“これって、なんなんだろう?”と思って、ずっと気になっていたんですけど、ニューヨークに住んでいた友人から、「ニューヨークではリーディングが非常にパワーを持っている」と教えてもらって。映画や舞台のプロデューサーと監督が、リーディングの1列目に並んでいて、面白い作品だと、その場で映画化や舞台化も決まってしまうらしいんです。それを聞いて、朗読ってなんだか面白いなと。それでやってみようと思って、始めました。僕はジャズがずっと好きだったので、リーディングでジャズのジャムセッションみたいな感じでやりたいなと思って、『リーディングセッション』という名前を付けました。
■プロフィール
高嶋政伸
1966年10月27日生まれ。東京都出身。1988年、NHK連続テレビ小説『純ちゃんの応援歌』にてデビュー。1990年に放送されたドラマ『HOTEL』(TBS系)は2002年まで放送される人気シリーズになった。近年の出演作は『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)、『病院の治しかた〜ドクター有原の挑戦〜』(テレビ東京系)、『レッドアイズ 監視捜査班』(日本テレビ系)、NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』など多数。