香取慎吾、台本を当日現場で覚える理由とは? 妻役・岸井ゆきの驚き「普通できない」
●香取、岸井との共演は「刺激的ですごく楽しかった」
映画『犬も食わねどチャーリーは笑う』(9月23日公開)で夫婦役を演じた香取慎吾と岸井ゆきのにインタビュー。互いに刺激を受けたという初共演の感想や、本作における挑戦など話を聞いた。
市井昌秀監督が脚本も手掛けた本作は、表向きは仲良し夫婦という田村裕次郎(香取)と日和(岸井)のゆずらないバトルをコミカルに描いたブラックコメディ。裕次郎は、平凡で情けないダメな夫。そんな夫にイライラする日和は、SNSの「旦那デスノート」に愚痴をぶちまけるように。そしてある日、裕次郎もその存在を知ってしまい、引くに引けない夫婦ゲンカに発展していく。
――今回初共演となりましたが、共演前に抱いていたイメージと、実際に共演して感じたことをお聞かせください。
岸井:私はもう、子どもの頃からずっと見てきた方なんです。
テレビで見てきた香取慎吾さんというイメージが強くありましたが、実際の香取慎吾さんはそのままの方でした。こういう人、という区分ではなくて香取さんという属性というか、人として“香取慎吾”とでも言えるような部分があるんです。
香取:みんなが知っている慎吾ちゃん(笑)
岸井:はい! なので、怖い人なのかな、優しい人なのかなという他の初対面の人に対して抱くような身構えた気持ちは最初からなかったです。そして、初めてお会いしたときに「僕、台本覚えてこないから」とおっしゃって、「さすが香取慎吾だ!」って思いました。「本当なの!?」と思いましたが本当でした。
香取:僕は気になる俳優さんとして素敵な方だなと思っていた矢先に共演ということになってびっくりして、うれしかったです。ご一緒したら、素敵だなと思っているお芝居を超えてくるくらい。共演できてうれしかったですが、もうちょっと温かくて柔らかい作品でご一緒したかったです(笑)
岸井:そうですね(笑)
香取:基本ピリついている空気だったので、合間の時間にお話しさせてもらってもどこかブレーキかけないと次のシーン始まったらそんな空気じゃないから、みたいな(笑)。
明るくてずっと2人が楽しい作品だったら、合間の楽しさもそのまま延長で平気なものもあるけど、そういう感じじゃなかったので、お互いちょっとブレーキをかける感じでした。――素敵だなと思っているお芝居を超えるくらいだったということですが、どんなところに魅力を感じましたか?
香取:自分がもっとこうしたいと思わせてくれる感じでした。あまりそういうことを思わないほうですが、このままじゃ負けちゃうみたいな、ふと我に返って「俺、大丈夫かな?」って思うときがあって。『ドラゴンボール』の孫悟空が「もっと強いヤツに会いたい」って言うような強敵で、強い相手と会えて刺激的ですごく楽しかったです。
――岸井さんに刺激されて引き出されたものがあったわけですね。
香取:そうですね。
岸井:びっくりです。
香取:そんな中でも、岸井さんがお芝居のことでちょいちょい思い悩んでいる瞬間があったので、「何を悩んでいるの? 全然素晴らしくてこっちはこんな風に思っているのに、これ以上悩むところなんてある?」って僕は思っていました。
岸井:これでいいのかなって思うこともありました。香取さんが台本をその日に覚えるということで、すごく新鮮な、作り込まれていない言葉が飛んでくるので、それに対して、ちゃんと(台本を)読み込んでいる自分がどう返したらいいのか、どうするのがいいのか、すごく考えました。
――台本を家では読まず、現場で覚えるという香取さんに凄みを感じましたか?
岸井:すごいですよ! その日覚えるなんて、普通できないですよ!
香取:今回はそこを楽しみながら、ちょっとタイミングをずらすところもありました。ポンポンいくセリフのいいテンポってありますが、今回は作品のリアリティや僕の役のダメな感じを出すためにも、ちょっと待ってから言うとか、ずらしたほうがいいかなってやっていたかもしれません。
岸井:予想できない香取さんの芝居に、どう返したらいいのか悩むこともありましたが、私も楽しんでいたと思います。そこに乗っかってみようと思えたし、香取さんがそういう空気を作ってくださったのですごく楽しかったです。
●香取、台本は家で読まない「宿題をやりたくないみたいな…」
――香取さんが当日に現場で台本を覚えるようにしている理由を教えてください。
香取:苦手なので(笑)。
宿題をやりたくないみたいな感じでギリギリまで読まないだけです。
――それで覚えられるのがすごいですよね。
香取:仕事としてやっていてお金ももらっているので、最終的には覚えられないとダメじゃないですか。でもギリギリまで見たくないっていう感じです。
――この覚え方は昔からですか?
香取:子供の頃はもう少し読んでいましたが、現場に行ったら違うこともいっぱいあって。座ってセリフを言うって想像していたのに、現場に行ったら「歩いてしゃべって」と言われて、どうしようってなることが子供ながらにあって、現場で監督の指示を受けたり、自分がどういう衣装かわかってから作ったほうがいいなという風になってきたのだと思います。想像の中でポケットに手を入れていたのに、ポケットがない衣装だったり。事前に作り込みすぎると修正が難しくなるので。
――本作では、ダンベルを持ち上げる筋トレシーンもあり、体が仕上がっているように感じましたが、事前に準備していたのでしょうか?
香取:何もしてないです。(現場で)言われたことをやっただけです。重いのを持ってって言われた通りに。
――普段から鍛えているわけではないんですね。
香取:何もしてないですね。大嫌いです(笑)。事前の準備は本当にしないので。
岸井:本当に持ち上げていてびっくりしましたが、何もやってないんですね。
――演じた役との共通点はありますか?
香取:我慢してこらえてしまうというか、うまく吐き出せなくて怒ったり涙したりというのは似ているのかなと。我慢できない限界までいかないと感情を出せない。コイツのこと嫌いだって言っていますけど、優しく彼を見て共通点を探したらそこかなと思います。
岸井:私はSNSに悪口を書いたりしませんが、ためこんでしまうのはわかりますね。2人は感情をぶつけ合う場面がありますが、私はためこんで出口がわからなくなるタイプです。
――吐き出せずにたまってしまったらどうするのでしょうか。
岸井:好きな映画を見て発散します。でも、実際には自分自身の問題が解決していないと、消化不良だなと思うときもあります。
香取:主人公に投影しているのね。
岸井:しているんですけど、根本的な解決にはなっていないなと。
●本作での挑戦を語る香取は「カッコ悪くすること」
――本作で、ご自身にとって挑戦だったと感じていることを教えてください。
岸井:今までにないということでは、肩車ですね。あと、ワイヤーアクションをしていて、初めてでした。
香取:見た人は「どこで?」と思うかもしれないですけど、ワイヤーアクションをしているんです(笑)
――香取さんにとっての挑戦は?
香取:カッコ悪くすること。カッコ悪い役でも、カメラの前だとカッコつけてカッコよく映ろうとしてしまうのですが、それを極限までなくす。やっていて面白かったですし、楽しかったです。
――カッコ悪くするために工夫したことはありますか?
香取:ちょっと運に任せるところもありました。歩いているときにたまたま足が絡まってコケないかなとか、スマホをポケットから出すとき引っかからないかなとか。でも、いろんな経験値できれいに出しちゃうんですよ。きれいに一番いいところに出してしまうところを、そうじゃなくしようとするのは楽しかったです。
――岸井さんは裕次郎のダメ夫ぶりをどう思いましたか?
岸井:ムカつきましたが、お互いに問題があるなと。言えばいいのにってすごく思いました。プロテインのことで「成分なんて違わないだろうな」って心の中で思っていて、「変わんなくない?」って言えばいいのにと。でも、「いい意味で」とか言ってくるのが面倒くさいから心の中に留めているんだろうなとも思いました。何かと「いい意味で」って言われたら私も嫌です。
香取:監督が演出しているときに「いい意味で」って言った瞬間があって、その瞬間に2人で目を合わせて、監督に「今言ったのマジですか!?」って言ったら「あ……」って(笑)。監督自身が入っている男だから、裕次郎のことをダメって言えば言うほど、監督のことをダメって言っているみたいな。でも実際、口癖みたいです。
岸井:それで奥様に怒られているらしいです(笑)
――カッコ悪い役への挑戦は香取さんにとってどんな経験になりましたか?
香取:これまでカッコいい役や前向きな男を演じさせてもらうことが多かったですが、今回本当にダメなヤツだなって思う男だったので、苦手なお芝居だけど、これで終わりたくないので、もうちょっとちゃんとした男を演じたいなと思いました。
――お芝居に苦手意識が?
香取:お芝居は一番苦手です。歌やバラエティなどいろんなことやっている中で。ほかのものは自分で作っている部分が……絵も自分で描いていて、バラエティもスタッフと一緒に作っているところがありますが、お芝居は一番作られている中に入っていく感じがするので緊張しますし、セリフも与えられたセリフなので苦手です。でもずっとやり続けているから本当に嫌いではないんだろうなと。――苦手意識を克服したいですか?
香取:克服しようとは思ってないです。こんな苦手な僕でも声をかけてくれる人がいるならばと思ってずっとやらせてもらっています。
■香取慎吾
1977年1月31日生まれ、神奈川県出身。1991年にCDデビューし、『NHK紅白歌合戦』に23回出場。2017年9月に稲垣吾郎、草なぎ剛と「新しい地図」を立ち上げた。近年の主な出演作は、ドラマ『家族ノカタチ』(16/TBS)、『アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~』(21/テレビ東京)、『クソ野郎と美しき世界』(18)、『凪待ち』(19)など。また、スタイリスト・祐真朋樹氏と共にショップ「JANTJE_ONTEMBAAR」を展開。ルーヴル美術館で個展を開くなど、多岐にわたって活躍。NHK Eテレ『ワルイコあつまれ』、bayfm『ShinTsuyo POWER SPLASH』、ABEMA『7.2新しい別の窓』にレギュラー出演中。
■岸井ゆきの
1992年2月11日生まれ、神奈川県出身。2009年女優デビュー。2017年に『おじいちゃん、死んじゃったって。』で映画初主演を務める。2019年『愛がなんだ』で、第11回TAMA映画祭最優秀新進女優賞ならびに第43回日本アカデミー賞新人賞を獲得。そのほか近年の主な出演作は、映画『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』(21)、『やがて海へと届く』(22)、『神は見返りを求める』(22)、ドラマ『#家族募集します』(21/TBS)、『恋せぬふたり』(22/NHK)、『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』(22/日本テレビ)、『拾われた男』(ディズニープラス/NHK)など。
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