生田斗真「革命家でありたいと思っていた」 - 俳優という仕事、最新作『秘密』にこめた思いとは
●「薪剛」はなかなか感情を発散できない役
俳優・生田斗真。ジャニーズJr.として小学生の頃からTVの世界で幅広く活躍、確かなキャリアを築き、現在は日本の演劇・ドラマ・映画界を代表する存在となっている。最新作の映画『秘密 THE TOP SECRET』(8月6日公開)では、被害者の脳に残された記憶を映像化して捜査を行う近未来設定に挑み、科学警察研究所 法医第九研究室、通称「第九」の室長・薪剛を演じる。
5月に行われた完成報告会見では、「日本の映画を次に持っていく作品に」という発言も飛び出し、意気込みと自信を強く感じられた。日本の映画界や俳優という仕事への思い、映画『秘密』での役作りについて、話を伺った。
生田斗真
1984年生まれ、北海道出身。主なドラマの出演作に『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』(07・フジテレビ系)、『ハチミツとクローバー』(08・フジテレビ系)、『ウロボロス~この愛こそ、正義。』(15・TBS系)など。
映画では、初出演にして初主演を果たした『人間失格』(10年)、さらに同年に公開された『ハナミズキ』(10年)で第84回キネマ旬報ベスト・テン新人賞、第53回ブルーリボン賞新人賞を受賞。その他映画主演作として、『脳男』(13)、『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』(14)、『グラスホッパー』(15)など。
○「日本の映画を次に持っていく作品に」
――生田さんは5月に行われた『秘密』の完成報告会見で「日本の映画を次に持っていくための作品にしたい」という発言をされていましたが、どういった思いでしたか?
ああいった場にいると気持ちが大きくなってしまうので、調子に乗ったことを言ってしまいましたね(笑)。でも、本心です。なかなか他にない映画で、観たことのない作品になったと思います。ハリウッドみたいな時間とお金はかけられないかもしれないけど、僕らにしかできないことってあるだろうと思いますし。「負けないんじゃない?」と思える作品です。
僕自身も観終わった後、どう表現していいのか迷いました。
「すごいものを観た」と満足感もあるし、本当に誰かの脳を見たんじゃないかと錯覚に陥ることもできる。自信を持ってお届けできます。
――現在31歳ですが、30代になってみて、日本の映画界に対しての思いや仕事観に変化はありましたか?
まず、いただく役柄は変わってきていますね。何年か前だったら、岡田将生くんの役である青木を演じていたと思います。少し前にやった映画『グラスホッパー』では、うちの後輩の山田涼介が蝉という役を演じていましたが、こういった若い・動ける・強いみたいな役も、以前なら自分だったかもしれません。
仕事については、やっぱりどこか「先を行っていたい」という気持ちはあります。革命家でありたいという思いは、ずっとどこかに抱えています。ただ、20代の頃は勢いで駆け抜けられたものが、30代になると技術的なことや知識も要求されてきますし、しっかりとやっていきながらも、それだけじゃない多面性を持っていたいですね。
○表面はクールでも、お腹の底にマグマ
――薪は一見無表情に見えますが、中で感情が渦巻いているように感じました。演じる際にはどういったところがポイントでしたか?
薪の抱えている怒りや悲しみ、闇を全部腹の底にとどめて蓋をして、それでも溢れ出てしまう感情を切り取りたいとは、最初に監督からも言われていました。発散することがなかなかできないまま、3カ月くらい撮影していたので、しんどかったですね。かなり(笑)。
――表面的にはクールで、でも内面からじわじわと感情を見せるとなると、さじ加減が難しそうですね。
人の脳を見続けているわけですよね。だから、普通の人が見ている世界と、薪が見ている世界は全然違うものだと思うし、人間や社会に対する悲しみもきっとあるでしょう。抑えて抑えて感情を出さないように、冷静に客観的に生きてはいるんだけど、「貝沼」「鈴木」というワードが出てくるたびに心臓の鼓動が早まってくというか。
決して冷めているわけではなくて、いついかなる時でも、お腹の底では地獄みたいなマグマが沸き立っている。でも「貝沼」「鈴木」というワードが出てくると、風船に針をプスっと刺されてしまうような。そんなイメージで演じていました。
●演技は「自分を騙す」こと
○撮影中は孤独
――撮影中のできごとや撮影したシーンで、印象に残っていることはありますか?
岡田将生くんや松坂桃李くんと対峙している時は、現場も緊張感がありました。薪の中で軸になっているのは、自分が殺してしまった元相棒の鈴木と、時を経て現相棒になった、若くてイケイケな青木。その間に挟まれて、青木を鈴木のようにしたくない、と葛藤が出てくる。撮影中は常に”薪”だったし、ずっと孤独だったなと思います。仕上がりで自分以外の誰かの表情を見て「みんなすごく、薪のこと心配してくれてる!」と初めて気づきました(笑)。
岡田くん演じる青木も、怒りもありながら、薪のことを心配する優しい気持ちが見えました。
――原作の薪は中性的で美しいビジュアルとして描かれていますが、メイクや髪型など工夫されたところはあったのでしょうか?
ビジュアルイメージを大切にされる監督なので、スーツや髪型には要求がありました。「美しく、くたびれた青年でいてほしい」と言われていました。ただ、メイクはずっと任せていたので詳細はわかりません(笑)。
○演技にかける思い
――生田さんが演技をする時って、感覚的にはどういうものなんでしょうか。憑依するようなものなのか、技術的なものなのか。
すごく簡単な言い方をすると、「自分を騙す」でしょうか。「自分は薪であるんだ」と、刷り込んでいく感じですね、僕の場合は。
俳優さんによっては、自分の色を出す方もいると思いますが、僕は役に近づいていきたいですし、気持ちの上ではそう心がけています。
――もしかしたら、薪の時の生田さんと普段の生田さんの脳を見たら変わっていたりとか……。
そうですね、そこまで変わっていればいいですね(笑)。
――そういった自分を騙すような感覚は、俳優という仕事の魅力でもありますか?
やっぱり、自分じゃない誰かの人生を過ごせるのはすごく魅力的です。一度足を踏み入れてしまうと、なかなか抜け出すことができない世界だと思います。
――たとえば演技プランについて、ご自身から何か提案するようなことは。
俳優なので、言葉で言うよりも、目に見えなきゃ意味がないとは思っています。監督が言っていることや、台本に書いていることの解釈を、お芝居で出していく、といった意味での自己主張はありますね。
○観た人がぐったりする作品に!?
――今回大友監督とは初タッグになりますが、作品や現場には以前から興味をもたれていたのでしょうか?
僕たち俳優にも噂が届く、すごく興味のある監督の1人でした。作品に対する欲をすごく感じますし、ある種、傍若無人というか猪突猛進というか。ものをつくる時には様々な制約があって、その制約の中で頑張ることが多いと思いますが、そこを「俺はこれが作りたいから」と突破していく方です。それはもう、ものづくりに対する欲望だと思いますね。
――これは大友監督らしい、と思ったシーンはありますか?
人の脳内を映像化するところは、恐ろしさすら感じるくらいのリアルさだと思います。劇中にもあるけど、人の脳が見た記憶であって実際のものとは違う。壮大な景色であっても見る人にとっては地獄に見えるし、優しそうな人が鬼に見える瞬間もあるし、この映画の本質かなと思いましたね。
――エンタメ作品でありながら、人の倫理感などにうったえかける内容でもありますよね。
実際、本当にこういう世の中が来てもおかしくないところまで科学が進歩していますよね。そういう意味での問題提起もきちんとしながら、エンタテインメント作品ができたと思います。いやもう、観終えたらぐったりだと思いますよ。「時間あるから『秘密』観よう!」と思って映画館に入ったら、えらい目に合ってしまう(笑)。「すごいものを観た」という気になってくれるんじゃないかなと、期待しています。
秘密 THE TOP SECRET
死んだ人の脳をスキャンして、記憶を映像化し、難事件の謎に挑む特別捜査機関「第九」。室長の薪(生田斗真)、新人捜査官の青木(岡田将生)らに、死刑囚・露口(椎名桔平)の脳を見て、行方不明の長女・絹子(織田梨沙)を探し出すというミッションが与えられた。8月6日公開。(C)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会