ソニン、熱狂に包まれたミュージカル『キンキーブーツ』<日本人キャスト版>東京公演を振り返る
●『1789』での兄妹感はなくなった
2013年に、作品賞をはじめとしたトニー賞6部門を受賞したブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』。つぶれかけた靴工場をついだ主人公のチャーリーが、ドラァグクイーンのためのセクシーなブーツを作ることで工場の再生を図るストーリーだ。7月から始まった日本人キャスト公演では、チャーリー役に小池徹平をむかえ、ローラ役の三浦春馬による女装+ハイヒールのパフォーマンスも大きく話題となった。
ヒロインのローレン役を務めるのは、ドラマ・映画・舞台と幅広く活躍し、4月には菊田一夫演劇賞を受賞したばかりのソニン。東京公演をいったん終え、今後大阪公演、東京凱旋公演を控えるなかで、実際にステージに立った感想、作品に感じる力について話を伺った。
○日本じゃないみたいな盛り上がり
――実際に東京公演の幕が開きましたが、反応などを見ていかがでしょうか?
お客さんの反応がすごく良くてびっくりしています。ブロードウェイスタッフも、たくさん騒いでほしいという思いがあったみたいで。私達は「日本人の観客の方はシャイだからなあ」とちょっと心配していましたが、初日から、盛り上がりがすごいことになっちゃいました(笑)。
――日本人の舞台じゃないみたいですね。客席の反応を引き出したのはどういう点だったと思いますか。
やっぱり、ドラァグクイーンの派手さが火付け役になっている感じはありますね。観てる方もちょっと外国にいる気分というか、日本で日本人が演じている作品の感覚ではないみたいです。
セットも、細部に至るところまですべて海外仕様ですし、ステージも日本では細かくバミリ(ステージ上の人の位置を表す目印)をつけるのですが、今回は最低限しか貼ってありません。もしかしたら、そういう要素も無意識に働いているのかもしれません。位置の指定自体はめちゃくちゃ細かいので、私たちにとっては大変なんですけど(笑)。
○熱い2人を見守る
――5月まで出演されていた舞台『1789』では小池さんと兄妹役でしたが、今回は恋をすることになって、違和感などはありませんでしたか?
稽古に入ったら自然と『1789』の兄妹感はなくなっていました。
『1789』で初めて会った時から人間同士として気が合う仲でしたので、兄妹の関係で絆を強く結んだというわけではないんです(笑)。観ていて「兄妹だったのに!」と思う方は多いみたいです。
幼なじみ設定の役で、観ている方からは「『チャーリーはニコラじゃなくて、ローレンと付き合った方がしっくりくるんじゃない?』と思われるといいよね」と、日本版演出協力の岸谷五朗さんに言われていたんですが、続けて共演したのもあってか、そこは自然とそういう空気になれたんじゃないかと思います。
――三浦春馬さんとはいかがですか?
初共演なんです。でも、ちょこちょこ作品を観に行ったり、逆に私の出演作を観に来てくれたりしていたので、顔合わせも緊張しませんでした。『1789』も観に来てくれて、3人で食事会も開いたんですよ。
稽古をする前は器用な方なんじゃないかと予想していたんですが、こんなに人間くさくて親しみやすい人だとは! 努力家だし、稽古も真摯に取り組んでるし、謙虚だし、めちゃくちゃ好感を持ちました。
――稽古場取材時の会見では、「小池さんと三浦さんが熱く語っているのを見守っている」というお話もありましたね。
そんなこともありました。熱く語ってる内容によっては、私は「ここは入らないほうがいいな」と見ています。2人だけの関係性も必要ですので、一応、お姉さんとして、全部把握はしておいて、「何の話してるのかな? うん、OKOK」と(笑)
●気持ちが入りすぎて起こったハプニング
○腕が試されるコメディシーン
――実際にソニンさんが作品に参加していて、好きなシーンを教えて下さい。ご自身のシーンでも、出ていないシーンでも。
もう、今考えただけでも泣きそうなんですけど、チャーリーがニコラと揉めて、ローラとも揉めて、周りも離れていって1人になって、ローレンの励ましがあって、ローラの事情もあって、クライマックスにむかう……一連の流れが30分くらいあるんですけど、全部がもう、たまらない。2幕はそこって言ってもいいくらい、あの流れが私はたまらなくて。父との問題を抱えたチャーリーとローラが、問題に向き合わなきゃいけないシーンでもあると思うので、すごく泣いてしまうところです。
――ローレン自身も、お父さんを失ったときの後悔を告白するシーンが含まれていますよね。
私は、あそこにローレンとしてチャーリーを励ましに行けることがすごく光栄で、この役をやってて良かったと思えます。共に父を亡くして、初めて味わう辛さや見失い気づくものをシェアできるのは、ローレンだけなので。――逆に、ここは難しかった……というシーンはありますか?
1幕でローレンが初めてローラと会うシーンです。3人とも全然キャラクターが違うし、コメディ要素も見せなければいけないし、ここで見せたい関係性もあるし。実は難しいシーンで、3人で話し合いながら何回も練習しました。未だにあのシーンは緊張しますね。
技術と感情と、自分のキャラクターをちゃんと確立していないと成立しないシーンで、コメディって偶然の産物ではないので、腕がないと成立しないんだと、今回改めて思いました。
――意外なシーンでした! ソニンさんソロの「The History of Wrong Guys」も、キュートだけどコメディ要素も入ったシーンという印象です。
実は、ブロードウェイのマニュアルで、動きも歌のニュアンスも決まっているんです(笑)。でも、日本人も楽しめつつ、ブロードウェイの要素も壊さないように、こだわりました。全シーンに言えることですが、岸谷五朗さんが入ってくださっていて、日本人だけの稽古の時間もあったのは良かったですね。
○他人を理解する愛情を持つこと
――たとえば、幕が開いてからのハプニングなどはありましたか?
それこそ、「The History of Wrong Guys」エアーダスターのシーンで、髪がなびかなかったことがありました(笑)。あれ、実はすっごく難しくて! ウィッグだし、自分では髪がなびいたかどうかわからないんですよ。
「練習しろ練習しろ」と言われて練習して、うまくやれていたんですけど、公演がすすむごとに気合いが入りすぎちゃって……気持ちよくやっていたら、全然なびいていなかったみたいです(笑)。「今日なびいてなかった」と言われて、ショックすぎました。"No 風,NO ローレン"というくらいに思っているので。
――冷静な方がうまくいくシーンだったんですね。
冷静にエアーダスターの矛先を定めつつ、テンションは高め、がコツです。あと、これは世界の全ローレン共通らしいのですが、風をあてているとすごい音だから、お客さんの反応の声も聴こえないんです。なびいていなかった日も、風を浴びているだけで、お客さんに笑っていただけていたらしいんですよ。
――近年はこの『キンキーブーツ』のように、個性を尊重するメッセージのこめられた作品が求められているのかな、と感じますが、実際に演じられていていかがでしょうか?
私はこの作品の「他人をありのまま受け入れる」というメッセージが好きで、自分のモットーでもあります。他人は自分の常識と別の枠からくるので、拒絶反応が起きることは絶対あると思うんです。ただ、理解する愛情を持つことが世の中には絶対必要で。そうじゃないととんでもないことになるし、そういった兆候もあるからこそ、このメッセージが響いているんじゃないかと思います。
自分の個性を大事にしつつも他人を理解する心が、今の世の中にすごく大切だと感じますし、そうでありたいと、私もずっと思っています。本当に好きなテーマです。
ブロードウェイミュージカル 『キンキーブーツ』
大阪公演:8月13日~22日 オリックス劇場
凱旋公演:8月28日~9月4日 東急シアターオーブ
脚本:ハーヴェイ・ファイアスタイン
音楽・作詞:シンディ・ローパー
演出・振付:ジェリー・ミッチェル
日本版演出協力・上演台本:岸谷五朗
訳詞:森雪之丞
出演:小池徹平、三浦春馬、ソニン、玉置成実、勝矢、ひのあらた ほか
ブロードウェイ・ミュージカル 『キンキーブーツ』<来日版>
東京公演:10月5日~30日 東急シアターオーブ
大阪公演:11月2日~6日 オリックス劇場
脚本:ハーヴェイ・ファイアスタイン
音楽・作詞:シンディ・ローパー
演出・振付:ジェリー・ミッチェル
出演:J.ハリソン・ジー、アダム・カプラン、 ティファニー・エンゲン、アーロン・ウォルポール ほか