THIS IS パン「新しい男女コンビの形を見せられたら」 M-1への思いも語る
●M-1で狙うは「一番いい形」 コンビの認知拡大目指す
2017年の『M-1グランプリ』をきっかけにユニットとして活動を始め、同年、正式にコンビを結成したTHIS IS パン(岡下雅典、吉田結衣)。『M-1』上位進出を狙い毎年挑戦している2人は、今月13日に準々決勝に挑む。9月末から放送がスタートした文化放送のラジオ番組『おいでよ!青春る』にレギュラー出演するなど、ブレイク候補に名が挙がる2人に、『M-1』への思いやコンビの持ち味、今後の目標など話を聞いた。
――お二人は『M-1』に向けてユニットを組んだことがきっかけでコンビを組んだそうですが、そのときのどんな気持ちでしたか?
吉田:ワクワクしました。私は1年くらいピンでやっていたので、やっと漫才できるんやと。もともと私はツッコミの体質なのでボケるということがよくわからない。それを任せられる人間ができたのはほんまに良かったです。助かりました。
岡下:僕は以前、同級生とコンビで10年やっていて、彼と漫才やめるなら芸人やめるか、漫才を一生やらないと心のどこかで思っていました。でもありがたいことに、周りのみんなが「やめるな」と言ってくれた。「もうちょっと続けよう」と思った矢先、吉田さんが誘ってくれて、「もう1回漫才できるんや!」という気持ちが強かったです。僕もめっちゃうれしかったです。
――結成から約5年経ちました。ここまで組んできていかがですか?
吉田:漫才ができる楽しさは変わっていませんが、『M-1』に関しては苦しい5年はありました。準々決勝とか大事なところでつまずいているので、早く一番いい形で『M-1』から開放されたいです。
――念のため確認ですが「一番いい形」とは?
吉田:そんなん言わせます(笑)? 優勝が一番です。
岡下:オードリーさんみたいに、2位になってハネるのもいいですね。
吉田:それでもいい! 決勝で活躍して世間に認知されるのが目標です。
岡下:僕も一緒です。東京に来て、漫才以外にもいろんなお仕事があるなと思いました。『M-1』をきっかけにいろんなことをしたいですね。ただやっぱり、僕らが世に出るためのきっかけ、手段は『M-1』が一番早いと思います。
――そのために駆使するTHIS IS パンのお笑いの武器、強みとは?
岡下:男女のコンビで決勝に行ったのはメイプル超合金さんなど数組います。ただそのなかで、がっちり関西のツッコミができる男女コンビはいないと思います。
新しい男女コンビの形を見せられたらと思います。
吉田:相方はすっごく動いて、周りの男芸人さんはすっごく笑うんです。「あれが岡下さんの色ですよね~、めっちゃ好きです」とよく言ってもらいます。ほんまに小学生の男の子が笑うようなことをずっとやっていて、大人になっても全力でやっているのがこの人の良さですし、特化している部分だと思います。それが楽しく全力でできたらうれしいです。
――結成当時からそうでしたか?
吉田:当時はあまり動いてなかったと思います。でももう、止まるのが無理なんでしょうね。以前、即興漫才でしゃべくりをやることになったとき、何もできなかったんです。
岡下:動くネタばっかり考えていますね。逆に相方は動かない。静と動です。
吉田:私がしゃべくりのネタを考えたことがあるんですけど、それが全然楽しそうじゃなくて(笑)
岡下:止まったら死ぬ(笑)
吉田:同じ方向にばっかり動いています(笑)
――課題に感じていることはありますか?
岡下:僕よりも、相方の認知度が上がれば上がるほど、僕らのネタってウケると思います。「冷たい言い方するけど愛がある」みたいな。お客さんの間で相方の認知が広まって「待ってました! もっとキツいこと言っちゃえ!」という状態になれば、もっとウケると思います。この人が売れたら僕はもっとバカにされる。関係性としてはそれがめちゃくちゃいい。
吉田:『M-1』の大事なところでつまずかない。それだけですね。余裕で乗り越えていけるようになれば自信もつくと思うし、ネタにも反映されると思います。自分たちのネタが信頼されている、と実感できるかどうかですかね。
――相方に感じる魅力は?
吉田:明るい! 声が大きい! 靴が好き(笑)! 明るい、というのはほんまに思います。私にはない。みんなと喋る。誰とでも仲良くできる。
それが平場でも出ている。尊敬できますし、私ができないことをやってくれてありがたいです。ほんまに助かっています。
岡下:僕、いろんな芸人さんと飲みに行きますが、吉田ちゃんのことを悪く言う人はいないですね。「ほんまにツッコミうまいっすよね!」とかよく聞きますし、そこはコンビとして誇れます。相方のツッコミに助けられています。
――お二人とも、過去に別のコンビを組んだ経験があります。その経験を生かして、今のコンビで大切にしていることや意識していることはありますか?
岡下:以前のコンビはちょっと不器用でした。
「こんなことやってほしい」とか求めちゃう。今はそういうことを求めなくなりましたね。どうぞ好きにやってください、という感じにはなったかもしれません。
吉田:単純に年を取ったというのもあると思いますが、お笑いに関しては相方を信頼するようになりました。前のコンビは仲が悪い時期もあっていちいち目くじら立てていましたが、そういうのはなくなりました。好きに自由にやってくれたら、という信頼があります。
――では、ケンカや解散危機はない?
岡下:ネタのやり取りは「こっちのほうがいいんじゃない?」とか話し合うとき多少口は悪くなるかもしれないですけど、それはケンカではない。険悪なケンカは一度もないですね。
●2時間生放送に「へとへと」も高校生との共演に刺激
――9月からレギュラーラジオ『おいでよ!青春る』(2023年3月まで期間限定)がスタートしましたが、出演が決まったときの心境を教えてください。
吉田結衣:ちょうど「ラジオしたいな~!」と話していたときに舞い込んできた話だったのですごくうれしかったです。19時から21時まで2時間生放送。とんでもない経験をさせてもらっていて毎週楽しいです。
――2時間は大変じゃないですか?
吉田:はい、大変です(即答)! ほんと~に! へとへとです。
岡下雅典:フリートークがすごく長いわけではないですが、「こういう話をしようかな」というのは毎週用意しています。「これラジオでしゃべれるかも」と日々考えるようになりましたね。
――この番組の特色のひとつが高校生との共演があると。そのあたりはいかがですか?
吉田:私は優しくしゃべるように気をつけています。芸人としゃべっているこのトーン、スピードでしゃべると怖いと思うので。優しく「うん、うん!」みたいなことは心がけています。
――学校の先生みたいですね。
吉田:そうですね、できるだけ「なんやねん!」とか言わないようにしています。
岡下:学園祭とかで、高校生を舞台にあげてイジったりするとウケる感触はありました。でも2時間ガッツリとなると、ずっとイジっているわけにもいかない(笑)。そこは難しいですね。相手は素人ですから、キツく言うと傷ついてしまうかもって、そこは考えます。関西弁は確かに僕も言わないようにしています。
――世代間ギャップは感じますか?
岡下:感じることしかないですね(笑)。
吉田:この間も『I’ll』(バスケットボール漫画)とか『ビーチボーイズ』(反町隆史と竹野内豊がダブル主演を務めたドラマ)とか知らなくて……知らんときは「知らん」も言ってくれない(笑)。「あぁ~」みたいな。気を使わせている感じが切なくなるときはありますね。
岡下:びっくりしますね。「お笑い芸人やりたい」と言ってる子が『M-1』見てなかったりする。すごい時代が来るかもねと思いました。
――とても大変さが伝わりましたが、逆にプラスに感じることは?
吉田:シンプルに、若い子とお話しできて、どういうことに興味があるのか知ることができる。今のところ出演してくれる子がみんなピュアでいい子ばかりで、心洗われる2時間です。
岡下:僕は「それどういうことなの?」と人の話を深堀りしていくのが好きなので楽しいです。今流行ってるアニメとか音楽とか知れていいですね。彼らがラジオでかけたい曲を毎回3曲くらい持ってきてもらっていますが、1曲もわからない。だから新鮮です!
●コンビ間の恋愛は?芸人を目指したきっかけも語る
――話が変わりますが、吉本の先輩など、影響を受けた人はいますか?
吉田:最近でいうと、アインシュタインの河井ゆずるさんにすごくよくしていただいていて、飲みに連れて行ってもらって仕事の相談をすると「お前らは大丈夫や」みたいな一言をくれるのがすごくありがたいです。ゆずるさんに限らず、そう言ってくれる人がいて、吉本の先輩めっちゃ優しいなと思います。あとは、『めちゃイケ』(『めちゃ×2イケてるッ!』)に影響を受けてお笑いの世界を志しました。
――『めちゃイケ』のどんなところに影響を?
吉田:シンプルにかっこいいなと思ったんです。私は学校でも地味で目立たなかったですが、『めちゃイケ』みたいな華やかな世界に憧れていました。『めちゃイケ』を見ながら「なんでこの人たちは自分たち中心の世界があるんだろ?」と漠然と思って。それが徐々にお笑いとして理解するようになって、好きな仲間とそういうことができる世界はめっちゃいいな、というのがこの道を目指すきっかけになりました。岡下:僕は大阪にいた頃、共演者が先輩芸人さんばかりの舞台でなかなか前に出られない時期が続きました。その先輩らが卒業するときに、ある人に「岡下は次のトキさんにならなあかんで」と言われたんです。藤崎マーケットのトキさんのことで、トキさんは平場もネタもめちゃくちゃ面白い。そのトキさんにならなあかんと言われてそこから「何でも一番をとりにいく」というルールを決めました。企画コーナーでも真っ先に手を挙げるようにしたら、平場でも前に出られるようになりました。トキさんはすごく意識していました。
――岡下さんが学生時代に影響を受けた番組は?
岡下:僕は、大阪で深夜にやっていた『吉本超合金』というバラエティです。FUJIWARAさんと2丁拳銃さんがやっていてめっちゃ人気番組で、放送当時、僕はまだ小学生5~6年生でした。兄貴がずっと録画していて、それを見てこの世界に入りたいと思いましたね。
――これから、というお二人ですが今後はどうなっていきたいですか?
岡下:この先、どれだけいろんなテレビ番組に出られるようになったとしても、漫才はやめたくないです。いつでも劇場には立ちたいです。
吉田:そうですね。この先バラエティとかいろんなチャンスがあるかもしれないですけど、まず一芸がないと、そっちもできない。軸のものは日々ちゃんと磨かないといけないとお互いの認識があります。その上で、映画に出てみたいです。せっかく芸能界に入ったんだから、特別なことをしたいです。
――映画とは例えばどのようなものに?
吉田:アクション映画です(即答)
岡下:絶対無理やん(笑)
吉田:装甲車に乗ってビル突っ込みたい。できれば『ワイルド・スピード』シリーズに出演したいですけど、おそらく次で終わっちゃうのでそれはムリで……でもドウェイン・ジョンソンと共演したいです。
――もう1つ質問させてください。世間的には男女のコンビというと恋愛感情が芽生えないのか……? と思うこともあると思います。そのあたりは、今後の可能性も含めていかがでしょうか?
岡下:これ、久しぶりに聞かれたな! コンビ結成のときよく聞かれましたね。最初は「絶対聞かれるから、返答考えておいたほうがいいよ」とよくアドバイスされました。
吉田:ほんまにないですし、相席スタートの山崎ケイちゃんに言われたのは、「男女コンビは、普通はちょっと、ぽくてもいい」と。例えば後輩の世間知らズとかは仲がすごくいいから、もしかしたらお互いほんまに可能性ゼロではないのか? と匂わせる。ケイちゃんは「THIS パンだけは何の匂いもしない。こんなドライなビジネスパートナー見たことない」と言っていました(笑)。
岡下:楽屋でも全然しゃべらないんですよ。僕が「ウェ~イ!」と騒いでいるのを、相方がチッ! と舌打ちしながら見ているのを周りも見ている(笑)
吉田:だから恋愛とかそういうの聞かれなくなりました。
――今後、『M-1』で上位進出して脚光を浴びたら、改めて聞かれるかもしれないですよ。
吉田:上位進出したら俳優とか行きます(即答)
岡下:おのおの。狙いをさだめて散ります(笑)!
■THIS IS パン
岡下雅典(1986年8月13日生まれ、大阪府出身)と吉田結衣(1989年3月17日生まれ、大阪府出身)によるお笑いコンビ。吉本興業所属。それぞれ別のコンビを組んでいたが、2人とも2017年に解散。同年、『M-1グランプリ』をきっかけにユニット「THIS IS パン」を組み、3回戦進出。同年12月に正式にコンビを結成した。2018年4月より大阪から東京に進出し、現在は東京を拠点に活動している。