高橋メアリージュン、『闇金ウシジマくん』凶暴闇金・犀原茜の怪演記録と別れ - 第1回「私の中で生き続けている」
●七味をぶっかけ火をつける
『闇金ウシジマくん』の実写シリーズ完結が発表され、「犀原茜にまた会える!」という高揚感の後に襲ってきたのは「犀原茜にもう2度と会えなくなる」という喪失感だった。今から2年前、犀原茜は映画『闇金ウシジマくん Part2』のオリジナルキャラとして誕生した。山田孝之演じる丑嶋馨のライバルで、闇金融・ライノーローンの女経営者。部下でドMの村井(マキタスポーツ)をどつき回しながら、サディスティックな暴力と奇声で債務者たちを追い込み、容赦なく金をむしりとっていく。
山田が築き上げてきた丑嶋の迫力に対抗できる女優は一体誰なのか。キャスティングが難航する中、犀原茜が舞い降りたのはPart2でラストシーンの撮影が行われていたロケ場所近くの公園だった。合間に行われたオーディションで、高橋メアリージュン(28)は行き交う人が振り向くほどの怪演を見せ、山口雅俊監督の心をつかむ。
2010年にスタートし、ドラマ『闇金ウシジマくん Season3』(7月18日~9月19日MBS・TBSほか)を経て、『闇金ウシジマくん Part3』(公開中)、『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』(10月22日公開)の2部作連続公開でフィナーレを迎える人気シリーズ。
個性的なキャラクターたちの中で犀原ファンも多く、高橋のもとには熱いメッセージやイラストなども数多く寄せられているという。最近、「今」を記憶にとどめるために日記を書き始めたという高橋。マイナビニュースでは、彼女の言葉と共に犀原茜の周辺の声を数回にわたって記録していく。
――犀原茜を演じたのは今から約2年前。役柄にはすぐに戻れるものですか?
茜の衣装を着た時に気持ちがスッと入り込めました。あとは、カカトを踏んで靴をはいたりすると、ガニ股で歩くようなしぐさも自然とできるようになるんです。茜以降、いろいろな役を演じさせていただいたので、違うエッセンスが入ってしまわないか心配でしたが、前作では言ったことがないセリフや見せたことがない表情に挑戦することは楽しみ……でも、やっぱり不安もあったと思います(笑)。それらすべてが、「犀原茜」になってしまうので。
――前作ではゼロから作り上げていった役でしたが、今回はその自ら作り出した役がベースに。
「犀原茜」というキャラクターを、監督含め、大切に思ってくださっている方がたくさんいらっしゃるので、皆さんをがっかりさせたくない気持ちがとっても強くて。「ベースは崩さないように」を心がけ、レベルアップの方の変化を意識していました。
――これだけの期間を空けて同じ役を演じたことは?
初めてです。(脚)本を読んだ時に「茜ってこんなこと言うのかな」と感じた時があって、現場に行ったらやっぱり監督も同じようなことをおっしゃっていたことがありました。そんな時はセリフが急きょ変更になったりもします。他の人のセリフが、茜のセリフになったこともありました。そのあたりの違和感というか感じていたことが監督と重なっていたので、それはとてもうれしかったです。
――前作で山口雅俊監督に抜てきされて以降、たくさんの作品に出演されました。あらためて監督作に出演し、求められるレベルが高くなったなど変化はありましたか?
私が出演した舞台を観に来ていただいて、あとで連絡をいただいたのですが、「お前はまだビギナーだからな」と。素直にそう思ったので、「もちろんです。がんばります」と返しました。監督は、私が調子に乗らないようにそうやって釘を刺してくださるんです。ほめてくれる方が多い中、締めてくれる方もいるのはありがたいことだと思います。
――しかし、経験を積んだ分、磨かれている部分もあるのでは?
どうなんでしょう。「初心忘るべからず」は変わらず思い続けていることですが、よく「真面目すぎる」と言われるので、もっと自由に”遊ぶ演技”ができればいいなと思います。
真面目な部分も大切だと思いますが、「監督が言ったからこうしよう」みたいなところがどうしてもあって。先輩方は、現場で監督と駆け引きしていたりするので、いつも反省しています。
――今回、そんな場面は?
茜は自由にというか。これが茜っぽいだろうなという振る舞いに自然となるんだと思います。例えば、ドラマの中でJPという登場人物が食べているそばに七味を入れてあげるシーンがあって。
――あら。茜さん、めずらしく優しいですね。
ええ(笑)。
本番で七味の蓋を外して、全部ドバッと入れたんです。
――あー、やっぱり……(笑)。
一発OKでした。
○凶暴キャラの撮影秘話
――犀原の部下・村井を演じるマキタスポーツさんとは、映画『みんな!エスパーだよ!』(15年)以来でしたね。唯一、わきあいあいとお話しできる相手というか。ピリッとしたシーンが多いと入り込んでしまうのですが、マキタさんとご一緒する時は結構お話します。あるシーンで、私が債務者のお弁当にお箸を突き刺したんです。あまり縁起良くないことなんですけど……。
そういう時に、マキタさんはさり気なく抜いてくれる(笑)。たとえ本番のアドリブがあっても、こんな感じでお芝居の中でのコミュニケーションを成立させてくださいます。
――過激な場面といえば、映画の中では河川敷でオリエンタルラジオの藤森慎吾さんに火をつけるシーンもありましたね……めちゃくちゃ怖かったです。本当につけてるんですよね?
はい(笑)。実際に火を付けた相手は、アクション部の方でしたけど。
●役者にとっての「うまい演技」とは?
――人に火をつけたのは初めてですか?
もちろんです(笑)!
――いや、全然躊躇してなかったので(笑)。
すごく怖かったです(笑)。秋口ぐらいの撮影で、ちょっと肌寒かったと思います。
火をつける部分は、安全面を考慮して事前に何度も確認をしました。結構撮り直したと思います。せっかく火をつけても、風で消えてしまうこともありました。
――そんな凶暴な役ですが、なぜか犀原茜のファンは多い。実感することはありましたか?
前作からツイッターなどでたくさんのコメントをいただきました。もともと私のファンで「茜を演じているメアちゃんが一番好き」とおっしゃる方。これは褒められているのかディスられているのか分かりませんが、「あなたにはあまり興味ないですけど、茜は大好きです」みたいな声もいただきました(笑)。
――複雑ですね(笑)。ファンの方から寄せられた犀原イラストをブログで紹介されていましたね。
実はまだ載せられてないものもたくさんあるんです。本当にたくさんいただきました。特にリクエストしたわけではないんですが、自然と描いてくださるかたが増えて……役者として本当にうれしいです。
――抽象的な質問で恐縮ですが、高橋さんにとって「犀原茜」はどんな存在ですか?
どういう存在……うーん……正直、演じていていちばん楽しいですね。茜を作り上げていく中で監督が「犀原は涙の味がするご飯を食べた経験がある」とおっしゃっていて、自分の気持ちとつながりました。そういうご飯を食べたことある人はたくさんいると思うんですけど、そういう感覚的なことも思い出させてくれる。本当に感謝です。
――「演技がうまい」ってどういうことなんでしょうね。犀原茜を見ていて、いつも感じます。
あー。「うまい」って嫌ですよね(笑)。たぶん、いかにうまくやらないかが大切なんだと思います。そこでその役が生きているというのが大事なんじゃないでしょうか。「うまい」が人に伝わったら、それはあまり良くないことのような気がします。
監督とは声のボリュームどうしましょうとか細かいやりとりもありますが、「茜はここでアメを食べるだろうな」とか想像してやらせていただくことが多いです。「去り際に食べるだろうな」とふと思いついたことを、その直後に監督が言ってくださったり。内心では「えっ! わたし、思ってた!」って。口に出しては言わないですけど。
――それは言ってもいいんじゃないですか?
ホンマですか(笑)。でも、演出とか考えてしまって、生意気とか思われないかなって……。そういう考えが一致していたのはすごくうれしいです。
――ただ、もう2度と犀原茜を演じることはできません。今はどんな気持ちですか? 達成感、高揚感、喪失感。いろいろな感情があると思います。
撮影は終わったんですけど、何か終わった気がしない。たぶん、公開されてないのもあると思うんですけど(取材日は公開前)。みなさんの反応によってそのあたりの気持ちをも変わってきそうですが……何となく私の中で茜は生き続けています。
○日記を再開した理由
――日記を書き始めたそうですね。「最近は忙しさのせいにして書けていなかった。大人になればなるほど時間が経つのが早く感じて」とブログに書かれていました(2015年12月30日付け)。
いま書いています。忙しくなると、なんだかこうファーッと過ぎていく感じで。かたまりの層があったとして、真ん中とか上でサーッと。ある日、仕事が終わって、友だちが大人数集まっている中でボーッとしていた時に、「この瞬間を、私はいつまで覚えているんだろう?」って思ったんです。何年後か、この瞬間を忘れているんじゃないかなって。そう思った時に怖くなって。今生きているのに、それが忘れてなかったことになる。すごく怖くなりました。
――そういうふとしたことって突然なんですね。
突然、来ました(笑)。忙しすぎると、それを考える余裕もなかったんだと思います。それで日記を書こうと。以前も書いていたのですが、忙しくなってやめてしまいました。十代のころは歌手を目指していたので、作詞も兼ねて書いていたんです。今はその日起こった出来事を書いています。大きな出来事をメインに、印象的だったこととか。
――書くことといえば、分刻みのスケジュールを組んでいたことがネット上でも話題になりました(2016年5月18日放送・フジテレビ系『モシモノふたり』で渡辺裕太と2泊3日の同居生活)。もっと大きな単位……月、年単位での計画は?
年単位でも決める時は決めます。3年後を見据えて、逆算して目標を立てることが多いです。1年単位でも考えたことあるんですけど、ペースが早すぎてなかなか実現することが難しくて(笑)。
――3年後の計画は秘密にしておいたほうがいいんですかね?
そうですね(笑)。かなったら言うタイプなので(笑)。
■プロフィール
高橋メアリージュン
1987年11月8日生まれ。滋賀県出身。2004年からファッション誌『CanCam』(小学館)の専属モデルとして活躍。2012年に同誌を卒業し、同年のNHK連続テレビ小説『純と愛』の狩野マリヤ役に抜てきされ、女優デビュー。『闇金ウシジマくん Part2』(14年)、『るろうに剣心 京都大火編 / 伝説の最期編』(14年)、『キカイダー REBOOT』(14年)、『リアル鬼ごっこ』(15年)、『ヒロイン失格』(15年)、『みんな! エスパーだよ!』(15年)、『復讐したい』(16年)、『シマウマ』(16年)、『ホーンテッド・キャンパス』(16年)などの映画に出演。
(C)2016真鍋昌平・小学館/「闇金ウシジマくん3」製作委員会・MBS
(C)2016真鍋昌平・小学館/映画「闇金ウシジマくん3」製作委員会