テレビ屋の声 - 第12回 日テレ『しゃべくり007』演出・藤森真実氏、打ち合わせ"ほぼ無し"の収録は「いい緊張感」
●7人は本当に番組のことを考えてくれている
注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて"テレビ屋"と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。
今回の"テレビ屋"は、日本テレビのバラエティ番組『しゃべくり007』演出の藤森真実氏。当連載12回目にして初の女性スタッフだが、番組制作において女性目線は意識せず、収録現場の"笑いの臨場感"を大事にして編集しているという――。
――当連載に前回登場した『マツコの知らない世界』(TBS)の坂田栄治プロデューサーが、女性として意識して演出している部分はあるのかと疑問に思われ、今回藤森さんの名前を挙げられました。くりぃむしちゅーの有田哲平さんが『しゃべくり007』で、OAで切られると思っていた部分が使われて注意しようと思ったら、その回の視聴率が良くて「すごいな」と評価されていたそうです。
この仕事をしていて、いろいろな人に女性目線があるのか?と聞かれるんですが、私の中であんまりそういうのはなくて、『しゃべくり』でも、自分の演出としての基準を元にやっていますね。一番大事にしているのは、収録でのメンバー7人とゲストのやり取り、笑いの臨場感を崩さずに視聴者に伝わるようにするということ。これを意識して編集していますが、"女性目線"というのは特に考えていないです。
――有田さんが使わないだろうと思っていた部分は、まさにスタジオが盛り上がっていた臨場感を伝えたということなんですね。
そうですね。素直に自分がすごく面白かったから、やっぱり使いたいし、視聴者の人に見てもらいたいと思ったという感じですね。
――OAの演出や編集などについて、出演者とお話されることはあるのですか?
『しゃべくり』は月曜OAで、その次の日の火曜が収録なんです。だから、いつもうれしいことに、私のところに来て「あれ使ってたね」とか「あれを切ったのはどうして?」と聞かれるので、緊張感を持って編集しています。演出として演者の声によってブレてはいけないということもあるんですけど、そういう生の声を直に聞けてコミュニケーションが取れるので、いい意味で刺激を持って編集してますね。特に有田さんは、よく感想を伝えてくれるんですよ。
――7人以外の芸人さんとお仕事される機会もあると思いますが、『しゃべくり』メンバーは、よく感想を伝えてくれる方ですか?
いろんな方とご一緒させていただいてますが、あんまり「あの部分を使ってくれた」といったことは言わない人が多いです。
あの7人は本当に番組のことを考えてくれてるんだなというのが、ひしひしと伝わってくるので、もちろん第一には視聴者に向けてですが、7人に対しても恥ずかしいものは作れないなということは、本当に常々思っています。
――『しゃべくり007』では、レギュラー7人に事前にゲストを知らせていませんが、本番前の打ち合わせはどのようにしているんですか?
実は打ち合わせはほとんどしていないんです。「ゲストが来ます、なにか企画をやります、なんか食べますよ」っていうくらい(笑)。本番では急にミニコントや天丼のやり取りが始まったりしますけど、本当に何も知らされていない7人がその場で展開していく笑いなので、いつも収録の時は「今日何が起こるんだろう」と思いながら臨んでいます。
もちろん、スタッフ側でこのゲストが来たときに視聴者が何を見たいのかを意識した企画の軸は作っておきますが、あとは7人に自由にやってもらっているので、こういういい緊張感を持って毎回収録に臨めているのは、なかなか独特な番組だと思います。
――OA上では、ゲストの登場前に、スタッフの方のカンペで誰が来るのかのヒントを出していますが、このヒントも7人にとってはあのタイミングで知る情報なんですか?
そうです、あれが最初です。だから、いつも不安と楽しみという雰囲気が漂っていますね。
――くりぃむの上田さんは、企画の仕切りもよくやられますよね。
それでも、事前に打ち合わせをしないんですか?
はい。その場でカンペを見て、本番中に対応されているんです。それで天才的な仕切りをしてくれているので、本当にありがたいですね。
●笑いのチームワークをいかにうまく届けられるか
――『しゃべくり』には立ち上げのときにADとして携わられ、その後『メレンゲの気持ち』の演出もされて、今年の6月に『しゃべくり』に演出として戻られたそうですが、『メレンゲ』で培ったものを、『しゃべくり』で生かしている部分はありますか?
『メレンゲ』もMCが多い番組で、今は4人いるんです。そうすると、もちろんゲストをどう面白く見せるかというのも大事なんですけど、番組にとっていかにMCを魅力的に見せられるか、この人が聞くと好感が持てると思ってもらえることは、結構大事なんだなと勉強になりました。『しゃべくり』は7人なので、もちろんゲストをいかに面白くするかは当然なんですが、7人をどう面白く、魅力的に見せるのかというのは大事にしていますね。
――逆に『しゃべくり』で守っていかなければと意識している部分はどんなところでしょうか?
7人のしゃべりのプロが、長年やってきている番組なので、視聴者の方にその笑いのチームワークをいかにうまく届けられるかというのは、編集で気をつけていることですね。その中でも、視聴者がゲストの何を見たいのか、聞きたいのかという目線をちゃんと持つことは、企画を考えるときに大事にしていることです。
――さきほど「臨場感」を大事にしているという話がありましたが、収録が盛り上がって予定時間が伸びても、あまりスタッフ側で制御しないんですか?
ゲストのスケジュールによって4本撮りのときもあるんですが、昼前から回して夜遅くになるときもありますし、30分の放送尺で60分回す予定だったのが、結果1時間半になることもあります。ただ、盛り上がっているところを途中で切ることはできないので、そのあたりも7人に塩梅(あんばい)を任せてますね。
――ゲストにはバラエティにめったに出られない俳優や女優さんもいますが、あの7人の"猛獣"の中に入って、結構過激な質問もありますよね。皆さんどんな感想を話されていますか?
皆さん「楽しかった」と言って帰られる方が多いので、こっちもうれしいですし、意外と『しゃべくり』に出たかったんだという方もいますね。過激な質問もありますが、なんだかんだであの7人がすごく優しくてうまくフォローしているので、それがゲストの方たちにも伝わってるんだなと思いますね。
――その7人・3組の魅力を、あらためてお伺いしたいのですが、ネプチューンさんはいかがですか?
ネプさんは、ホリケンさんが自由奔放で、それを名倉さんが怒りというツッコミで盛り上げ、泰造さんはボケてスベっても笑いにできるっていう、女子にも好きな笑いにしてくれるので、3人はすごくバランスが取れていると思いますね。
――くりぃむしちゅーさんはどうでしょう?
上田さんには仕切っていただくことが多いので、私にとって尊敬して信頼を寄せている方ですね。本当にうまくボケてツッコんで進行してくださるので、安心して番組ができます。
有田さんは、番組で最初の笑いの火をつける役を担ってくれますし、どんなトークが飛んできても瞬発力で笑いにする力がすごいですよね。そしてもちろん笑いに対してすごく貪欲な方なので、番組についてもよく考えてくださっていて、私ももっと番組作りを頑張らなきゃといつも刺激を受けています。
――有田さんは、よくOA後の感想を伝えてくれるとおっしゃっていましたもんね。最後にチュートリアルさんはいかがでしょうか?
徳井さんにも企画を背負って担当していただくんですが、上田さんとは違う回し方や独特な笑いの世界観、女子的目線を入れてやってくれるので、違った見せ方ができると思います。福田さんはいい意味で、『しゃべくり』を一歩引いて冷静に見てるなと思っているんです。他のメンバーがふざけすぎちゃったときにバシッと一言言ってくれたり、食べ物が出たときにみんながボケに走って感想を言わなかったりするんですけど、福田さんは自分のポジションを分かってくれていて、スタッフ側としては言ってほしいタイミングで「おいしい」といった感想を言ってくれて、毎回助けてもらってます。
――7人の座り位置は毎回固定されていますが、効果的に生きているフォーメーションだと思います。ゲストが後ろを向いて話すこともありますし、珍しい構図ですよね。
有田さんが一番外にいて、一番手に話してみんなを巻き込んでくれることもありますし、それと、ホリケンさんは上段にいるので、独特な絡みをゲストにしても、いい距離感があったりということもあるので、今のところはあの座り位置のままがいいと思ってますね。
●裏番組『スマスマ』終了も「ブレずに面白いものを」
――番組開始当初から裏にあった『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)が終了します。強力な裏番組が変わることに、思うところはありますか?
やっぱり私が会社に入る前からずっと見てきた大番組ですし、『しゃべくり』も裏で戦ってきて勉強になった面も大きいですし、影響を受けた部分も大きいです。誰もが知っている偉大な番組が終わるのは大きな出来事で、いろいろ思うことはありますし、初めて裏環境が変わるということで、どうなるんだろう…という気持ちはありますが、やっぱりブレずに自分が面白いと思うことで、視聴者の皆さんが見たいと思うことを、7人とスタッフで作っていくしかないと思っています。――まだ正式に後番組は発表されていませんが、芸能人の本性に迫っていく内容の番組になる模様ですし、TBSも1月から討論バラエティ『好きか嫌いか言う時間』が22時台に移動してきます。『しゃべくり』と視聴者層の近そうな番組が、裏に来る印象です。
うちも含めて、どれもスタジオバラエティですし、過激なことを言っていくような番組ですが、そこに引っ張られてはいけないと思うので、より自分たちのやりたいことのクオリティを上げていくしかないかなという感じですね。
――元日は恒例の6時間半スペシャルですね。
『しゃべくり』で唯一7人がロケに行く特番で、今回は芸能人の実家訪問をしたり、豪邸を見たりしていきます。スタジオパートでは、例年芸人さんのネタのコーナーをやっていたんですが、裏で『爆笑ヒットパレード』(フジテレビ)をやっているので、今回はいつもと違う芸人さんとの企画を予定しています。他にも高畑充希さんや綾瀬はるかさん、ジャニーズの方々、ミラ・ジョヴォヴィッチさんなど豪華なゲストの皆さんが数々いらっしゃいますので、ぜひご覧ください。
――今後やってみたい番組企画というのはありますか?
やっぱり私は、なんだかんだトーク番組が好きなんです。だから、今までにない目線の新しいトーク番組を作りたいなと思っていて、企画も考えているところです。
――最近テレビの規制が増えてきたということがよく言われますが、それを感じることはありますか?
私は2007年入社なんですが、その当時と比べても今は違いますね。番組をネットで何回も見られるようになったりとか、視聴者もSNSなどで発言できることが多くなったりとか、テレビへの接し方・見方が変わってきたと思うので、そういう中で見てもらえるものを作るしかないなっていう感じですね。それから、今までは「まあまあ大丈夫でしょう」と思っていたことが、視聴者の見る目が肥えてきて、ちょっとした違和感もバレるようになってきたと思います。なので、「これはやっちゃいけない」ということはすごく意識して、私を含めてみんなやっていますね。
――そんな藤森さんにとって、影響を受けたテレビ番組を1本挙げるとすると、何ですか?
実は小学校6年生くらいからずっとドラマっ子で、ドラマ志望で入社したんです。だから、影響を受けたドラマはたくさんあるんですけど、子供のときに最初に見て「ドラマっていいな」と思ったのが、『愛してくれと言ってくれ』(TBS)でした。そこから『ロンバケ』や『ラブジェネ』とか『恋ノチカラ』などを見て、今もドラマはすごく見ます。見ると妄想力とか想像力が付くので、ドラマは私の中ですごく大きい存在ですね。
――日テレさんでは『家売るオンナ』『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』をヒットさせた小田玲奈プロデューサーが、ずっとバラエティ制作にいて、ドラマに異動された例もありましたが、藤森さんもまだドラマ志望なのですか?
私はもう違いますね(笑)。あんまり女性・男性を分けて言いたくないんですが、バラエティには女性の演出がなかなかいないので、道を作るというわけではないですが、自分が面白いと思ったことをちゃんとやって、みんなに認めてもらえるように頑張りたいと思っています。
――TBSの坂田さんが、ゴリゴリでお笑いの演出をやるのは、フジテレビの亀高美智子さん以来だと、藤森さんに期待をかけられていました。ご自身の番組でADに女性がいると、やはりどこか意識はされますか?
はい。やっぱり頑張ってほしいと思っちゃいますね(笑)
――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている"テレビ屋"をお伺いしたいのですが…
福田雄一さん。独特な感性でやってらっしゃる『勇者ヨシヒコ』シリーズがすごく好きなんです。先日、「ダシュウ村と5人の神々」というタイトルで、テレビ各局をイジる回があったのですが、めちゃくちゃ面白いんですけど、よくあれができたなって思って(笑)。いつもブラックな笑いとギリギリのところをやってる方なので、どうやってアイデアを出して、自分の中にどこでGOを出しているのかを聞いてみたいですね。
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