ライバーで女優の漆畑瑠菜、二つの活動を両立するスタンス「自分に向いている」
●舞台出演3作目にして初主演
女優の漆畑瑠菜が主演を務める舞台『ゲートシティーの恋』が15日から19日にわたり、東京・下北沢の「劇」小劇場で上演される。
同作は、W・シェイクスピア作『ロミオとジュリエット』のモチーフを近未来に設定。出演者は全員女性で、漆畑は、遺伝子選別されたエリート達が暮らす壁に囲まれた「ゲートシティー」の外のスラムから、病の妹のため「いのちの盾」を盗みにきた青年・輝人役を演じる。
ライブ配信アプリ「17LIVE(イチナナ)」では、「アリエルな」というライバー名でイチナナライバーとしても活動している漆畑。女優を志した背景には、このライバーとしての活動が大きく関係しているという。彼女がいかにして芸能の道に興味を抱き、ライバーと女優の活動を始めるに至ったのか、その軌跡をたどった。
○■初主演舞台の稽古で成長を実感
――初主演おめでとうございます! 今回は歌唱シーンにも挑戦されるそうですね。
普段カラオケで歌う時は、歌手の方のものまねといいますか、その方の歌い方に寄せて歌うんですけど、舞台では自分の歌にしないといけないので、難しいです。
それにプラスして、その歌唱シーンに至るまでのストーリーもあって、お芝居をしながら感情を込めないといけません。普通に音程をとって綺麗には歌えていると思うんですけど、稽古では「もっと感情を意識してほしい」と言われます。
――今回演じる役柄は男性役ということもあって、歌唱シーン以外の部分のお芝居もより難しそうです……。
稽古に入ってから2週間くらい経つんですけど、結構苦戦していて……。輝人は17歳のヤンチャな男の子なので、私とは全部が正反対。しかも、食べるものにも苦労するようなスラム街で育ったという設定なので、輝人が育った環境がどんなところなのかをまず知ろうと思って、スラム街について自分で調べてみたりもしたのですが、まだ彼の気持ちになり切れていないなと自分でも感じます。まだ、歩き方や座り方も女性っぽくなってしまっているので、そうした部分も本番までに作り込みたいです。
――まだまだ稽古でこれから追い込んでいく期間ですもんね(取材は3月上旬)。
舞台出演は今回で3作目になりますが、手応えはいかがでしょうか?
これまでは登場シーンが少ない役柄ではあったんですけど、結構できているなという手ごたえがあって、周りからも褒めていただけていたんです。でも、今回主演を任せていただいて、全く違うなと。1作目、2作目と経験を積んで、ちょっとずつ自信をつけていたつもりだったんですけど、今までのような手応えが全然なくて。
今回はほとんど常に舞台に出ていることになるのですが、自分のセリフがないシーンの動きがまだ分からなくて、女優の活動を始めたのも他の方たちよりも少し遅いですし、自分が積み重ねてきたものがまだまだ少ないという自信のなさがそのシーンの時に出てしまっていて、よくご指摘を受けています。
――今は苦戦しているということですが、今回主演を務めることで、お芝居にもいい影響がありそうですね。
やらなきゃ分からないことがあるんだ、と思いました。1作目も2作目も主演の方が堂々と演じられていて、自分としてはその舞台で上手くできた感覚があったので、自分も頑張ったら同じようにできるのかなと思っていたんですけど、実際今まさに苦戦していて。
今思い返してみると、これまでは他の方のお芝居のどこを見たらいいのかも意識できていなかったのですが、今回主演として稽古に参加するなかで、他の出演者の方の動きやセリフの言い方を見て「自分はここができていないから、こうしてみよう」と学ぶことが増えているような気がしています。
●ライバーと女優を両立「自分には合っている」
○■ライブ配信でこぼれ落ちた本音
――続いて、漆畑さんが女優を目指したきっかけを教えてください。いつ頃から芸能の仕事に興味を持つようになったんですか?
高校生の時にTikTokを始めたら、1本目の投稿からちょっとバズって。最初は本当にノリだったんですけど、芸能の仕事に漠然と興味を持つようになりました。でも、芸能の道に進むには自信が持てなくて、高校を卒業したら、地元で就職するつもりでした。
そんな時に、「17LIVE」からSNS経由でライバーのスカウトを受けたんです。未知の世界ではあったんですけど、ライブ配信がどんなものなのか本社で説明をしていただいて、飛び込んでみようと思って。当時はもう高校3年生だったので、芸能の仕事に繋がるかもしれないという気持ちもなく、本当に好奇心でした。
――初配信のことは覚えていますか?
配信を始めてすぐは視聴者数が0だったんですけど、30分ほどしたら一人、二人と観てくれるようになって。
気づいたら、「芸能の仕事に興味があるけど、諦めて就職しようと思ってる」と話していて。――初配信からそんなに深い話を!
そうなんです(笑)。家族にも言えてなかった夢なんですけど、ライブ配信という環境が本音を言いやすかったんだと思います。そしたら、リスナーさんから「夢があるんだったら、絶対にチャレンジしたほうがいい」と背中を押されて。そのことに感動して、自分でも挑戦してみるべきだと思い始めたんです。それがちょうど高校3年生の夏で、最終進路を決める三者面談の時に「実は、芸能の仕事に挑戦したい」と泣きながら打ち明けました(笑)。
――先生もびっくりだったと思います(笑)。親御さんには事前に相談していたんですか?
全く言ってなかったので、びっくりしてました。
その時はもう吹っ切れていたので、自分のやりたいことをやろうと。それで就職するのはやめて、ひとまず地元で専門学校に進学することになりました。でも、ライブ配信関連の仕事が段々と増えて。自分は芸能の仕事に挑戦したいし、色々よく考えて、専門学校は辞めることにしました。
それから1年間は地元でライブ配信をやりながら、東京にも通って、いろんな芸能事務所で話を聞いていたのですが、活動の幅を広げるためには東京に住んでいたほうがいいと思って、上京しました。
――その時、ご家族の反応はいかがでしたか?
お姉ちゃんとお兄ちゃんがいるんですけど、二人とも頭が良くて、しっかりとしていて、それこそちゃんと進学して就職したのに、私だけ自由な性格で。親もそれを分かってくれていたようで、東京に行くと決めた時は応援してくれました。
○■ライバーから女優へ
――ご家族からも背中を押してもらって、上京できて良かったです。
その後、芸能の仕事のなかでもまず、女優業を始めようと思ったのはなぜなんですか?
「17LIVE」のオーディションイベントで、ある作品に出演してお芝居をする機会があり、それで少しずつ役者に興味を持つようになりました。そういえば、昔からドラマや映画を観て、役者さんってカッコいいなと思っていたなって。地元で就職しようと思っていた時は自分にはできないと思って自信がなかったけど、東京に出てきて、事務所にも入ってレッスンを受けるうちに少しずつ自信も出てきて、役者に挑戦してもいいのかなと思い、舞台のオーディションを受けました。
――これまで、モデルやタレントの活動を経てお芝居の道に進む方や、アルバイトをしながら役者として下積みをしていた方の話はよく耳にしましたが、漆畑さんのようなケースは珍しいと思います。この働き方をしてみて、実際のところいかがでしょうか?
他の役者の方から話を聞いていると、アルバイトをしながら舞台に出演するのはやっぱりスケジュール調整も大変らしくて。でも、ライブ配信だと自分で配信をする時間をある程度決められたり、ライブ配信から私のことを知って応援してくれているファンの方が舞台も観にきてくれたり、自分には合っているのかなと思います。
実は、高校生の時にライバーの活動を始めたので、アルバイトもしたことがなくて、ちゃんと社会で働いたことがないのはどうなんだろうって思う時期があって、東京に来てから、居酒屋でアルバイトをしてみたことがあるんですけど、本当にダメダメで……。一度他のアルバイトも経験してみて、今のライバーと芸能活動を並行して行うスタンスが自分にはとても向いていると気づけて良かったです。
――その経験があったことで、今の活動をずっと続けられているわけですもんね。では最後に、今後の目標を教えてください。
今はまだ女優としての活動は舞台だけなのですが、今後は自分が元々役者の仕事に興味を持ったきっかけでもある映像作品にも出てみたいです。「こういう作品に出たい」というこだわりはまだなくて、まずはいろんな作品に出て自信をつけながら、自分の可能性をもっともっと広げていきたいですし、役者の仕事に限らず、まだやったことのないことがたくさんあるので、積極的にチャレンジしていけたらと思います。
■プロフィール
漆畑瑠菜(うるしばた・るな)
2000年7月16日生まれ。静岡県出身。2018年に「17LIVE(イチナナ)」で「アリエルな」として配信をスタート。2022年9月、舞台『どーるはうす』で女優デビュー。同年11月、元AKB48の市川美織主演の舞台『放課後戦記2022』に出演。初主演舞台『ゲートシティーの恋』が3月15日~19日にわたり、東京・下北沢の「劇」小劇場にて上演される。