劇場版『TOKYO MER』松木彩監督が語る、俳優・鈴木亮平の“すごさ”とドラマ大ヒットの理由
●“嬉しさ”と“怖さ”があった『TOKYO MER』映画化
2021年7月期に放送されたTBS日曜劇場『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』。「コンテントアジア賞2022」のベストアジアドラマ部門で最優秀賞、「第109回ザテレビジョンドラマアカデミー賞」で最優秀賞を獲得するなど高い評価を集めた同作の劇場版が28日に公開された。ドラマ版から演出を務め、劇場版では自身初の映画監督を務めたTBSの松木彩氏に、劇場版制作の裏側からドラマ大ヒットの理由、再タッグとなった主演・鈴木亮平のすごさを語ってもらった。
○■ファン待望の映画化は横浜市バックアップで実現
――ドラマ版も演出された松木監督ですが、劇場版制作の一報を聞いたときはどのように感じましたか?
続編の話が浮上したのがドラマ終盤の撮影中。まさに佳境だったので、“今はそれどころじゃない! 目の前のドラマを完成させなかったら(映画にも)ならない!”という思いが強かったです。もともと黒岩(勉)さんの脚本がドラマできれいにまとまるように作られていましたし、まずはきちんとドラマを終わらせようと思っていたので、続編の話はあまり耳に入れないようにしていました。加えて正直、自分が映画を撮るということも想像していなかったので、改めて監督として『MER』の続編を作れるのは嬉しかったですが、怖さもありました。
――その怖さには、ドラマ『TOKYO MER』が作品として大きく成長したというのもあるのでしょうか?
そうですね。
続編を望んでいただけるということはありがたいです。ドラマの放送が始まって、観てくださった方から「映画みたいなクオリティ」という嬉しいお声をいただいて、いつか劇場版でやれたらいいよねと夢物語程度に話していたものが実現するとは……といった思いです。
――今回の劇場版では横浜・みなとみらいを舞台にさらにスケールアップしたMERの活躍が描かれています。実在する場所や地名を出して、現地で撮影することにこだわったそうですね。
物語の特性上、ドラマ版のときは爆発がNGとか、事故が起こるとイメージがよくないという理由で実現しなかった撮影も多かったんです。ただ、今回は横浜市の皆さんが快く撮影を許可してくださって、改めてなんて懐の深い街なんだと……。劇中ではランドマークが燃えるというシチュエーションにもかかわらず、実際の展望室でも撮影をさせていただいて、横浜市に支えられて実現した映画といっても過言ではないです。
○■火と水に囲まれた、気温40度の過酷な撮影現場
――また、ドラマ撮影時から賀来賢人さんや要潤さんが口をそろえて「過去一キツイ作品」と言っていた『MER』ですが、劇場版の撮影もかなり過酷だったとか。
ランドマークタワーの非常階段のシーンはとくにハードでしたね……。日本でも暑いと言われる群馬・伊勢崎に約11mの高さの階段セットを作って撮影をしたのですが、気温40度を超える猛暑のなか、狭い密閉された空間で火と水を使っていたので、演出のことだけでなく、安全面という意味でも緊張感のある撮影でした。多くのエキストラさんにも参加いただいているなかで、(鈴木)亮平さんが色んな方に気を配って声をかけてくださったり、スタッフも「ここ滑るよ!」と互いに注意喚起しながら、チーム一丸となって乗り切ったシーンですね。その過酷さがもたらした緊迫感が映像にも映し出されているかなと思います。
――キャストの皆さんもエキストラさんもただ階段を下りるだけでなく、要救護者役の人を運びながらだったり、ケガをしている役を演じながら行うのも大変ですよね。
要救助者役の方や運んでいる方を、受け身を取れるスタントさんにお願いするなど、スタントチームと密に連携を取って撮影を行いました。俳優部はもちろんですが、各セクションにも協力をしてもらいながら実現したシーンでもあります。
このセットを建てた倉庫を貸してくださった方もですが、みなとみらいの撮影でもたくさんの方にご協力をいただきました。
今回そういったご協力をいただけたのも、ドラマを多くの方に観ていただいたおかげだなと感じます。
○■劇場版からでもわかる作品づくりドラマファンに向けた仕掛けも
――幅広い世代の方に支持されてきた作品だからこそ、このスケールでの劇場版が実現したんですね。
ドラマが放送されたのもちょうど夏休み期間で、まだまだステイホームの時期でもあったので、大人だけではなくて、小さい子たちにもわくわくしてもらえるような作品になれたらと思っていました。ドラマ放送時には、作品を観たお子さんが、亮平さん演じる喜多見先生に宛てて手紙を送ってくれたこともあって。私自身、ドラマ制作に携わってそういったことが初めてですごく嬉しかったのを覚えています。
――また、劇場版ではドラマとリンクして対比的に描かれているシーンも印象的でした。
ドラマのときから、どの話から観ても楽しめるような作りを意識していたので、基本的には劇場版から観てもわかるように、そして楽しめる内容になっています。ただ、ドラマから観てくださった方だけが気づくポイントというのもふんだんに用意しました……! 黒岩さんが脚本に書いてくださったものもそうですし、小ネタじゃないですが、個人的に仕掛けたものもあります。
●フィクションとリアリティの両立を支える技
○■俳優・鈴木亮平の“すごさ”とは
――ドラマ版から引き続き、主演は鈴木亮平さんが務め、再タッグになりました。
実は亮平さんとはなにかとご縁がありまして。私がドラマ部に配属されたばかりの新人ADのときに、日曜劇場『天皇の料理番』(15年)というドラマで初めてご一緒してから、ディレクターになってから『テセウスの船』(20年)、チーフ演出になって『TOKYO MER』と節目節目で支えていただいてます。初めての映画監督作品の今作でも主演として現場を引っ張っていただいて、胸を借りてばかりです……。
――振り返ってみると縁を感じますね。役柄によって体型まで変えてしまう役作りのストイックさなどで知られる鈴木さんですが、これまで様々な役柄の鈴木さんを見てきた松木監督だからこそ知る“鈴木亮平のすごさ”とは?
いろんなところを俯瞰で見ている視野の広さ、手を抜くことを知らないストイックさ、人としての器の大きさですね。体の大きさもですが、全部が“でっかい”んですよね(笑)。どの作品でも現場の状況や自分の役を含めて周りを見ていて、現場のすみずみまで意識が行き届いています。
新人のスタッフが困っているとすぐに気づいて声をかけている姿もよく見かけました。
あとは皆さんもご存知の通り、“この人に妥協という言葉はあるのだろうか”と思うほど全く手を抜くことを知らないんです。今作でも、私が火の勢いを少し弱めようとしたら、亮平さんから「それでいいんですか?」とたき付けられたり(笑)。こっちが妥協してもバレてしまう。普通ここまでストイックですごい俳優さんだと、自然と近寄りがたくもなると思うんですが、どんなに追い込まれた現場でもいつでもオープンな雰囲気なのもすごいところ。お芝居に熱が入って現場が萎縮してしまいそうになると、クレーンに激突したり、滑って転んだりお茶目な部分を見せてきて、それもずるいんですよね(笑)。
『TOKYO MER』の喜多見は、亮平さんに当て書きしたキャラクターと伺っていますが、本当に喜多見と亮平さんは似ていると思います。作中のセリフでもあるように「あの人がいればなんとかなる」という安心感があります。
○■SixTONESジェシーは“コミュ力おばけ”演技の順応力にも驚き
――また、ドラマキャストに加えてTOKYO MERメンバーにジェシーさんが参加されました。チームに新たな風を吹き込んだような印象でしたが、監督から見たジェシーさんの印象はいかがでしたか?
一言でいうと“コミュ力おばけ”ですね。ドラマからずっとやってきたある種、完成されたチームに入ってくるのってプレッシャーもあったと思うんですけど、スッといつの間にか溶け込んでいました。 もちろん、亮平さんをはじめMERメンバーの皆さんがウェルカムな雰囲気で受け入れてくれたことも大きいと思うんですけど、参加しているという雰囲気ではなく、元々いましたみたいな空気感で、制作側にも一切気遣いをさせないコミュニケーション能力には、助けられました。また、画という面でもMERメンバーは皆さん身長が高いんですけど、ジェシーさんも身長が高くて手足が長いので、見た目・見栄えも違和感がなくてハマっていましたね。
――イメージ通りといいますか、さすがですね。演技の面ではどういった印象を持たれましたか?
小手先のテクニックでという方ではなくて、シンプルかつナチュラルにお芝居をされている印象です。ドラマからのキャスト陣はドラマから何度も医療シーンのリハーサルを重ねてきたのですが、今作ではあまりリハーサルの時間をとることができなかったんです。
ジェシーさん演じる潮見も医師だったので、短いリハーサルで手術シーンに参加してもらうことになってしまって。
手術シーンって手元を気にしすぎると、お芝居がおろそかになってしまったり、難しいんですが、ジェシーさんは気後れすることなくあっという間に順応していて驚きました。すごいことをやっているのに、すごいことをやっている感がない自然体な感じが魅力だと思います。
○■もう1人の主人公・TO1、登場シーンにこだわり
――さらに、今作の象徴ともいえるERカーも劇中ではキャストに劣らない活躍でした。先日行われた完成報告会見でも登場しましたが、ERカーへのこだわりはありますか?
今回、作中でYOKOHAMA MERが乗るYO1という新たな車両が登場していますが、TO1はドラマ版から変わらず同じ車両を使用しています。個人的にTO1はTOKYO MERのメンバーでもう1人の主人公だと思っているので、劇場版冒頭のTO1登場のシーンはとても思い出深いです。
ドラマ当時もTO1が走っているカットをたくさん撮影してきたんですが、どうしても都内ではのびのび走ることができなかったんです。ですが、今回、南紀白浜空港さんが旧滑走路を貸してくださり、思い切り走らせてあげることが実現しました。全力で走っている姿を初めて見たときは感慨深かったですね。
○■ヒットの理由は「フィクションとリアリティの両立」
――最後に、今作はドラマ版が「コンテントアジア賞2022」のベストアジアドラマ部門で最優秀賞、「第109回ザテレビジョンドラマアカデミー賞」最優秀賞を獲得するなど、昨今ではあまり多くないオリジナル脚本のドラマが映画化されるほど多くのファンを獲得しましたが、その理由は何だと考えますか?
分析が得意ではないので、個人的な意見にはなりますが、やはり黒岩さんの描かれる世界観、そしてフィクションとリアリティの両立なのかなと思います。
私自身、原作がある作品にも多く携わってきましたが、オリジナル作品は、手探りで作る怖さがあるのと同時に、何にも縛られずに世界観を一から作り上げることができる楽しさもあります。黒岩さんはとても懐の深い脚本家さんで、現場で起こる化学反応を大事にしてくださって、現場で生まれたセリフも脚本に取り入れてくださいました。そうして、のびのびとやらせてくださったおかげで皆さんに愛される『TOKYO MER』の世界観をつくり上げることができたのかなと思います。
また、医療をテーマにしたドラマ作品で、ここまでエンタメに振り切ってやる作品も多くないなか、『TOKYO MER』はかなり大きく振り切って制作しました。そんな中でも医療ドラマとして成立したのは亮平さんはじめとするキャスト陣の医療シーンの技術や演技力の高さのおかげだと思います。
かしこまったことを言ってしまいましたが、結局理由としては単純に観ている方がドキドキ、わくわくできるところだといいな、と思います。劇場版もぜひドキドキわくわくを楽しんでもらいたいです。
■松木彩
2011年にTBSに入社。ドラマ『天皇の料理番』(15年)、『カルテット』(17年)、『テセウスの船』(20年)などを制作。ドラマ『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』でチーフ演出を務め、同作で第109回ザテレビジョン ドラマアカデミー賞監督賞を受賞した。劇場版『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(28日公開)が全国東宝系で公開中。