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魚を食べると本当に頭は良くなるのか? - 脳に必要な栄養素「DHA」の秘密 (1) 味の素が子供向けDHAサプリメントを発売

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魚を食べると本当に頭は良くなるのか? - 脳に必要な栄養素「DHA」の秘密 (1) 味の素が子供向けDHAサプリメントを発売
○海外で拡大するDHAサプリメントビジネス

魚を食べると頭がよくなる、といった話が日本では10年以上も前から何度も話題になっている。果たして、それは本当なのだろうか?。

そうした話題の中で頭を良くするものとして取り上げられるのが、魚は「DHA(ドコサヘキサエン酸)」を豊富に含んでいるということ。このDHAなる存在の正体は脂質、いわゆる油だ。

なぜこの油が頭を良くすると言われているかというと、脳を構成する栄養素の約4割がタンパク質、そして残りの約6割が脂質である。そしてその脂質のうち、約20%がDHAが占めているのである。実は近年の研究から、DHAが不足すると、細胞膜が固くなり、神経細胞の動きが鈍ったり、情報伝達の機能が弱くなったりして、その結果、さまざまな異常行動などを引き起こしている可能性があるといった報告がなされるようになってきた。

こうした背景から、海外ではDHAのサプリメントビジネスが年々拡大を続けている。
日本ではあまりそういったサプリメントビジネスが盛んではないので実感することはない。なぜか。食の西洋化が進んだ現代であっても、日本人がまだまだ魚介類を他国の食卓に比べて多く食していることもあるだろう。

しかし、日本の魚介類離れは着実に進んでいることも事実だ。ちなみに、海外・国内問わず、DHAのサプリメントとして販売されているものの多くは魚の油を由来としたもので、無味無臭というわけにはいかず、モノによっては口に含むと、魚臭さを感じたり、魚の油っこさがしばらく口の中に感じられたり、といったものもある。そんな中、魚ではなく海藻由来のDHAサプリメントの販売が海外では市場規模を伸ばすようになってきた。日本では、まだまだ馴染みがないが、味の素が2014年4月4日より、海洋由来DHAを活用した子供向けサプリメントの販売を開始した。

味の素は、発売開始の2日前の4月2日に、DHAに関するセミナーを開催しており、その中で、オックスフォード大学のAlex Richardson上席研究員が、子供の脳とDHAの関係性について、どういった研究がなされ、どのような結果が報告されているのかといったことを説明したので、その模様をお届けしたい。
ちなみに同氏、味の素に海藻由来DHAオイルを提供するオランダRoyal DSMの支援を受けてDHAと子供の脳の関係性の研究などを行ってきており、今回の発表も、そうした研究成果をベースとしたものとなっている。●DHAは健康なヒトの身体を支える縁の下の力持ち的な存在!?
○DHAの存在は脳にどのような影響をもたらしているのか

現代の先進諸国の食事風景は先述のとおり西洋的、いわゆる肉類を中心としたものが大半を占める。よくカロリーオーバーという指摘がされるが、その摂取カロリーに占める脂肪の割合が増加(油分過多)している状況ともいえる。そうした状況を鑑み同氏は、「ジャンクフード的な食事の摂取が健康への悪影響を及ぼすと言われていうが、実は脳にも影響を与える点にも注意を促す必要がある」とする。

実際のところ、どのように脳に影響を及ぼすのだろうか。脳の60%が脂肪であることを考えれば、ある程度の油分を摂取することは理に適っている。しかし、その多くは、植物や肉、乳製品などを由来する、いわゆる「オメガ6系」と呼ばれる脂肪酸で、必須脂肪酸としてリノール酸などが知られている。一方で、DHAなどが属するオメガ3系は、緑色葉野菜や海藻、一部のナッツと種子の油に含まれる短鎖多価不飽和脂肪酸であるαリノレン酸を除いたEPAやDHAなどは魚類や海産物に多く含まれており、そうしたものを摂取しなければ、体組織中におけるオメガ3の濃度は下がる一方ということになる。


そうした中、さきほど脳の構成要素にDHAが含まれるとしたが、脳内の細胞膜を正常な構造として維持しようとすると、構成要素の6~10%をDHAが占めている必要があるが、オメガ3の濃度が下がればそうした維持も困難になってくる。そうなるとどうなるかというと、DHAの脳内での役割を考えるとわかりやすい。DHAは脳内ではシナプスに特に集中して存在し、ドーパミンやセロトニンなどのシグナル伝達物質の濃度を密接に関係している。DHAが脳内で欠乏してくると、セロトニンの濃度もすぐに低下していくことが判明している。

セロトニンは人間の精神面に影響を与える物質として知られており、一部では「幸せ物質」とも言われているほか、うつ病にかかると、数が減少することなどが知られており、抗うつ薬ではセロトニンなどの量を増やす仕組みが取り入れられている。DHAは胎児の時点で胎盤から選択的に供給され、出産後もわずかずつだが母乳から乳児に供給される。そのため、「もし母乳での育児が難しいのであれば、育児用の調整乳の存在が重要になってくる」と同氏は説明する。もし母親がDHAが不足した状態で胎児に十分にそれを供給できなければどうなるか。
2009年の研究では、胎児の脳内シナプスが十分に与えられた場合に比べて、欠乏した状態になることが報告されている。また、網膜の重量の30~50%がDHA(全脂肪酸の50~60%)であり、DHAが不足すると網膜のシグナル伝達がほぼゼロまで低下してしまい、その結果、視覚、空間、注意処理などに関するさまざまな障害にもつながることとなるという。

こうしたDHAの欠乏が、日本でも近年社会問題として取り上げられるようになってきた発達障害/行動障害である「注意欠陥・多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity Disorder:ADHD)」と関連している可能性がでてきている。ADHDは、米国でも10%の子供に症状が確認されており、英国でも7%の子供が当てはまるという。また、ADHDと重なる症状として、失読症や統合運動障害、自閉症スペクトラムなどがあり、それらに該当する人も含めるとかなりの数となることが想像できるだろう。「こうした診断名は単に診断書に記述された名称であり、その本質に迫ったわけではない。実際に、個人ごとに掘り起こしていくと、さまざまな要因が関わっていることが見えてきた。こうした症状は、身体的な疾患症状と同じように見てはいけない」(同)とのことで、例えば英国では5人に1人、つまり20%の学童が統合運動症や失読症の傾向があり、それに対応する特殊な教育を受けたいというニーズが存在すると指摘する。


そうした仕組みの解明に向けた同氏の研究チームが2013年にPLoS One(現PLOS ONE)に発表したDHAと学習および行動に関する研究では、長鎖オメガ3脂肪酸の血中濃度と英国の小児の認知能力や行動の低下には関連性が見られたという報告がされている。すでに先行して実施されていた成人による検査では、オメガ3(EPA+DHA)の赤血球に含まれる比率が低いほど、心血管疾患リスクが上昇するという報告がなされているが、この7~9歳の英国の普通の子供たち500名を対象に実施した研究でも、指先から採取した血液から脂肪酸組成を分析した結果、その平均値は高リスク(4%以下)に当てはまる2.46%であったという。親へのアンケート調査として、週にどの程度魚を食べているかを聞いたところ、約90%の子供は週に2回未満で、内9%はまったく食べていなかったという。ちなみに、英国政府が出している食事指針は、週に油分の高い魚2切れを食べるべきとしている。また、血中DHA濃度と英単語の読み能力を493名を対象に実施した調査では、濃度が高い子供ほど、読み能力が高い傾向にあるほか、器用度や認知能力が高いことが確認されたとも報告されている。

さらに、血中DHA濃度とADHD型の症状との関連性の調査では、濃度が高いと、注意力や行動に関する問題が少ないという相関関係が見られたという。

●魚を食べると、本当に頭は良くなるのか?
○DHAの摂取と頭がよくなることに関係性は本当にあるのか?

では、こうした問題行動を起こす子供に対しDHAを多く摂取させるとどうなるのか?。2005年の「発達性強調運動障害児を対象とした脂肪酸の食事補給に関する無作為化対象試験」という論文で、普通学校に通う協調運動に特定の困難が見られる学業不振児童117名(対象の40%が読みと発音(スペリング)が年齢として期待される習熟度に達していない、30%超が臨床的ADHD型の症状のカテゴリに含まれる)を対象にした研究では、魚油とプラセボの摂取を3カ月にわたって行ってもらったところ、魚油を摂取した群では、正常児に期待される上達と比べて、読み能力は通常の速度の3倍超、スペリング能力は2倍超の上昇が見られたとするほか(プラセボ群では、読み能力は通常速度の1倍、スペリング能力は0.5倍未満の上昇となった)、ADHD型の症状も軽減されることが確認されたという。
また、2011年の研究でも魚油由来のオメガ3がADHD症状の軽減に有効であることが報告されている。

ただし正常な7~9歳の子供ではどうか、という試験結果が2012年のPLoS Oneに報告されている(正常能力ではあるものの、読み能力は33パーセンタイル未満)。こちらはというと、対象360名を海藻由来DHAを1日600mg摂取する群とプラセボ群に分けて16週間摂取してもらい、読み、行動(ADHD型の症状)、作動記憶(ワーキングメモリ)にどの程度の変化があったかを調べたもので、一定の効果はあったものの、統計的な有意が見られなかったという。ただし、下位20%ないし10%の集団に限ると、DHA摂取群は下位20%で20%向上、下位10%だと50%の読み能力向上が確認されたという。

また、2014年3月の最新の研究としては、395名の子供を対象に血中DHA濃度と睡眠時間の相関関係を調べた論文が発表されているが、こちらは、血中DHA濃度が低いと臨床的な睡眠の問題が多くみられたが、DHAの補給(600mg/日)により、そうした睡眠の問題が有意に改善され、プラセボ群と比べて睡眠時間は約1時間延ばせることが確認されたという。「脳に十分な栄養が行きわたり、休息を十分に取れれば、学習はずっとスムーズになる」と同氏は語る。そのためにもEPAやDHAの摂取が重要になってくるわけだが、ではどの程度を摂取するべきなのか(ただし、植物由来の短鎖オメガ3には長鎖同様の健康効果はないので、魚などの長鎖オメガ3を摂取するべきだとしている)。国際的科学機関の推奨値は、一般集団(心血管の健康)では1日当たり500mg未満、抑うつやその他の精神健康の状態では1000mg未満、先進国の多くの標準的な摂取量が150mg以上で、英国・ドイツでの推奨量は250mg、フランスが500mg、ノルウェー450mg、そして日本では1000mg(1g)以上が望ましいとなっているが、日本の実際の摂取量は目標値よりも350mg以上少ないと言われており、政府もこの問題について認識しているが、同氏は「海外が低いのだから、といってそれを迎合するような動きは採るべきではないし、絶対に引き下げるべきではない」と強い口調で、むしろ目標値にどうやって実際を引き上げていくかを議論していくべきだとした。


なお同セミナーでは、管理栄養士・料理研究家の小山浩子氏がオメガ3とオメガ6のバランスとして、7:3が良いとし、オメガ6は普段の生活で十分に摂取できているので、オメガ3を意識して子供のおやつなどに取り入れて行ってもらい、できれば子供と一緒におやつを作るといった食を通しての思い出作り、心の栄養の方の充足も意識してもらえればとして、マグロのツナやサクラエビ、イカそうめん、さくらでんぶ、ひじきなどを活用したおやつの紹介を行っていた。

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